#68 夢への三人四脚
それからというもの、漫画を読んだりテレビゲームに興じたりと楽しい時間を過ごした。だが、所詮は男子高校生の一人暮らし。娯楽の数は限られている。昼過ぎにもなると、目的もなくダラダラとし始めてしまう。
「そろそろ、場所移すか?」
「僕は構わないよ」
「俺もだ」
家から出るとして、どこへ行こうか。さっき昼食は取ったからファミレスは微妙だ。というか、行っても雑談するだけだから家と変わらない。
こういう時、陽キャ達はパッと行き先を決められるものなのだろうか。
「二人はなんか希望あるか?」
俺が思いつく場所には限りがある。これまで友達と遊んできてないから尚更だ。できれば、案を出してほしかった。
「む……俺は特にはないな」
「希望と言われると、正直なところ僕もないかな」
困った。これでは議論が全く前進しない。途方に暮れかけた俺の鼓膜を、茂木の「でも」という言葉が震わせる。
「友哉になら、希望があると思うんだ」
「俺か?」
「なんだ、気付いてなかったのか。例のノートがあるだろ?」
「あ、そういうことか!」
どこか行きたい場所が、やってみたいことが青春ノートに書いてあるんじゃないのか。茂木はそう言いたかったのだ。
匂わせた茂木、察した俺に置いていかれ、堂島は困惑を顔に張りつけている。
「例のノート? 一体なんの話だ」
「友哉はね、高校生活の間にやりたいことをノートにまとめてるんだよ。せっかくなら、それを叶えようってことさ」
「それは面白そうだ! さぁ友哉、どこでも好きな場所を選んでくれ! 俺達が必ずや夢を叶えてみせる!」
途端に気合いのスイッチが入った堂島は、俺の両肩を掴み、体を激しく揺さぶってくる。答えようにも、全身を襲う衝撃のせいで舌を噛みそうだ。
ロックバンドさながらのヘッドバンキングは、茂木の制止によって中断される。フラフラとよろめく俺に、茂木が笑いかけた。
「薫もこう言ってることだし、友哉が行き先を決めてくれ」
「わ、分かった……」
千鳥足になりながら、クローゼットの制服のもとへ向かう。手探りでポケットからノートを取り出し、中身を確認していった。
文字で埋まったページの中、ぴったりの項目を見つける。
「これだ……」
「どこだ? 俺達はどこへ行けばいい?」
「ボウリングに行こう」
そうして、適当に身支度を済ませ、俺達は近所のボウリング場を訪れた。ボウリングだけじゃなく、スポッチャやカラオケ、卓球台などが併設された施設もあるそうだが、時間も限られている。全てを遊びきれず、勿体ない気分を味わいたくはない。
初めて来たということもあって、入口を抜けてからはずっとソワソワしている。サイズを選ぶと自販機のように出てくるシューズや、種類ごとに並べられたボールの数々は、驚きと共に記憶された。
ボールの群れを練り歩いて、ようやく投げやすそうな個体と出会う。真紅を宿した球体――その身に開けられた穴は、俺を見つめてくるようだった。
「……頼んだぞ、相棒」
なんて、芝居がかったセリフが出てきたのも、きっと探す時間が長かったせいだ。
「友哉、できるなら相棒は二つ持ってきた方がいいよ。たまに、自分の番なのに戻ってこないことあるからね」
「あ、ああ! 分かった、二つ持っていく!」
茂木は俺の背後にいたらしく、俺の発言を引用されてしまった。俺は恥ずかしさを堪えきれず、裏返った声で応じる。
多分、今の俺の顔は、腕の中のボールと同じくらい赤くなっていることだろう。
全員が思い思いの相棒を持ち寄り、いよいよボウリング大会の幕が切って落とされた。
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