#67 俺(僕)のしたいこと
「ようこそ、我が家へ!」
週末、俺の家は珍しく賑やかになろうとしていた。
「お邪魔します」
「お邪魔する」
玄関に靴が二足以上並ぶのも、これが初めてのことだ。俺は扉を開けて、来客――茂木と堂島を居間へと案内する。
俺にとっては見慣れた家だが、二人は感嘆の声を漏らしていた。
「これが一人暮らしか、すごいね」
「ああ、大人って感じだ」
「いや、そこまででもないぞ?」
素直な褒めがむず痒くて、頭を掻いてしまう。癖になる前にやめておかないと、九条のテンプレ反応みたいになりそうだ。それで井寄に揶揄われたら、恥ずかしい。
俺は、中心に鎮座するソファを二人に勧める。腰掛けたのを確認してから、俺は飲み物を取りにいった……と思わせて!
「さて、二人は何を話してるかな……」
台所に身を潜めて、俺は居間の様子を窺う。
褒められたのは悪いがしない。だが、本人がいないからこそ出てくる本音というのもある。茂木や堂島を疑っているわけでもない。ただ少しだけ、興味が湧いたのだ。自分が、友達からどう思われているのか。
「一人暮らしって、憧れるよね」
「分かるぞ、その気持ち。実家でも十分に満足してるが、一度はしてみたくなるものだ」
「やっぱり、食事は自分で作ったりしてるのかな?」
「む、そうなると俺には中々ハードルが高い。まだ、野菜の切り方もよく分からない……」
「ははっ、僕もだよ」
話題は、無難に一人暮らしに関するものだ。俺も、とんでもない運に味方されなければ、一人暮らしをしてなかっただろう。それに、一人暮らしを決意したからこそ、今の高校を受験して、結果として通うことができている。そのおかげで、みんなとこうして出会うことができたのだ。言ってみれば、奇跡のようなものだった。
(人生何があるか分からない、ってことを十六歳にして実感することになるとはな)
入学してからも、俺は奇跡を目の当たりにした。小学生の頃に一度だけ会った迷子の少女――明海との再会。元々同じクラスではあったが、一生縁のない人種だと思っていた。それが、数ヶ月の間で友達を飛び越えて恋人にまで発展した。きっかけになった青春ノートは、現在進行形で埋めている最中だ。今日だって、『友達を家に招く』を達成した。
「お金周りのことは僕もよく分からないけど、コンビニ弁当とかならやっていけるんじゃないか?」
「食べ盛りの高校生にとっては、茨の道ってことだな」
申し訳ないが、俺の一人暮らしは他の人達のものとは違っている。一番の難所である金銭面で躓くことがないからだ。
俺が苦労しているという結論に至り、二人は何やら「今度飯を奢ってあげよう」とか話し始めている。やめてくれ! 奢るなら俺の方が絶対いいから!
「なぁ、友哉のやつ遅くないか? 台所に引っ込んでからかなり経ってるぞ」
「……っ!」
突然自分の名前を呼ばれ、慌てて身を隠す。いつの間にか、話に夢中で随分と体を乗り出してしまっていた。見つかってないだろうか。
茂木が一瞬台所へと目を向けたが、俺に声がかかることはなかった。
「そうだ、友哉といえば」
「なんだいきなり」
「いいから聞いてくれよ」
何を思ったか、茂木が俺の話をしようとしていた。果たして、どんな内容が語られるのか。俺は緊張で固唾を飲んだ。
「この数週間、友哉には助けてもらってばかりだったんだ。もちろん、薫にも手伝ってもらったけどね」
「あれ、うまくいったんだよな?」
「当たり前だろ? これで、やっと桃との関係を進めることができるんだ。だから僕は、友哉に感謝している。本当は直接言うべきだけど、僕も照れ臭いから盗み聞いてもらったよ」
「なっ……!」
バレていた。驚きで、背中からひっくり返ってしまう。
すると、ドタドタという激しい音と共に堂島が現れる。
「友哉、大丈夫か!」
「あ、ああ……大丈夫だ……」
見上げた堂島の傍ら、顔を覗かせる茂木と目が合った。
「良かった、無事みたいだね」
「なんとかな」
差し出された手を掴み、茂木に体を引き上げられる。いつぞやの『友達に立ち上がらせてもらう』を、また書き加えてもいいかもしれない。
同じ目線に立ってから、俺は茂木に言った。
「それと、俺は自分がしたいと思ったことをしただけだ。礼を言われたかったわけじゃない」
「したいこと……盗み聞きのことかな?」
「お、おい!」
「冗談だよ。でも、ありがとう。友哉風に言うなら、このお礼は僕がしたいことなんだ」
こんな風に誰かと語らい、認め合える日がきたことを心の底から嬉しいと思う。そして、こういう時間を大切にしたいと感じた。だからこそ、やっぱり。俺にとって一番大事な人、明海とは元の仲に戻りたいと実感した。
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