表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/121

#58 互いに別の道を歩む

 家庭科室に到着して、俺と明海は互いに無言のまま席に着く。ここでは教室と異なった席順のため、明海が隣にはいない。


「友哉、なんだか暗い顔だね」


 代わりに、普段は離れた席にいる茂木が同じ班にいたりする。この手の変化に聡い茂木は、俺の不調を見抜いてきた。さて、さっきあったことを話すべきか。

 とりあえず、まだ整理できていなかった今朝の出来事の共有からだ。


「茂木は知ってたか? その……井寄が……」


「告白されたって?」


「違う。そっちじゃなくて、あれだ……えっと……」


 潜めていた声を、さらに小さくさせてなお、俺は口ごもった。これを確認するのは、酷なことのように思えたのだ。


「……井寄が誰かに片思いしてるってことだよ」


 茂木以外に絶対に聞かれないよう、細心の注意を払って声を出す。

 俺の問いに、茂木はへらっと力の抜けた笑みを浮かべた。それから首を横に振る。


「初耳だね。誰なんだ、いつから好きなんだって、あの場で聞きそうになったよ」


 それは、間違いなく茂木の本心だっただろう。俺が茂木の立場だったら、衝動のまま聞いてしまったかもしれない。それほどまでに、突然明かされた真実は重かった。


「動揺してるところ悪いんだけど、もう一つ嫌な話題だ」


「今日の友哉は、中々に意地が悪いね」


 茶化してくれる茂木の発言に助けられる。もっと張り詰めた空気だったなら、俺も話しづらかっただろうから。


「元々、明海も手伝ってくれる予定だったんだ。けど、ちょっと無理そうだってことになって……。ほら、朝も言ってただろ? 井寄の好きな相手との仲を進展させるって」


「夕夏は、桃の恋を助けることになったわけだね」


「話が早くて助かる」


 明海とのやり取りは、ひとまず言う必要はなさそうだ。下手に話して、不安にさせても仕方がないだろう。

 今の明海とは、分かり合えそうにない。それなら、別行動を取るしかなかった。俺は自分のやれることを、茂木が井寄と結ばれるよう動くだけだ。


「まずは、彼女と別れたって――」


「はい、それでは授業を始めます。みなさん、私語は慎んでください」


「続きはまた後だ」


 ウィンクをした茂木は、先生にも勘付かれないように囁いた。


 二限以降、授業は教室で行われたので、続きをする余裕もなく昼休みを迎えた。その間、変わらず明海との会話はない。まるで、入学当初のあの頃に戻ってしまったようだ。けれど、寂しさはなかった。今の俺には茂木がいて、彼以外にも友達と呼べる人達がいるからだ。


「よーし! 今日は早く終わったから、好きなとこに座れるよ!」


 食堂を見渡して、井寄は昂った声を上げる。俺達は、暗黙の了解になりつつある席順に腰掛けていく。

 正面は、左から九条、明海、井寄。そして、こちら側は茂木、俺、堂島……になるはずだった。


「今日は桃が真ん中に座ってよ」


「えー、トモちんの前座んなくていいの?」


「いいのいいの。瑠璃も桃の話聞けた方がいいでしょ?」


「私は、どっちでもいいけど」


「じゃあ決まり!」


 そう言って明海は席を空け、そこに井寄を誘導する。そして、井寄は俺の前に座ると、両手を合わせた。食事はまだ机上にはないので、「いただきます」と続かないことくらいは分かる。


「ごめんねー、今日は私で我慢して!」


「気にしないでくれ」


 席に問題はないが、こうして全員が集まってると、井寄の話題はともかく、茂木との作戦会議は満足にできそうになかった。しばらくは、別れて昼を食べるタイミングを作った方が良さそうだ。それか、放課後の時間。


 茂木の好意が井寄にバレないように、かつ大会で返事をする日まで、それから井寄が意中の相手と結ばれる前に、俺達は駆け足で作戦を練らなければならなかった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ