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#39 眠り姫を救うのは

「ふわぁ……」


 さすがに今朝は眠気に蝕まれていた。というのも、昨夜の報告会は夜更けまで続き、俺達は全員して寝不足になっているのだ。六人の中で一番学校に近いのは俺だから、おそらく一番睡眠時間は確保できている。朝練で早起きに慣れている堂島はさておき、他が寝坊で遅刻や欠席にならないことを祈るばかりだ。


 手元のスマホは、ピクリとも動かない。いつもであれば、明海から『電車に乗ったよ』とか『駅に着いたよ』みたいな連絡がきている頃なのだが。


「これは、起きられなかったやつか」


 十五分あれば始業には間に合う。普段の集合時間は過ぎそうだが、明海が来ることに賭けるとしよう。

 なんたって俺は明海の彼氏なのだ。信じる理由は、それだけで十分だろう。


 家を出て、目につきやすい通りで待つことにした。明海と(偽の)恋人となった最初の帰り道、ここで彼女の背中を見送ったのを覚えている。あれ以来、行きは明海がインターホンを鳴らし、帰りは俺が駅まで送っていたから、久しぶりの出番だ。


 いつ連絡がきてもいいように、それから時間確認のためにスマホの画面に目を落とす。決して、手持ち無沙汰でスマホを弄るしかなくなったわけじゃない。


「ごめーん! 新宮君、お待たせー!」


 想定より待ちぼうけを食うことなく、明海が姿を現した。声は遠く、急いで俺のもとに来ようと通学路を駆けている。

 慌てた様子にもかかわらず、身だしなみは小綺麗にまとまっているのだから感心してしまう。俺だったら、最悪寝癖が付いたままで登校する可能性すらある。


 ……いや、今日からはそうも言ってられないのかもしれない。俺の振る舞いは、これから明海という看板を背負うことになるのだ。明海の、俺の好きな彼女の恋人が、寝癖だなんて許されるはずがない。というか、俺がそれを許せなかった。


 俺は、画面の反射を利用して髪型を整える。髪、長いな。日常生活に支障がないから放っておいたが、これは清潔感を身に着ける第一歩を踏み出すべきなのかもしれない。


 と、俺が目を離した隙のことだった。明海が「あっ」と声を上げる。俺から数メートル先、躓いた明海がその体を宙に投げていたのだ。


「明海っ!」


 明海を受け止めるため、俺は弾かれたように飛び出す。しかし、運動不足の俺が格好良く彼女を抱きかかえられるわけもなく……


「った……!」


「きゃっ!」


 俺も足元の小石に足を取られ、つんのめった体が明海と衝突してしまう。対になる形でぶつかった額が、転ぶはずだった俺達の勢いを抑えた。

 なんともダサい救出方法だ。だが、何はともあれ明海が無事で良かったと、一安心する。


「大丈夫か?」


「うん、平気。新宮君も頭大丈夫?」


「痛くないって言ったら嘘になるけど、気にしないでくれ。それより、その心配の仕方の方が気になる」


「あははっ、たしかに!」


 衝突事故の後だというのに、明海はあっけらかんとしている。その姿を見て、次はもっとスマートに助けてドキッとしてもらいたい、そんな欲が湧き上がってきた。こんなこと、次がないに越したことはないが、少し夢見るくらい許してほしい。


「どうしたの?」


 物思いに耽る俺の顔を、明海が覗き込んでいた。俺は軽く首を横に振る。


「いや、王子様ならもっと格好良く助けられただろうなって思っただけだ」


「二人とも無事だったんだから、いいんじゃない? そりゃ、もうちょっとやり方はあったかもだけど……」


「でも」と、明海は口元を緩ませる。


「無理して格好つけなくても、新宮君は私の王子様だよ。あの日からずっとね」


 直前に走っていたせいだろうか。そう言って重ねられた手の平は、いつもより熱かった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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