#69 力こそ正義……?
「ふんっ!」
力んだ声と共に、真紅の球体がコースを駆ける。しかし、その軌道は突然に予期せぬ方向転換を見せた。
「あっ、おい待てって!」
声を上げたところで、もう遅い。すでに俺の手を離れた以上、相棒を止めることはできなかった。そして、逸れた軌道を修正できないまま、相棒はコース裏の闇へと消える。
「嘘だろ……一つも倒れなかったぞ……」
絶望し、俺は膝から崩れ落ちる。落ち込んだ自分の顔が光沢のある床に反射し、余計に惨めに映った。そんな俺の肩に、茂木が手を乗せる。
「まぁまぁ、初めてにしては投げられてる方だと思うよ」
対戦形式という名目なのに優しい男だ。しかし、これは慣れている人間の慈悲とも言える。だから、俺はその言葉に噛み付きたくなってしまった。
「でも、ボウリングってピンを倒すゲームだろ? 投げられるだけじゃ意味ないって」
「それは否定できないね」
それだけ言って、茂木はボールに指を通す。次は、茂木の番だ。俺は大人しく後方の席へと戻る。
「友哉、壁にぶつかったようだな」
席に着くと、堂島が小さな声で話しかけてきた。まだ最初の二投を終えただけだ。壁というよりも、小石に躓いたという感じだろうか。
だが、わざわざ茂木に聞こえないように近づいてきたのだ。堂島には何か言いたいことがあるのかもしれない。とりあえず、話を合わせておこう。
「そうだな、こんなに難しいとは思わなかったよ」
「そこで、俺からアドバイスだ」
堂島が顎で指し示したのは、今から球を投げようとしている茂木だ。
「上達への近道は、上級者の動きを観察することから始まる。どのような足運びか、腕の振り方は、力の入れ具合や抜き具合、球を放るタイミング、連なって見える動きのそれぞれを自分なりに紐解くんだ」
堂島の言葉の後、茂木が動き出した。球を胸の前で持ち、じわじわとコースの手前へと迫る。やがて、右腕を後ろに引く動作が加わった。その状態で数歩、ラインギリギリでの左足の踏み込みと同時に、振り子のように動かされた腕からボールが投げられる。
茂木の相棒は、磁石で引き寄せられるかのごとく、ピンの中心へと一直線に転がっていく。その結果は、見事ストライクだった。
敵ながらあっぱれ。俺は思わず拍手をしてしまう。
「やるな、颯斗。俺も負けてられんな」
「堂島のことも参考にさせてもらう」
「友哉もライバルだが、俺は対戦相手が強ければ強いほど燃える。ぜひ、実践してくれると嬉しい」
席を離れる直前、堂島は力強く俺の肩を叩き、茂木と入れ替わる。
戻ってきた茂木は、解けた様子で俺に笑いかけてくる。
「友哉の手前、格好いいところ見せなきゃと思ってたから、良かったよ」
経験者の意地といったところだろうか。悪いな茂木、その技盗ませてもらう。
「ストライクって、あんな簡単に出るものなのか?」
「そうだね……さっきのは運が良かったかな。僕は、そんなに力が強い方じゃないからさ。真ん中に行っても倒し切れないことがあるんだよね」
一方、堂島にそのへんの心配はいらなそうだ。なんて思っている間に、準備完了した堂島がフォームに入っていた。
茂木と似た動きにも見えるが、その全てが猛々しく、力に満ち溢れている。離れているにもかかわらず、体から放たれる熱がこっちにまで届いていた。
「ふんっ!!」
短い声で、勢いよくボールがコースへと投げられる。茂木のものとは比較にならないほどの剛速球が、災害のようにピンの集団を粉砕し、上部のモニターにストライクの表示。
「おいおい……これの何を参考にすればいいんだよ……」
結局、慣れ始めた俺が茂木に善戦したものの、この試合は堂島のパワープレイに全てを持っていかれてしまった。
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