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#53 思い出にシャッターを切って

「やっぱさ、ゲーセンっていったらこれじゃない?」


 トリは、明海に(強引に)連れられたここになるようだ。俺達は、またしても仕切りに隔てられたブースの中にいる。といっても、ゾンビに銃を向けたりはしない。向けるのはカメラ、そしてその銃口とも呼べるレンズは、俺達に向けられていた。


「……明海、正気か?」


「正気に決まってるでしょ? 新宮君こそ、早く心を決めて!」


「ははっ、中に追い込んでから選択を迫るなんて、夕夏も鬼だね」


「も、茂木……笑ってないで助けてくれ……!」


 俺は今、絶体絶命の状況に立たされていた。プリクラ撮影なんて、まだ早い! こういうのは、もっとキラキラしてから! カメラの前でキメ顔ができるようになってからにしよう!


 確認するまでもなく、明海と茂木が写り慣れているのは間違いない。そんな二人の間で、ぎこちない表情を晒したくはなかった。

 しかも、瞬間の羞恥ではなく、写真という形として残る恥ずかしさ。必要金額を投入していないということだけが、俺にとって救いだった。


「そういえば、ちょうど百円切らしてた気が――」


「今回は新宮君が初めてのプリクラ記念だから、私がお金出してあげるね」


 もちろん、百円玉がないなんて嘘だ。それを見抜いたのか、ただの善意なのかは分からないが、遠ざけようとしたものが近づいてくる感覚だけはあった。


「助かるよ」


「出すのは新宮君だけ。モテ男君は自分で出してよね」


「流れに乗れば便乗できると思ったけど、ダメだったか」


「もう、調子いいんだから」


 和やかなやり取りの裏、着々と撮影開始が迫っている。画面をタッチして、明海は背景などの設定を済ませていく。機械の音声からして、あとはもう撮影するだけのようだ。


「ねね、せっかくだからポーズ揃えようよ」


「ぽ、ポーズって何すればいいんだ?」


「友哉はとりあえず、夕夏のことを真似してれば大丈夫さ」


 そのアドバイスを信じ、俺は明海の一挙手一投足を見逃すまいと彼女を凝視した。


「な、なんかそんなに見られると照れるね……」


 そう言って、明海は口元を隠すように手の甲を近づけた。思考を放棄していた俺は、その動作を真似る。


「これはポーズじゃないから!」


「そうなのか、つい……!」


 普段なら、これでしばらく空気が緩慢になるところだろう。それに待ったをかけたのは、筐体から聞こえてきたカウントダウンだ。シャッターが切られるまで時間がないことくらいは、初心者の俺でも理解できる。


「あ、明海! 早くポーズ取ってくれ!」


「分かってるってば!」


 経験者がいるとは思えないほどに大慌てで撮影が進行していく。両の手の平で頬を挟み込んだり(小顔ポーズというらしい)、片手を頬に添えたりと、普通に生きていればしない構えで写真撮られていった。後半にテンプレ的なピースをした時は、むしろ大丈夫かと不安に思ったくらいだ。


「よし、次は落書きだよー!」


 明海に手を引かれて、ブースの外へ出る。この『落書き』というものが、プリクラの醍醐味なのだと聞いたことがある。

 ポーズに意識を取られすぎて、当初懸念していた表情には一切気を配れなかった。さて、どんな出来になっているのだろうか。


「うっわ、ブスかもなんだけど!」


 驚いた明海を横目に、写真の中の彼女を確認した。しかし、俺としてはそこまでの違いを感じられない。当然、本物の方が表情豊かで可愛らしいというのはある。だからといって、ブスというのは言い過ぎではないだろうか。


「俺は、十分可愛いと思うけど」


 感想がポロリと零れる。自分の口の緩さを反省しつつ、聞かれても平気な類いのもので良かったと安堵した。

 だが、明海はそうではないようで。


「~~~~っ! かかか可愛いって……!」


 首元から上へと、どんどんと顔を赤くしていく明海。やかんみたいな悲鳴も相まって、さながら明海が沸騰しているようだった。その証拠に、頭上からは湯気が出始めている。


「友哉もすっかり色男だね」


「やめてくれって。茂木に比べたら、俺なんて子どもだろ?」


「そうでもないよ。友哉はもう、僕より先を歩いてる」


 いつもの余裕を感じさせる笑いでも、誤魔化すようなへらへらとした笑いでもない。うっすらと口の端を持ち上げた茂木からは、寂しげな雰囲気を感じた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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