#57 友達を思って
「なぁ、聞いてもいいか?」
移動教室までの道すがら、隣を歩く明海に声をかけた。周りの気遣いのおかげか、俺達は校内をこうして二人で歩くことがある。誰もそんなことは言っていないが、漏れ出る生暖かい視線から「二人っきりにしてあげよう」という意思を感じるのだ。
「どうしたの?」
この話は、明海以外にはしたくなかった。だからこそ、二人だけになれる移動教室は渡りに船といえる。
「朝のことだ。茂木の話、この前したよな?」
「うん、してたね」
「それなら、なんであんな提案したんだ」
森口先輩からの告白は、完全に予想外だった。その対応として、他から彼氏を擁立するという案は理解できる。だが、茂木の事情を知っている人物が取るべき選択肢だとは思えなかった。
井寄が自分の恋路を行けば、そこに茂木の入り込む余地はない。それを分かっているはずなのに、そんな恨み言のような気持ちが声に棘を含ませる。
足を止めた明海は、俺を正面から見つめて言った。
「私が桃の友達だからだよ」
「……茂木は違うっていうのかよ」
「そんなこと言ってないでしょ。二人とも私の友達。友達には幸せになってほしいと思ってるよ」
「それなら――」
前に踏み出そうとした足が、明海の強い視線に縫い留められる。
「モテ男君が好きな人にアタックして、桃も好きな人にアタックする。それが成功するか失敗するかは分からないけど、どっちにも同じだけチャンスがあると思わない?」
「井寄にはもう、好きな人がいるんだぞ? それでも、茂木に井寄と同じくらいチャンスがあるって言えるのか?」
「言えるよ。桃の好きな人にだって、恋人とか好きな相手がいるかもしれないんだから」
わざわざ井寄が失敗する可能性がある道に進ませるなんて、正気の沙汰とは思えない。もし、これで二人とも失恋した時、明海に責任を取るつもりはあるのだろうか。
「そんなの、勝手すぎるだろ……」
「新宮君こそ、勝手じゃない?」
呟きにも似た言葉に、明海が抗議に出る。
「……何がだ」
問いを鳴らす喉が強張っていることが分かった。自分の過失を責められることが、こんなにも恐ろしいとは。
「新宮君も桃と友達だよね。それなのに、モテ男君の恋だけ優先して、桃には恋をさせないつもり?」
「俺はそんなつもりじゃ……ただ、茂木が悩んでそうだったから力になろうとしただけで……!」
「桃をないがしろにしてることは変わらないよ。じゃあさ、こうしよう。新宮君がモテ男君を手伝うみたいに、私も桃を手伝う。これなら納得してくれる?」
折衷案は、ばっさりと切り捨てるように持ち出された。せっかく取りつけた協力も、これで台無しになってしまった。俺と茂木が協力し、明海と井寄が協力する。それぞれの恋が成就することを目指して。
再び歩き出した俺達の足取りは、普段とは違う歪なリズムを奏でていた。
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