#60 友情の味
ユニーク1000PV、ありがとうございます
放課後、俺は一人で茂木のもとを訪れた。目的は一つ、帰路を共にするため――つまるところ、帰りがけに作戦会議をするためだ。
「帰り、ちょっと顔貸してくれ」
「いいのか、友哉?」
茂木は、怪訝そうな顔で俺を見てくる。力を貸そうとしている相手に向けられる表情ではないと、俺は胸の内で苦笑した。
おそらく、明海とのことを心配しているのだろう。
正直なところ、いいのかと聞かれると分からない。明海との冷戦状態は、茂木か井寄、二人の恋路が決着を迎えるまで続きそうだ。
喧嘩ではない、嫌い合っているわけでもない……はず。ただ意見が合わなかっただけだ。少なくとも、俺はそう思っている。
「大丈夫だ、心配しないでくれ」
「そうかい」
どれだけ説得力があったかは怪しいが、一応茂木は納得してくれたようだった。
俺は茂木と連れ立って、教室を後にする。
明海のいない帰り道というのは、初めての経験だった。思えば、屋上での出会い以来、帰りは彼女といつも一緒にいたような気がする。こうして明海と距離が生まれたことで、逆にこれまで自分がいかに彼女といたのかを実感した。
寂しくはない。だんだんと、そう唱えること自体が寂しさの表れなのではないかと感じてくる。
それから、俺達は特に言葉を交わすことなく、駅前のファミレスへとやってきた。手頃な価格とそこそこの滞在時間を両立できる場所といったら、俺はここ以外を知らない。そして、茂木から真実を聞いたのもこの店だった。
「さて、何を食べようかな」
そんな思案はポーズだけで、茂木は早々に注文をパスタに決定する。
「俺も決めた」
ベルを鳴らして、注文を伝え、暫しの沈黙。
先に口を開いたのは、前と同じように俺だった。
「……これからのことだけど」
「ああ」
「茂木に彼女がいないってことを、みんなに知ってもらわないとだと思うんだ」
茂木がもう一度恋を始めるためには、過去に作った膿をなくさないといけない。彼女がいる状態では、井寄にアプローチしたところで、軽口か浮気者としか捉えられないだろう。
当初の予定では、ここで明海に一役買ってもらい、自然な流れでさりげなくバラすつもりだった。俺が話の主導権を握るよりも、違和感が少なく済むからだ。
だが、明海は今、対立陣営に身を置いている。だから、この大事なスタートダッシュは、俺達で完遂する必要があった。
「朝、井寄が告白されたことを報告したみたいに、茂木も別れたことを報告するっていうのはどうだ?」
「うーん……それで桃に言い寄ったら、別れてすぐ他の女の子に手を出そうとしてる感じにならないか?」
上手い具合に話が進んで質問責めにでもなれば、「いつ別れたのか」への返答で時期はいくらでも調整できそうなものだ。とはいえ、そう上手くいくという保証がない。触れづらい話題として静かに処理されてしまえば、茂木の懸念は現実のものとなってしまう。
「茂木は昔から一途だっていうのに、それはなんか納得いかないな」
「事実ではあるんだけど、そう言葉にされると恥ずかしいね」
なんて照れている間に、食事が運ばれてきた。机の上には、美味しそうに湯気を立てているパスタとドリアが、今か今かと食べられる時を待っている。
「とりあえず、食べようか」
「そうだな」
茂木の不安への解決策が出ないまま、俺達はそれぞれに食事と向き合い始めた。
食器がぶつかる金属質な音だけが流れる、少し気まずい空間。こういう時、相手が恋人なら気の利いた話題でも振るべきなのだろうか。
「なぁ――」
と、茂木に聞こうとして、彼に本当は彼女がいないことを思い出す。恋人の有無にかかわらず、茂木なら当たり障りないアドバイスをくれそうなものだが。
そして、脳内に妙案が浮かぶ。その確信が自分だけのものではないと確かめるため、茂木に言った。
「こういうのはどうだ? 俺が明海とのデートプランを悩んでて、先輩である茂木に相談する。そこで茂木が、別れたからいいアドバイスができないって答えるんだ。それなら、俺主導でもおかしくないだろ?」
「それで別れた時期を前に設定すれば、不誠実な男ではなくなる、か」
茂木は顎に手を添え、考え込む仕草を見せる。
「ひとまず、それを試してみよう。ダメだったら、また一緒に考えてくれるか?」
「もちろんだ」
固い握手をしてから食べたドリアは、さっきまでよりも芳醇な味わいに思えた。
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。




