#64 それぞれの対面
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「いつからなの……?」
堂島に続いて、井寄がそう聞いた。井寄は、茂木が付き合い始めた(と嘘を吐きだした)初めの頃から知っているのだ。その関係が、実は以前に解消されていたと聞いて驚いているのだろう。
九条とほどの長さがなくとも、茂木と井寄も中学時代からの仲だ。このまま幸せでいてほしかったという気持ちが、他より湧いていてもおかしくない。
井寄がこの話題を早々に流すかもしれないという心配は、杞憂だったようだ。
井寄に問われ、茂木は一度目を閉じてからゆっくりと答える。
「中学卒業の少し前かな。彼女の方から、別れを告げられてね」
「……そっか。じゃあ、高校入ってからデートに行くって言ってたのは?」
「あれは……別れたって言い出しづらくて。嘘を吐いてたんだ、ごめん」
そう言って、茂木は井寄に頭を下げる。事情を知る俺には、この謝罪が額面通りのものには感じられなかった。
「ねぇ、聞いてもいい?」
九条は、前に座る茂木を真っ直ぐと見据える。ここで九条が名乗りを上げたのは、俺にとっては意外なことだった。元々、口挟まないよう頼んでいたこともある。まぁ、これに関してはもう目的を達したから問題はない。それよりも、茂木の恋愛事情に九条が関心を示すとは思っていなかったのだ。
たしかに、他の友達と比べても、九条のことはまだまだ分からない。俺の察しが悪いだけで、九条も腐れ縁として思うところがあるのだろうか。
「なんだい?」
「その彼女さんのこと、好きだった?」
「当時はそう思ってたけど、今振り返ってみると……どうだろうな。あれが恋だったとは、言えないかもしれないね」
茂木の答えに、九条は「そう」と短く返すだけで、それ以上を尋ねることはしなかった。果たして、九条の真意がどこにあったのか。俺は計りかねていた。
そうして、作戦は無事に成功し、放課後を迎えた。ここから先、恋愛素人の俺が茂木に助力できることはほとんどない(はずだ)。とはいえ、俺にできることであれば全力で力になる。
だが、今日に限っては俺の仕事は終わりのようだ。人が疎らになってきた教室で、井寄に声をかける茂木を見ながら思う。
「桃、一緒に帰らないか?」
「うん……あ、そうだ」
井寄は何かを思い立ったように辺りを見渡し、九条に手を振った。
「瑠璃、今日部活ないでしょ? 一緒に帰らない?」
「私はいい、残ってやることがあるから。桃はモテ男君と帰ってて」
「はーい」
間延びした返事をして、井寄は茂木と教室を後にする。廊下に出る直前、軽く振り向いた茂木が俺にウィンクをしてきた。俺はその背中を見送り、胸中でエールを飛ばした。
(……俺も、向き合わないとだよな)
席で帰り支度をしている明海を、横目で確認して息を吐く。茂木と井寄の恋路に、俺が干渉することは少なくなるだろう。それなら、もう意固地にならず明海と話をするべきだ。
「あ――」
決心を固め、明海の名前を呼ぼうとした時のことだった。
「新宮君、ちょっといい?」
それに先んじて、九条が俺を呼び止めた。
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