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#29 五円がありますように

 本堂へ参拝する列は、階段下まで続いていた。俺達はその最後尾へと並び、順番を待つ。その間も、堂島のうんちくは止まらなかった。


「神社では二礼二拍手一礼で参拝するが、寺院でそれは相応しくない」


「じゃあどうするんだ?」


「一礼をして賽銭を入れ、胸の前で合掌して祈る。終わったら一礼して完了だ」


 並んでいるうちに聞けて良かった。危うく、神社と同じ作法をしてしまうところだった。


「本当に色々調べたんだな。おかげで助かったよ」


「そうか……! 喜んでもらえたなら、俺も調べた甲斐がある!」


 予想以上に上機嫌となった堂島。どうやら、わらじの傷は癒えたようだ。

 俺もちょっと前に茂木に励ましてもらったからな。これはお返しみたいなものだったりする。こうして、優しさというのは巡っていくのだ。


「そろそろ私達の番だよ。みんな、お金はある?」


 明海の気が利いた一言をきっかけに、各々財布と睨み合う。賽銭といえば五円だが、果たして俺の財布にはあるだろうか。期待とは裏腹に、手の平に乗った小銭は一つも穴が開いていなかった。

 これじゃあ、ご縁が十分にという語呂合わせで五十円という作戦も使えない。これから祈願するというのに、縁から見放されたのかもしれない。


「五円がないやつは、言ってくれ。今日のために五円玉貯金をしてたんだ」


 堂島はそう言うと、リュックの中から金の棒ならぬ、連結した五円玉を取り出した。穴の部分に紐を通しており、堂島の頑張りが見て取れる。

 神はここにいた。小銭を財布に戻し、俺は真っ先に手を挙げる。


「一円五枚と交換してくれ」


「あ、私も! 十円あげるから二枚ちょうだい!」


「……私もなかった」


「僕も、一円で替えてもらおうかな」


「あはは……」


 まさかの五円不足現象に、明海は苦笑いを浮かべている。そして眉を下げ、申し訳なさそうに手を挙げた。


「私も、両替お願いしてもいいかな?」


 堂島の七日間の五円玉貯金は、一気に他の小銭へと替わっていった。交換先は穴の塞がった小銭なので、元の紐に戻すこともできない。そのせいで、堂島の財布は悲鳴を上げていた。


「よし、五円を配るぞ。まずは友哉、次は井寄……」


 両替をした順に、五円玉が手渡されていく。周囲から見たら、相当おかしな集団に映ったはずだ。


「最後、明海だな」


「ありがと……あっ」


 明海の受け取った五円玉が、手元から落下する。軽く転がったそれは、俺の足先にぶつかり動きを止めた。俺は何も疑うことなく、拾おうと手を伸ばす。


「あ……」


 声を漏らしたのは、明海の手が重なったからだ。俺が五円玉に触れた直後、手の甲に明海の手が乗せられた。それから、明海が反射的に手を引く。

 嫌がられたかという落ち込みよりも、明海にも余裕がないという事実に意識が向いた。きっといつもの彼女なら、これを理由に揶揄ってきただろうから。


「えっと、これ……」


「うん、ありがと……」


 ぎこちないやり取りで、俺は明海に五円玉を渡す。目も合わせられない、上手く話すこともできない。少しずつ仲が深まっているはずの周囲と違い、明海とだけは振り出しよりも後退してしまったみたいだった。


「全員五円は持ったな。それじゃあ、行くぞ」


 ちょうど順番が回ってきて、俺達は賽銭箱の前に立つ。明海との気まずさが長続きしないように、自分の気持ちに答えが出せるように。五円玉を入れ、祈るように手と手を合わせた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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