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#62 サクラを咲かせよう

「なるほどな、颯斗が井寄を……」


 堂島は、茂木の話を終始表情を乱さずに聞いていた。そして、その動かない顔のまま、堂島はこう言った。


「友哉も明海と付き合ってる。ってことは、俺は九条と……?」


「薫、そうだったのか?」


「言ってくれれば、俺達はいつでも力になるぞ!」


 思いがけないカミングアウトに、俺と茂木は本題を忘れて堂島に激励を送ろうとする。だが、当の堂島はそんな俺達に首を傾げるだけだった。


「力を貸してくれるのは嬉しいが、俺が恋してるのは、九条ではなくサッカーだ。誰かに頼ったりせず、俺自身の力でサッカーと結ばれてみせる!」


 九条への思いは、どうやら俺達の早とちりだったらしい。堂島も多少は驚いたのだろう。自分の所属するグループでどんどんとペアができようとしていて。もしかすると、「俺は九条と……?」の意味は「俺は九条と恋人にならなければいけないのか?」だったのかもしれない。


 相手がサッカーという特殊な状況とはいえ、堂島は殊勝な心構えを持っていた。それに、俺も人間と人間以外を繋げる方法は分からない。とりあえず、スタメンにでもなったらいいのだろうか。


「そういえば、森口先輩が出るって言ってた大会、堂島も出たりするのか?」


「よくぞ聞いてくれた! 俺は、熾烈なレギュラー争いを経て、先発メンバーとして出場することとなった!」


「すごいじゃないか」


 感心した茂木に、堂島も鼻高々な様子だ。一応、井寄が心配だということで、件の大会には全員で行くことになっていた。知らない選手よりも、知っている選手が活躍している方が応援したくなるというものだ。その点、堂島が先発に選ばれたというのは嬉しいニュースだった。


「頑張ってくれよ」


「ああ、薫は帰宅部揃いの僕達の星だからね」


「任せてくれ、チームに恥じない活躍をしてみせる」


 と、いい感じに話がまとまったところで、俺はこれが本筋ではなかったことを思い出す。


「話を戻すぞ。俺達は今、茂木が彼女と別れたとバラすことで、これまでの嘘をなかったことにする計画を立ててるんだ」


「正直に話すわけにはいかないのか?」


「それが一番確実なのかもしれないけど、そうすると『どうして嘘を吐いてたんだ』って話になるだろ? そしたら、茂木はその場で井寄が好きだと言わなきゃいけなくなる」


「告白としては、いいシチュエーションとは言えないな」


 理解を示した堂島に、俺は頷く。もしかしたら、そこまでして片思いを続けた茂木に井寄が感化されるかもしれないが、博打を打つにしては人の恋は重すぎる。


「そこで、俺が茂木に明海とのデートプランを相談することにした。相談した俺に、茂木が別れたことを明かす。これを、できればみんなの前でやりたい」


 たまたま、偶然、ひょんなことから。そんな暴露が望ましい。この形で聞かせるターゲットは、井寄だけ。だから、すでに秘密を知っている明海を除いた、残り――堂島(と九条)にサクラになってもらうことで、秘密を明かした時の波紋を抑えたかった。

 九条がこの計画になびくかは分からない。井寄のことを思う彼女だ。もうすでに明海陣営に付いている可能性だってある。ということで、まずは堂島に声をかけたわけだ。


「堂島には、会話が逸れそうになったら無理なく話の流れを戻したりしてもらいたい」


「中々難しい仕事だな……」


「あくまでメインは俺と茂木だ。露骨なことはしなくていい、あくまでさりげなく、だ」


 口にして、堂島と相性が悪い要望だと気付く。何か、堂島の持ち味を活かした役割はないだろうか。


「薫には、僕が質問責めに遭いそうになったら、止めてもらいたいな。『傷口を開く必要はないだろう』みたいな感じで」


「今のそれ、俺の真似か?」


「似てなかったかな」


 茂木の視線の先、やれやれと言わんばかりに肩を竦める堂島。正直、俺も似ているとは思えなかった。二対一、多数決なら茂木の敗北だ。


「大会の日も近づいてる。作戦決行は、できるだけ早くしたい」


「それなら、明日でいいんじゃないか?」


「そうだな。善は急げだ」


 最終確認を放課後に設け、俺達は屋上を後にした。茂木の春を叶えるまで、準備はあと少しだ。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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