#30 終わるから、また始まる
そうして数々の思い出を生み出した遠足も、日が沈むと共に終わりを迎える。
「あー楽しかった!」
軽く伸びをした井寄が、今日を総括する一言を口にする。直接聞かなくても、それが全員に共通する感想だということは間違いなかった。
「現地解散とは言われてるが、さすがにそろそろ帰るべきだろう。俺は、明日朝練があるしな」
「そうだね。休みの日ならいいかもだけど、今日は制服着てるし。補導される前に帰っとかないと」
小中と比べて、行動範囲も自由度も随分と広がった。それでも、俺達はまだ学生だ。学校に迷惑をかけるわけにはいかない。
偏見にはなるが、陽キャというのは夜が大好きな生き物だと思っていた。……だってほら、夜になると派手めな人が街に増えるし。だが、明海達は良識のある陽キャだったようだ。解散することに、一人も異議を唱えることはなかった。
「……静かだ」
椅子に腰掛けるのは、俺一人。がらんとした車両内には走行音だけが流れていた。長い椅子は、一人掛けで使うには持て余してしまう。端にもたれているなら、尚更だろう。
あれからそれぞれの沿線に乗り込み、帰路についた。今日じゃなければ明海が隣にいたかもしれない。あの一件のこともあるが、二人っきりでもないのに送り届けるなんて申し出れば、何か勘ぐられてしまう。
それに、今夜は井寄が明海をお持ち帰りするという話だ。宿泊先が九条家だと言っていたから、九条が二人を持ち帰るという方が適切か。
果たして、どんな話題が上がるのだろう。今日の――水族館でのことを、明海は話すのだろうか。恋バナをするのなら、有り得ないことじゃない。というか、俺はこの後茂木にその話をするつもりなのだ。明海が同じように友達に相談してもおかしくはない。
隣に目を向ける。そこには、変わらず誰もいない。急に誰かが現れたりしないと分かっているのに、つい見てしまう。空いた穴を確かめるような行為は、寂しさの表れなのだと思った。
いつもここに、隣にいた人。それを思い浮かべて、回想に逃避しているのだ。
「いや、このままじゃダメだ」
活を入れようと頬を叩き、茂木に連絡を取る。
『今夜、時間があったら相談に乗ってほしい』
あっちも移動中で暇しているのか、返信はすぐにきた。
『了解だ。友哉さえ良ければ、薫にも聞いてもらわないか? 三人寄れば、って言うだろ?』
解散の間際、朝練があるとか言っていたような気がするが。とはいえ、意見が増えるのはいいことだ。堂島には俺から確認を取ってみるとしよう。
俺は画面を突いて、その旨を茂木に伝える。そのまま、堂島にもメッセージを送る。こちらも、思いがけず早々に応答があった。
『俺にできることなら、力になる』
なんとも力強い一言。これで、話の場は『漢』になったわけだ。堂島に感謝し、俺はスマホの電源を落とした。
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