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#50 屈んだ方が、より高くジャンプできる

 チャイムが鳴る。教壇から号令がかかり、椅子が動く音、紙の擦れる音が教室に響く。その間、生徒達は囁き声も漏らさず、ただじっとその時を待った。

 やがて、刻一刻とその時が迫るように、束になった紙と教卓の天板がコツコツと乾いた音を立てる。嵐の前の静けさ、その最後の音は試験官を務める先生の口から零れた吐息だった。


「点検が完了した。これで中間試験は終了だ。ご苦労だったな」


 抑圧されていた枷が外され、教室のボルテージが最高潮に高まるの感じる。


「よっしゃああああっ!!!!」


 最初にそんな声を上げたのは誰だっただろうか。クラスのお調子者だったか、それとも意外に茂木だったかもしれない。今となっては、それはもう分からない。なぜなら、声の主に辿り着くよりも早く、クラスが歓喜の渦に飲み込まれてしまったのだから。


 こうして、高校生初めての中間テストは、大盛況(?)にて幕を下ろした。


「終わったー! なんか、すっごい解放感……!」


 放課後を迎えてもなお、井寄は試験後の余韻に浸っていた。堂島と九条は、今日から再開された部活動に精を出している。動きたくて仕方がなかった堂島にとって、今日のサッカーは一味違ったものになりそうだ。


「頑張った成果、出てるといいね」


「出てるに決まってるよ! だって、夕夏のスパルタレッスン乗り越えたんだから!」


「だから、私はスパルタじゃないってば!」


 あの勉強会以来、明海が実は厳しいキャラなんじゃないかというイジリが流行っている。これが、内輪ノリというやつなのだろう。もし、俺が外野なら冷めた目で見ていてもおかしくない。もちろん、その内心は羨ましさで溢れているのだけど。けれど今は、こうしてネタの出自を知っていることで、自分が内輪に入れていることを自覚できた。


「このくだり、すっかり定着しそうだな」


「くだりとか言ったら、私がノリツッコミしてるみたいだからやめて」


「はい……」


「分かればよろしい」


 明海の追及する視線に負け、俺は首を垂れるしかなくなる。今に始まったことではないとはいえ、尻に敷かれてばかりだ。


「それじゃ、私バイトあるから! テスト期間休んでた分取り返さないと!」


 野心を込めたガッツポーズを見せた後、井寄は教室を飛び出していった。

 それを見送った俺と明海は、帰り支度をしていた茂木のもとを訪れる。


「やぁ二人とも、どうかしたか?」


「新宮君、ほら」


「あ、ああ……。えっと、その……」


 歯切れが悪い俺に、茂木は困惑を浮かべる。あくまで、明海は付添いだ。彼女には事前に話は通してある。あとは俺が頑張るだけだ。


「……この後、暇か?」


「彼女とデートが――……ああいや、いいか。暇だよ」


 反射で紡がれたかのような文言は、茂木が辺りを見渡すと突然進路を大胆に変更する。違和感以上に申し訳なさが込み上げ、動揺した態度を取ってしまう。


「俺の方はいつでもいいから、彼女との用があるなら全然優先してくれ!」


「いや、いいんだ。本当に暇だからさ。どこか遊びに行くのか?」


「ノートの話、前にしただろ? 放課後したいことを茂木と埋めたいなって。……俺は、茂木を友達だと思ってるから」


『俺は』と頭に付けたのには、相手の確証がないという俺の自信のなさが表れていた。真の陽キャであれば、ここで「友達だから」と断言できたのだろう。

 そんな不安を、茂木は笑い飛ばした。


「何言ってるんだよ。僕も友哉のことを友達だと思ってるさ。両想いなんだから、寂しいこと言わないでくれって。それとも、こんな風に口説いたら彼女さんに怒られるかな?」


「そんなことで怒らないし、新宮君に友達ができるのは大歓迎なんだから。っていうか、いいの? デートならした方がいいと思うけど」


「いいんだよ。それを言うなら君達の方こそいいのか? せっかくの二人っきりの放課後なのに、僕もご一緒しちゃって」


 茂木の言葉は、内容だけ聞けば俺達を気遣っているだけにしか思えない。だが、こうして対面して話をしていると、それ以上に自分への問いをはぐらかしているみたいに感じられた。


「いい……じゃなくて来てくれ。俺は、茂木に来てほしいんだ」


「分かった、どこまでもお供するよ」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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