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#55 行動の責任

「いないって……何言ってるんだ……?」


 茂木から告げられた内容はあまりに突飛なもので、耳に入っても受け入れられるものではなかった。俺の動揺と裏腹に、茂木の表情に変化はない。そのことが、直前の言葉の信憑性を高めていた。


「僕に他校の彼女がいるっていうのは嘘なんだ。もちろん、嘘を吐いてたのも、嘘だって明かしたのも、友哉をおちょくるためじゃないからね」


「それは……そうだろうけど」


 それにしたって、どうしてそんな嘘を? 否定されたばかりだが、翻弄するためだと言われた方が納得できる。わざわざ他校という設定を用意したのは、同じ学校じゃバレてしまうからだろう。そうして隙を最小限にしてまで、茂木に彼女が必要な理由があるとは思えなかった。


(俺が誤解しているだけで、茂木は見栄っ張りなところが……いや、ないな)


 的外れな推論は早々に終わらせ、本人から答えを聞くべきだ。


「じゃあ、どうしてなんだ? 嘘なんか吐かなくても、彼女くらい作ろうと思えば――」


「それがダメなんだ」


「え?」


「嫌味だと思わないんでほしいんだけどね。僕ってモテるみたいなんだ。ほら、桃も言ってただろ?」


 井寄から聞いた、茂木のあだ名。その由来を思い起こす。


『モテ男はね、モテモテで茂木だからモテ男って呼ばれてるんだよー』


 そう、茂木はモテているのだ。見栄なんて張らなくてもいいくらいに。彼女がいると公言していても、未だに告白されることがあるほどだ。

 そして、茂木は決まってこう返事をする。「好きな人がいる」と。告白現場を見たことはない。けれど、噂で耳にしたことくらいはあった。それを聞いた俺は、彼女思いのいい男だという印象を抱いた。フラれた相手だって、告白されて彼女を手放すような茂木を好きにはなっていないだろう。


 そうして彼のイメージを形作っていた『他校の彼女』という存在が、茂木本人によって嘘だと明かされた。


「僕はね、桃のことが好きなんだ。彼女以外の女の子には、一切興味がないくらいにはね」


 不意打ちの事実は、一瞬でも気を緩めてしまえば聞き逃してしまうくらいにあっさりと明かされる。


「だからなのかな、他の子に告白されるってことが煩わしくなってしまったんだよ」


 中学時代――まだ嘘を吐く前の茂木は、今よりもモテていたらしい。告白回数という指標だけでも、倍以上という話だ。


「呼び出されて、告白されて断って。それだけでも結構時間がかかるんだよ。できるなら僕は、その時間を使って桃と一緒にいたかった」


「彼女がいるってことにしたのは、告白を減らして、井寄との時間を作るためだったってことか?」


「まぁ、そうだね。桃と距離を縮めて、いつか彼女と結ばれたらなんて考えてたよ。まだ、自分の愚かさを知らなかった頃はね」


 俺から見ても、茂木と井寄の仲はいいように見える。しかし、二人は付き合っていない。何せ、茂木には彼女がいる(ということになっている)のだ。その矛盾こそが、茂木の言う『愚かさ』なのかもしれない。


「茂木に彼女がいたら、井寄とどうやって恋人になるつもりだったんだ?」


「最初は、他を寄せ付けないための手段ってくらいにしか考えてなかったんだ。どこかで適当に別れてたってことにして、桃に告白できればなんて甘い夢を見てた。……今思えば、馬鹿らしい考えだよ」


 最後の一言を吐き捨てた茂木は、続けて言った。


「言った通り、僕は桃との時間を作るために彼女がいるという嘘を吐いた。けどね、少ししてから桃に聞かれたんだよ。『デート行ったりしないの?』って」


「当然の疑問だと思うが」


「そうだね。でも、あの時の僕は焦ったんだ。そんなことまで考えなかったって思った。それで、慌てて言ったんだ。『そうだ、今日の放課後に約束してたんだ』ってね。それから、僕は放課後どこに行ったと思う?」


「……家に帰ったんじゃないのか」


「正解だよ」


 自嘲気味な笑みをたたえて、茂木は肩を竦める。話の流れが見えてきた。そして、茂木の愚かさ――その二つ目の要素も。


「桃と一緒にいようと吐いた嘘のせいで、僕は彼女との時間を奪われたんだ。我ながら、いい教訓になったよ。その後のことは、友哉の知る通りだ」


「嘘だったって、他の人にバラす気はないのか?」


「桃との関係は今も継続してる。最近は、それでいいんじゃないかって思い始めてる自分もいるんだ」


 以前、茂木がしたアドバイスは『行動するなら早いうちだ』というものだった。あれは、自分に向けたものでもあったのだ。


「昔から言い続けた手前、やめ時が分からなくなっててね。……けど、友哉に本当のことを話したのは、どこかで解放されたいと思ってたからなのかな」


 俺の行動は、結果として茂木の欲求に作用することとなった。秘密を暴いてほしい。それが茂木の本心だということを免罪符にして、俺はある提案をすることにした。ここまで聞いたのだ、協力するのが筋というものだろう。


「茂木、今からでも遅くない。嘘は終わりにするんだ。それで、井寄を誘おう」


「何にだい?」


「目標は夏祭り、ダブルデートだ」

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