#54 教えて本当の気持ち
花摘みに行った明海と茂木を待っている間、俺は自分用に切り取られたプリクラを眺めていた。
「うん……」
恥ずかしさ単体ではなく、どこか嬉しいようなむず痒さが胸を刺激する。落書きを終え、プリントがされてもなお、プリクラに前向きな気持ちは抱いていなかった……のだが、
「初めて友達とゲーセンに来たって思い出の証だよ?」
完成品を切り分ける明海にそう言われ、俺は閉口するしかなかった。それからというもの、写真の中の俺達を見る度、心の産毛がなぞられるような奇妙な感覚が襲ってくるのだ。たった一言で、俺は懐柔されてしまったのだろうか。
「まぁ、それも悪くないな」
「お待たせ」
「……お、おう」
タイミング良く茂木が戻ってきて、俺はたった今の独り言が聞かれていなかったか焦りを覚える。撮ったプリクラを片手にニヤリと笑う姿なんて、見られていたら赤面ものだ。顔の赤さなら、少し前の明海にも負けない自信がある。
「そんなに慌ててどうしたんだい?」
「いや、何も……。……聞いてたか?」
「何のことかな?」
「そうか、それならいいんだ」
これが気遣いの結果でも事実でも構わない。茂木のイケメンっぷりに助けられた。
「お待たせ―。あれ、なんか二人雰囲気良くない?」
「……そうかもしれないな。今日だけで茂木の好感度が一気に上がった気がする」
「直接言われると、僕も照れ臭いね」
「むー、彼女を差し置いて友達とイチャイチャするなんてー。私は? 私の好感度は?」
明海は、腕をゆすって俺から真意を聞き出そうとしてくる。
振り返って、印象に残った明海を思い浮かべる。度肝を抜くほど車の運転が下手な姿、ゲームを前に夢中になっている姿、見つめられて照れる姿。そのどれも新鮮で、明海の可愛さをさらに知ることができた。
それなら、答えは出たようなものだろう。
「明海の好感度も、すごい上がったよ」
「えへへ、そっか……嬉しいな」
そう言って、明海は年相応の、あどけないはにかみを見せる。ここでもまた一つ、彼女の魅力を発見することができた。
「もういい具合にご飯時だけど、二人はどうする?」
スマホを取り出した茂木が、俺と明海に尋ねてくる。
「俺は外で食べてもいいと思ってる」
「私は家に晩ご飯があるから、今日はパスかな」
「それなら友哉、夕夏を駅まで送った後で一緒に食べないか?」
そんな思いがけない誘いを受けて、俺は茂木と共にファミレスに来ていた。
どこまで踏み込むべきか分からないが、茂木とは話をしたいと思っていた。雑談ではなく、できれば一対一の状況で。時折感じていた胸のつっかかり、その正体を知るためにも。
「茂木、聞いてもいいか?」
注文した食事が運ばれるまでの時間で、俺は口火を切った。
「急に改まってどうしたんだい? 僕に答えられることなら答えるよ」
茂木はおそらく、俺が聞こうとしていることを察してはいないだろう。恋愛素人の俺から、まさかその手の質問が来るとは思っていないはずだ。
であれば、このチャンスを利用しない手はなかった。質問した以上、茂木は何かしらの形で答えてくれるだろうから。
「茂木、彼女と上手くいってないのか?」
「え?」
やはり意外だったのだろう。困惑が答えよりも先に口を衝く。
「今日一日気になってたんだ。彼女の話が出ると、有耶無耶にしようとしてた気がして」
「そう見えてたんだね……」
「茂木から見たら、俺は恋愛のスタートラインにすら立ってないと思う。でも、相談には乗れるはずだ。誰かの言葉で、前に進むきっかけが見つかることだってある」
俺が相談した時、そうだったように。それに、経験のある茂木だからこそ悩んでいる問題なら、素人の視点が役に立つかもしれない。
俺の言葉を一通り聞いた茂木は、初めて見る、品定めするような目を向けてきた。
「それは、例のノートを埋めるためか?」
茂木のためではなく、自分のために相談に乗ろうとしているんじゃないか。この問いは、門番として俺と茂木との間に立ち塞がった。だが、俺は答えに迷うことはない。なぜなら、この話題を切り出した時から、すでに心は決まっていた。
「その気持ちがあることは否定しない。でも、それ以上に俺は茂木の力になりたいと思ったんだ。俺が役に立つかは分からないけど、茂木が困ってるなら理由を聞かせてほしい」
「……そうか。そこで完全に否定しないあたり、友哉の本心みたいだね。分かった、本当のことを話すよ」
一呼吸置いて、茂木は再びを口を開いた。俺の想像とは全く違う、真実を口にするために。
「まずは実情を知ってもらうべきだね。僕には彼女がいないんだ」
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