#19 鯉、恋しい、家に来い
「へぇ、それじゃあ男子達のグループできたんだ」
放課後の帰り道、件の記念写真を自慢げに見せた俺に、明海は嬉しそうな声で言った。
画面を覗き込まれると想像以上に顔同士が近くて焦る。手は繋いでいたいけど、体はある程度距離を取っていないと落ち着かない。
「明海が背中を押してくれたおかげだ。ありがとう」
「そんなことないって。新宮君が自分から動くって決めたからでしょ?」
そのきっかけを与えてくれたのが明海なんだけどな、と思いつつも、頑張りを認めてもらえたようで気分が良くなる。感謝が建前というわけではないが、こうして自分が褒められることで、俺ってやれるんじゃないか? という自信も湧き上がっていた。
「男子だけのグループって、どんな話するんだろうね?」
「俺も経験ないから分からないな。逆に女子はどんな話するんだ?」
「それはもう、恋バ――」
食い気味に答えた明海だったが、唐突に電池が切れたみたいに口を開けたまま固まる。
しかし、疑問を口にするより先に、明海が再起動した。
「鯉だよ鯉! 瑠璃の家で泳いでるって話したでしょ?」
「鯉……」
要するに、鯉バナということか。意外と趣深い話をしているんだな。井寄も「めっちゃわびさびじゃん!」とか言うのかもしれない。……ってその話題が上がる女子高生って、明海達くらいじゃないか?
俺の困惑を、「そんなことより!」という明海の声が制した。
「今は新宮君とモテ男君達の話! そのうち、男子だけで遊びに行ってもいいんじゃない? たしか、『休日に友達と出かける』って書いてたよね?」
「『放課後にゲームセンターで遊ぶ』とか『映画を観にいく』とか、他にも色々ある」
「二人っきりの時間が減っちゃうのは彼女としては寂しいけど、これもノートのためだから仕方ないよね」
ん? それだとノートは二の次で、俺といたいみたいに聞こえないか?
いや、きっと俺が都合良く解釈しているだけだろう。この間ハグした時と同じで、明海は彼女になりきってくれているだけだ。給料分の働きはするという姿勢は、俺としてはありがたい。
家が近づいてきて、俺は足を止める。合わせて立ち止まった明海に向き合い、俺は問いかけた。
「この後時間あるか?」
「どこか行きたいとこでもあるの?」
「良ければ、うちに来てくれないかなって……」
土曜にノートを書き直したから、あの時付けたチェックも全部無効になっている。というのもあって、改めて明海を家に招きたかった。目的は、これ一つだけではないのだが。
「……それと、また料理を作ってほしい」
「『彼女の手料理を食べる』だっけ?」
「ノートのこともあるけど、それだけじゃないんだ。この前豚汁食べただけだけど、もう明海の手料理が恋しくなってるっていうか……」
段々と食い意地張っているだけに思えてきて、言葉尻がすぼんでいく。ここだけの話、残った豚汁も土曜のうちに食べてしまったのだ。美味しかったからまた食べたい。動機はそれだけなのかもしれない。
俺が白状すると、明海は笑うのではなく驚いた様子だった。
「そんなに気に入ってくれたんだ」
意外そうな声色の明海。感想を言葉にすれば、俺の思いは伝わるだろうか。
「すごい美味しかった。毎日食べたいくらいだ」
「そ、そう……」
明海の照れた反応に、俺は自分がどれだけ大胆なことを言ったか気付いた。
味噌汁ってわけじゃないが、手料理を毎日なんてほぼ同義だ。けれど、ここで撤回すれば料理への評価も取り下げるようで、俺は否定を口にできなかった。
「実は、今日は夕飯を作らなきゃいけないからって断ろうと思ってたんだけど……」
目ではなく顔全体を動かして、明海は視線をあちこちに移動させる。思い悩んでいることが、もぞもぞと動かされる手からも感じられた。夕日のせいか、耳も赤く見える。
「今日、パパもママも帰ってくるの遅くて……」
途切れ途切れの言葉が、徐々に明海の言おうとしていることを鮮明にしていく。それが察せられるとこころまできた時、俺は急激に顔が紅潮していくのを自覚した。
「――だから、今から私の家来ない?」
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