#65 エクストラバトルの幕開け
「九条、どこに行くつもりなんだ?」
教室で「用がある」と言われ歩き始めたものの、九条の目的はさっぱりだ。わざわざ場所を移すなんて、何か教室じゃ都合が悪い理由でもあるのだろうか。
俺の呼びかけに、半歩以上先を歩いていた九条は振り返る。
「どこでもいい。人気のないとこなら」
それだけ言って、九条はまた歩き出す。
「……そうか」
俺が零した呟きは、九条の背中には届かない。仕方なく、俺は再び九条を追うことにした。
目指す先は、人気のない場所。井寄の誘いを断った九条は、『残ってやることがある』と言っていた。これがそのやることだとして、俺に自分が関係しているという心当たりはない。
やがて、体育館裏に到着すると、九条は足を止める。ひとまず、この旅の終着点はここに決まったようだ。
わざわざ人が来ない場所だから、人気はない。けれど、体育館内で活動している生徒達の声は、俺と九条の間に流れる静寂を意識させないくらい熱を感じさせた。
「そろそろ、ここまで来た理由を教えてくれないか?」
「新宮君に聞きたいことがあったの。でも、他の人には絶対聞かれたくなかったから」
それが、登場人物を俺だけに限定した理由だった。
「それで、聞きたいことっていうのは?」
「昼休みのこと。モテ男君が嘘吐いてたって謝ったでしょ」
「あー、彼女と別れたって話か」
それらしい相槌を打つ俺に、九条は一瞬不服そうに眉をひそめたが、すぐに「まぁいいか」と首を振る。
そして、ついに話の核心に触れた。
「あれ、新宮君が考えたの?」
九条から向けられる視線は、昼休みのあの時、茂木に注がれていたものと同じものだ。一挙手一投足を備に観察されているような、そんな感覚に全身がそわりとする。
「ごめん、言い方変えさせて。あれ、新宮君が考えたんだよね?」
「……どうして、そう思うんだ?」
こうして誤魔化そうとすることさえ、今の九条には筒抜けなんじゃないか。そう思うと、多少とはいえ答えに詰まった自分が恨めしい。
しかし、九条の断定は別の根拠に基づいたものだった。
「昨日、急にLINEしてきたよね。自分の話が終わるまで口を挟まないでくれって」
「したけど、あれはデートの相談をしようと――」
「じゃあ『できれば、混乱させたくないんだ』っていうのは? 私、デートの相談で動揺なんてしないけど」
茂木が彼女と別れていたこと、それを明かすにあたって、できるだけ話を拗らせたくなかった。さっきの昼休みで、最も印象に残らせたい出来事は、茂木が彼女と別れていたという事実。仮に九条が狼狽えた場合、嘘を告白したインパクトが薄れると思った。だから、九条には話が終わるまで静観しているように頼んだのだ。
どうやら、その過剰な警戒が、逆に九条の疑念を煽ってしまったらしい。
ここはもう、とっとと白状した方が良さそうだ。下手に粘って、本当に隠すべきことを口走っても困る。俺は、そこまで交渉上手じゃないんだ。
「……分かった、認めるよ。昼休みのことは、俺と茂木で計画したことだ。茂木が彼女と別れてたってことを、どうやってみんなに伝えようか考えてて……」
これは嘘じゃない。今口にしたことより前に、別の真実があるだけだ。白を切って、追及されて、白状する。この流れを踏めば、九条も満足してくれるはずだ。
だが、俺が秘密を打ち明けたにもかかわらず、九条が俺を見つめる目は変わらない。
「彼女と別れてた、ね……」
「茂木にしては意外か?」
「ううん、全然。だって、モテ男君って彼女いたことないでしょ?」
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