表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/121

#15 矛盾してこそ人の心

200PV突破しました。ありがとうございます。

「このリップは買うとして、そしたらお菓子見よっか」


「……そうだな」


 俺の動揺に、明海からの言及は一切ない。『気にしないでくれ』と言ったのだから当たり前なのに、ここまであっさり対応されてしまうと寂しいものがある。……うん、我ながら中々面倒くさいとは思う。


「うわぁ、懐かしいなー。こういう沢山入ってるのを買って、交換するのが醍醐味なんだよねー」


「そういう文化もあったな。小学生の頃とかなら、俺にも心当たりがある」


 その時は、まだ友達がいたからな。なんだか、自分で言って悲しくなってきた。


「珍しいお菓子を持ってると人気者になったりね」


「それに憧れて、一週間前から近くの駄菓子屋を巡ったりするんだよな」


「あははっ、それ私もやってたよ!」


 共通の話題になり、俺も饒舌になりつつあった。……そういえば、小学校の遠足で変わった思い出があったような。もううろ覚えではあるが、話の種になるかもしれない。


「遠足でいうと、たしか行った先で迷子になったんだよな。列からはぐれて、後で先生にめっちゃ怒られてさ」


 みんながいたから楽しかった空間に、突如自分だけが取り残される感覚。知っているはずの場所が知らない場所になったみたいな恐怖は、小学生当時の俺には刺激が強かった。


「へ、へぇ……それは大変だったね」


「まぁ、詳しいことはあんま覚えてないから、迷子になって怖かったなくらいの思い出なんだけど」


「そっか……」


 せっかく盛り上がっていたはずの空気が、途端に息を潜める。あ、もしかしてこれしくじったか?

 調子に乗って話した結果、空気を破壊する。絵に描いたようなコミュ障の失敗例だった。そもそも、大して覚えていない話を人に振るやつがあるか。しかも、内容は暗い感じだし。こういうところで、俺はまだまだだと思い知らされる。


「で、でも、もう高校生だしな! さすがに今回は迷子にはならないさ」


「じゃあ、新宮君が迷子になっても迎えにいってあげないからね」


「万が一のことがあったら、その時はよろしくお願いします……」


 俺が頭を下げると、明海は小さく笑い声を上げる。止まっていた波が、再び動く音がした。

 たった一言で流れを修復するなんて、これが陽キャのトークテクニックというわけか。俺も見習わなければと心を引き締める。


「私はこれとか買うつもりだけど、新宮君はどうする?」


 明海は、手に持ったグミの袋を掲げて尋ねてくる。


「俺は伝統を重んじて駄菓子にしようかな。さっき、駄菓子屋があるのを見たんだ」


 地図によれば、この店の上階にあるらしい。近くのエスカレータで上がれば、すぐに行けるだろう。


「おっけー。そしたら、私お会計してくるからちょっとだけ我慢しててね」


 我慢? なんのことだろうか。手元に冷えを感じて、俺は疑問の答えに気付いた。今日のほとんどを共にした熱が、離れていったのだ。

 こんなにも物足りなくなるとは思わず、俺は自分の手の平をまじまじと見てしまう。


「そんな顔しないでってば。ちゃんと後でもう一回手繋いであげるから」


 眉を下げ、去り際に言われた言葉で表情を自覚する。俺は、思っていたよりも寂しがり屋だったみたいだ。


 やがて、明海が戻ってくると、すっと手を差し伸ばしてくる。俺は躊躇うことなく、その手を取った。初めは緊張だらけだったはずなのに、今ではこの行為に安心感を覚えている。

 仮初とはいえ、恋人の魔力というのは恐ろしい。……ノートが埋まって関係が解消されれば、こうして明海と手を繋ぐことはできなくなるのか。


 目的はノートを埋めることのはずなのに、俺はその事実に勿体なさを感じていた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ