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#21 好きなものは?

 あれから温め直した夕食を食べ、俺は明海と別れ家に帰ってきた。そして、今日できたばかりのグループにメッセージを送信する。

『漢』というグループ名は、堂島発案のものだ。一発で分かるからという理由で茂木は気に入っていたが、あまりに無骨すぎないかとも思う。


『聞きたいことがあるんだけど、いいか?』


 ほどなくして、茂木からの返信がくる。


『どうしたんだ?』


『二人の好きな物とかを教えてほしい』


 以前、茂木は俺の好みを知ろうとしてくれた。それと同じように、俺も一緒に過ごすみんなについて知ろうと考えたのだ。

 そうは言っても、井寄と九条と一対一で話す勇気はまだない。ということで、まずは男子達からというわけだ。


『それなら、全員で一問一答しないか?』


『一問一答?』


『僕も友哉のことは知りたいしさ。一つの質問に、僕達三人で回答するんだ』


『名案だな。俺はいつ始めても構わないぞ』


 いつの間にか堂島も現れていた。この時間だと、部活終わりで帰宅したくらいか。時間をかけて睡眠時間を奪いたくはない。早いうちに始めるとしよう。


『じゃあ、俺から。好きな食べ物は?』


『カレーだな』


「はやっ……」


 質問を送信してから瞬きをする間もなく、堂島からの答えが返ってくる。これに関しては、食堂の自己紹介で聞いたんだったな。


『薫は相変わらずだね。僕は、ハンバーガーかな』


 茂木の方は、思っていたよりもジャンキーな回答だった。ファストフードを食べていたとしても、茂木なら様になっていそうなのが恐ろしい。ソースを口の周り付けたりなんか、絶対にしないだろう。


『くっ、やめろ颯斗! その名前は俺に効く!!』


『どういうことだ?』


『薫はスポーツマンだからね。あんまり塩気の強いものを食べないようにしてるんだよ』


『もしかして、堂島がカレーを好きなのって……』


『美味しいうえに、炭水化物と合わせて野菜や肉を手軽に取れるからだ』


 どうやら、完全食の位置づけだったようだ。あの隆起した筋肉の影の立役者は、カレーだったのかもしれない。

 答えが出揃ったところで、『俺は生姜焼きが好きだ』とメッセージを送る。厳密には、(明海の作った)生姜焼きだ。今日、俺の好きな食べ物は更新された。豚汁もいいけど、やっぱりここは主菜だろう。


『次は僕だね。好きな飲み物は?』


『スポーツドリンク』


 またもや高速回答の堂島に遅れを取らないよう、俺も急いで文字を入力する。好きな飲み物……無難にこの辺か。


『緑茶かな』


『うん、なんか普通だね。僕はレモンティーが好きだ』


『よくパックの紅茶飲んでるもんな』


「そうなのか……」


 茂木と堂島のやり取りを通して、俺はまだまだ二人のことを知らないのだと実感した。幸い、高校生活には行事というものがたくさんある。これを駆使して、どんどんみんなことを知っていこう。まずは二日後の遠足からだ。


『最後は俺だな。好きな人は?』


「なっ……!」


 意識の外からの衝撃に、脳が揺さぶられる。まさか、堂島からこんなことを聞かれるなんて。これってつまり……恋バナってことだよな?

 さっきまで素早い回答をしていた堂島は、よりにもよって質問者だ。茂木も意表を突かれたのか、中々メッセージが送られてこない。


 画面に表示された時計は、刻々と時間の経過を知らせる。一分という時間が、永遠にも感じる。


「答えないとまずいよな……」


 さすがにスルーは良くない。だが、そうなると何か答えを用意しないといけなくなってしまう。

 俺は、誰が好きなのだろうか。もし、二人でいる時に明海が聞いてきたのだとしたら、彼女だと即答できただろう。(噛み噛みになるのはご愛嬌)


 けれど、今の後ろめたい関係性を無視しても、俺は明海に惹かれているような気がしていた。彼女の仕草に、俺の心臓は何度も跳ねさせられている。明海が恋人役として振舞ってくれていることは、分かっているつもりだ。お金という命綱がなければ、俺と明海の繋がりは容易く切れてしまうということも。それでも、一人好きな人を挙げるとすれば、それは間違いなく明海だった。

 もちろん、それを本人に告げるつもりはない。これはあくまで仮初の関係で、本気にしたと思われれば幻滅されるに違いないから。


 とはいえ、ここは男同士の会話の場。二人になら、教えてしまってもいいのかもしれない。そうして画面をタップしていると、一件の通知が鳴る。


『二人とも遅いから、俺が最初に答えるぞ。俺はサッカー部顧問の渡辺先生だ。数年前まで現役の選手として活躍していたから、尊敬してる』


 堂島から送られてきた文面を見て、俺は違和感に駆られる。


『渡辺先生って男だよね?』


 茂木が先んじて、堂島に疑問をぶつける。すると、間を置かずに堂島は反応する。


『男でも構わないだろ。俺は別に、好きな異性を聞いたわけじゃないぞ?』


 その答えに、俺は自分が勘違いしていたのだと悟った。おそらく、茂木も同じだろう。

 でも待ってほしい。茂木には彼女がいるのだから、それを答えればいいだけだったんじゃないか? 何か言えない事情でもあるのだろうか。

 しかし、これは踏み込んだ話だ。真相を聞くには、茂木との友好度は足りていなかった。


 一呼吸置いた後、俺と茂木はそれぞれの名前を送信し、堂島に困惑されたのだった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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