#24 正解だけが答えじゃない
美しい上空の景色を目に付けた後は、海中の神秘と出会う時間だ。というわけで、俺達は水族館へとやってきた。
まず目を引くのは、なんといっても目の前にそびえるこの大水槽だろう。とある諸島の海をモデルにしているらしく、シロワニと呼ばれるサメやエイなど、多くの生き物が水槽の中を悠々と泳いでいた。
「うわぁ、見て見て! すっごいよ!」
仄暗い館内とは対照的に、井寄は上擦った声を上げる。まだまだスタミナは有り余っているようだ。
「すごい……綺麗だね……」
明海も、吸い込まれそうな紺碧の世界に見惚れていた。その横顔を盗み見て、俺は誰にも聞こえない声で「そうだな」と呟く。
水族館の主役は魚達だ。だからなのか、人がいるスペースには最低限の明かりしか灯っていない。暗闇にゆるりと射す光彩が、特有の幻想的な空間を作り出していた。
「みんな気持ち良さそう」
「俺、あんま泳ぐの得意じゃないから羨ましいよ」
「夏休み海行こうと思ってたんだけど、無理そう?」
「泳げないだけで、水が苦手ってわけじゃないんだ。それに砂の城作りとかもできるだろ」
恋人と水をかけあって、「あはは」「やめろよー」みたいなことも若いうちにやっておきたい。年を取ってからじゃ、恥ずかしくてできそうにないからな。
「そうだ、写真撮っておこうかな」
ふと、意識の外で俺の左手が動く。……なんだ今の? それと同時に、スマホを取り出そうとしていた明海が困惑した声を漏らす。
何か大きな失念があるような。そんな嫌な予感が手元に感じる。俺と明海は、壊れたロボットのようなぎこちない動作で顔を見合わせる。明海の顔が青ざめて見えるのは、ここが水族館だからだろうか。
「……私達、いつから手繋いでた?」
明海が口にした疑問は、俺と全く同じものだった。
「さっき展望回廊で手繋いで……離したっけ?」
「ううん……じゃあ……」
俺達は、あの時からずっと手を繋いでいたということになる。水族館への移動中も、館内を回っている最中も。つまり――
「やばい!」
一つの結論に至り、俺達は反射的に手を離す。それから、全力で辺りを見回した。ここには二人で来たわけじゃないのだ。班員は、俺達以外に四人。そう、目撃者になり得る人物が四人いる。しかし、どれだけ目を走らせても付近に彼らの姿は見えない。
「……助かったのか?」
「どうだろう……」
手を繋いでいる現場を見られずに済んだ……のかもしれないが、現状は迷子というわけだ。
「とりあえず連絡を取って、合流しないと――」
だが、スマホを構えた右手に明海の手が被せられ、操作は強制的に中断させられてしまう。
「……明海?」
「ちょっとだけでいいから……二人で回らない?」
冗談で言っていない。それどころか決意を持って言っていると、手の震えから伝わってくる。でも、どうしてなのかは分からなかった。二人になったから彼女として振舞っているのか、それともこれが明海の望みなのか。僅かに潤んで見える瞳にも、真意は書いてない。
ここで誘いを断って、みんなを探すのが多分教科書に載っている正解なのだろう。けれど、それは明海の求める答えじゃないはずだ。
被せられた明海の手に、左手を乗せる。震えが止まるのを確認してから、俺は言った。
「分かった。二人で回ろう」
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