#32 料理は熱いうちに召し上がれ
ユニーク500PV、ありがとうございます。
『漢』達に静寂が流れる。誰一人として、咄嗟に口を開くことはなかった。
やがて、茂木が戸惑いを滲ませて言う。
「確認だけど、今告白された時って言ったよね?」
「……言った」
「ってことは、友哉はすでに告白されたんだね?」
「……はい」
再び、沈黙だけの時間が訪れる。恋愛相談だというのは、茂木が勘付いていたくらいだ。それでも、ここまで話が進展しているとは思っていなかっただろう。……まぁ、この手の相談っていったら、『好きな人と距離を縮めたい』とか『告白をしたい』が定番だしな。
告白されましたって報告を、相談って形でされるのは想定外のはずだ。俺だって、こんなことになるとは思っていなかった。
「それで、誰に告白されたんだ?」
沈黙を破ったのは、堂島の当然とも言える疑問だった。
「……このことは、誰にも言わないでほしい」
「もちろんだよ。というか、僕はほとんど答えを知ってるようなものなんだけど」
「あ、そっか」
仲見世通りを歩いた時、明海関連の悩みだとは明かしていた。俺が引く手数多の人気者ではない以上、自ずと誰に告白されたのかは予想できたのだろう。
「何! ずるいぞ颯斗! 俺にも早く教えてくれ!」
名前を口にしようとして、あの時の光景が頭に蘇ってくる。口元に感じた熱さ、柔らかさ、それから好意の言葉が追想でも胸に早鐘を打たせた。俺は一呼吸置いて、うるさい心臓を落ち着かせてから答えを告げる。
「……明海だ。今日、明海に告白されたんだ」
「おお……」
堂島の上げた声は、通話越しというのもあってその意図が読み取れない。感嘆、驚き、はたまた別の感情。そのどれでもないような気がした。俺が堂島の立場でも、同じように声を上げただろうから。感想を抱くよりも先に。
「夕夏がどうして友哉を好きになったのか。これは個人的な話だから割愛するとして、友哉はその時なんて答えたんだ?」
「……時間を貰った。明海も、今すぐ答えが欲しいわけじゃないって言ってたから」
「そうか」
詳細を語らされなかったのは安心したが、自分の不誠実な対応を改めて言葉にするのは惨めな気持ちだった。明海が回答を催促しなかったのは、俺を気遣ったからだと分かっている。告白して、答えを保留にされたい人がこの世界にいるとは思えなかった。思いを伝えたからには、それに対する返事が欲しいはずだ。
自分が悩んでいるから忘れそうになるが、明海もこの保留期間はモヤモヤとした心持ちでいるのだろう。少なくとも、告白したのが俺だったらそうなっていたに違いない。
「友哉は、明海のこと好きなのか?」
「好き……だと思う。前に堂島に好きな人を聞かれた時、俺は明海のことを考えた」
結局、あの質問は恋愛的な『好き』ではなかったんだけど。
「それなら、その場で自分の思いを伝えれば良かったじゃないか」
堂島の意見は最もだ。もし、あの時の俺にそれができていたなら、こうして二人に相談することもなかっただろう。
じゃあ、どうしてできなかったのか。言い訳をするように、俺は反論した。
「嬉しい話、明海には俺を好きになった理由があったんだ。でも、俺にはそれがなかった。明海を好きな理由が、まだ見つかってなかったんだ。だから……答えられなかった。曖昧な状態で付き合うのは、明海に失礼なんじゃないかって」
「僕はそうは思わないね」
意外にも、茂木は俺の理想論に異議を申し立てた。恋愛に精通している(であろう)茂木だからこそ、相手を尊重した俺の考え方に共感してくれるものだと考えていた。
「いいか友哉、好きって気持ちは鮮度が重要なんだ。感情に答えを出すのなんて、付き合ってからでも遅くないよ。恋人じゃないけど隣にいる。そういうぬるま湯みたいな関係に慣れたら、もう手遅れだ。友達以上になりたいと思う恋心は、衝動みたいなものだからね」
「行動するなら早いうちだ」と、茂木は話を締めくくった。
さすが、彼女のいる男が言うと含蓄がある。あの真に迫った声音からして、きっと茂木にもそういう経験があったのだろう。それとも、過去にも恋愛相談をされたことがあったのか。
「俺は颯斗と違って、恋愛のことはよく分からない。だから、言えることは一つだけだ。後悔しない選択をしろ」
「……うん、僕も薫と同じだ。友哉には、後悔しないでほしい。せっかく両想いなんだ、幸せにならないとね」
そう、俺と明海は多分両想いなのだ。あとは、俺の決心がつくかどうかが問題だった。しかし、出るか分からない答えを探している間に、明海の心が離れていってしまったら。明日にはいつも通りの俺達に戻っていて、その関係に浸っていたくなってしまったら。それこそ、茂木の言う『手遅れ』というやつなのだろう。
そうならないために、俺ができること。
「俺、明日明海と話してみるよ。理由は分からないけど、俺も明海が好きなんだ。その気持ちを伝えてみる」
今思えば、最初から答えは決まっていたのかもしれない。それでも、二人が背中を押してくれたからこそ、俺は奮い立つことができた。好きな人に「好きだ」と伝える勇気を、貰うことができた。
「ありがとう」
今夜の最大限の感謝を乗せて、俺は二人にそう言った。
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
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