#18 なんてことない記念写真
そんな心機一転から週が明け、月曜日がやってきた。今日も今日とて、明海は俺の家を訪ねてきてくれている。
「思ったんだけどさ、俺が駅まで迎えにいくべきじゃないか?」
毎度家まで来てもらうのは、なんだか悪い気がする。それに、彼氏と彼女であれば尚更じゃないだろか。だが、明海は首を横に振る。
「新宮君が往復しなきゃじゃん。気にしないで、通学路の途中に家があるから私も寄りやすいし」
「それならいいんだけど……」
「そんな気張んなくていいってば! 彼氏になろうとしてくれるのは嬉しいけど、まずはノート埋めでしょ?」
明海はそう言うと、目元に弧を描いた。ブレザーのポケットに入れた小さなノートが重さを持つ。土曜日に書き直した内容は、明海にも共有済みだ。
俺は、おずおずと明海に手を差し出す。今まで乗せるだけだった手の平を、自分から伸ばした。土曜の決心が嘘ではないこと、これからの俺の自主性を証明するように。
「ふーん……」
手の平に目を落とす明海の反応は、思いがけず淡泊なものだった。
「……明海?」
「何してほしいか、言ってくれないと分かんないよ?」
「っ……!」
にやにやとしながら、明海が挑発めいたことを言う。
これは、試されているんだろうか……。俺の覚悟が見せかけではないか、明海は見定めるつもりなのかもしれない。それなら、俺の心は決まっている。
手の平に付いた嫌な汗を拭って、俺はもう一度明海に手を差し伸ばす。
「俺と、手を繋いでください……」
朝から顔が熱い。気の早い夏が、もうすぐそこまでやってきていた。
「ふふっ、よくできました」
手元に熱を感じる。羞恥の熱さに比べたら微かな温度なのに、柔らかい感触を起点にして全身に広がっていく。これが新たな始まりだ。緩みそうになった口を正して、明海と共に学校へと向かった。
「ふぅ……」
席に着いた俺は、緑茶を体に流し込んだ。初夏とはいえ、動けば喉が渇くものだ。いや、今日に関しては緊張のせいにも思えるが。そんな水分補給の最中のことだった。
「夕夏、おはよー! 今日もトモちんと一緒?」
「ごふっ!」
井寄が質問したのは、明海に対してだ。しかし、俺と明海の席は隣。井寄の陽気な声くらいなら、余裕で聞こえる。
緑茶が気管に入り込み、俺は反射的に咳き込む。
「え、トモちん大丈夫!?」
「げほっ、ごほっ……なんとか……」
「あんた、もうちょっと考えてから喋りなって」
九条が耳打ちすると、井寄は「あ、そっか」と何かに納得したようだ。それから、明海に手を合わせて謝っていた。どんなやり取りが行われたのかは分からないが、九条のおかげで難は逃れたらしい。
HRまでは時間がある。ここはガールズトークに花を咲かせてもらうとして、用を済ませておくとしよう。
席を立ち、俺は廊下側の列へと足を運ぶ。目的の人物は、俺の接近を勘づいていたようにタイミング良くこちらに視線を向けた。
「友哉か、何か用かい?」
「えっと……LINEのグループを作りたいと思うんだ」
明海に頼るばかりじゃなくて、俺も俺なりに行動しようと決めた。特に、友達関連の項目は俺次第だという結論になったのだ。明海と違い、茂木達との関係はギブアンドテイクではない。俺がアクションを起こせば、彼らも応じてくれるはず。明海は、そう言って俺の背中を押してくれた。
「たしかに僕達も三人になったわけだし、男だけのグループってのはいいね。修学旅行の夜みたいだ」
「それ、話題は恋バナなんじゃ……」というのは胸の内に秘めておいた。乗り気なところに水を差すわけにはいかない。
「薫、ちょっと来てくれ」
茂木が声をかけると、堂島はすぐにやってきた。堂島が近くにいるだけで、周囲の温度が数度上がったかのような錯覚を起こす。これが、筋肉の力なのだろうか。
「どうかしたか?」
「友哉が、僕達でグループ作らないかって。男子会ってやつなのかな?」
「いい考えだ。ぜひ、俺も仲間に入れてくれ」
話はとんとん拍子で進行していった。操作を教わりながらグループを作成し、茂木と堂島に招待を送信する。スマホを取り出した二人が慣れた手つきで画面をタップすると、俺のスマホが通知を鳴らした。
『颯斗がグループに参加しました』『堂島薫がグループに参加しました』
俺が作ったグループ。初めての友達。強烈な達成感を覚え、俺は思わずその画面を写真に収めた。
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