#22 重ならない手の平
ユニーク300PV、ありがとうございます。
「やってきたぞー、東京ー!」
集合場所である駅構内で、井寄は元気に両手を突き上げる。見知った仲であればその姿も微笑ましく映るが、傍から見れば都会に憧れた田舎者でしかない。だから九条は井寄の腕を掴み、気をつけの姿勢を取らせる。
「恥ずかしいからやめて」
「なんでよー! せっかくの東京だよ? 瑠璃ももっとはしゃがないと!」
姿勢を正されたまま抗議する井寄に、九条が押されようとしていた。そこに明海が助太刀に入り、宥めるように言う。
「でも、人がたくさんいて迷惑になっちゃうからさ? はしゃぐにしても邪魔にならないようにね」
「分かったよー……」
明海の説得の甲斐あって、なんとか井寄の暴走を止めることに成功する。俺をはじめとした無力な男子達は、その様子を眺めることしかできていなかった。
「さて、全員揃ったことだし移動しようか。班長さん、連絡は頼むよ」
茂木が視線を送ったのは、我らが班の長を務める堂島だ。堂島はゆっくりと頷くと、手際良くスマホを操作し、丸山先生への連絡を済ませる。
「出欠確認完了だ。目的地までのルートは調査してある。ついてきてくれ」
「やるね、薫。もしかして、楽しみにしてたのか?」
「む、楽しみにしてたかと言われると……前日目が冴えて眠れなかったくらいだな」
「それを楽しみにしてるって言うんだってば!」
「楽しいのはいいけど、あんたも堂島君の落ち着きを見習って」
先導する堂島の背中を、他の面々が話に混じるようにして追う。この手の瞬発力が、陽キャ達と俺の差だと感じた。相手の言葉に対する反応が、人一倍早い。陽キャの一団がいつも賑やかに思えるのは、そうして常に会話が回っているからなのだろう。俺もその中にいるはずなのに、外野から見ているような感想を抱いてしまう。
彼らは、俺を友達だと思ってくれている。けれど、俺がいなくてもこの集団は何不自由なく機能するのだ。それを理解してしまい、後に続く一歩を踏み出せずにいた。
「新宮君、どうしたの? ほら、行くよ」
「ああ……今行く」
深く沈み込もうとしていた思考を引き上げたのは、やはり明海の声だった。慣れが癖になり始め、彼女は人前だというのに手を差し出していた。鬱屈した高校生活のスタートは、明海に引っ張られる形で青春へと近づいている。この手を取ったことで、俺の歯車が動き出したと言っても過言ではない。
好きな人、という話題が出たせいだろうか。それとも、俺の中で明海という存在が大きくなっているのか。なんだか気恥しくて顔を直視できずにいた。そして、二人っきりではないから、俺が伸ばされた手を掴むことはない。明海の厚意を無視する形で、俺は彼女の隣に並んだ。
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