#15 矛盾してこそ人の心
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「このリップは買うとして、そしたらお菓子見よっか」
「……そうだな」
俺の動揺に、明海からの言及は一切ない。『気にしないでくれ』と言ったのだから当たり前なのに、ここまであっさり対応されてしまうと寂しいものがある。……うん、我ながら中々面倒くさいとは思う。
「うわぁ、懐かしいなー。こういう沢山入ってるのを買って、交換するのが醍醐味なんだよねー」
「そういう文化もあったな。小学生の頃とかなら、俺にも心当たりがある」
その時は、まだ友達がいたからな。なんだか、自分で言って悲しくなってきた。
「珍しいお菓子を持ってると人気者になったりね」
「それに憧れて、一週間前から近くの駄菓子屋を巡ったりするんだよな」
「あははっ、それ私もやってたよ!」
共通の話題になり、俺も饒舌になりつつあった。……そういえば、小学校の遠足で変わった思い出があったような。もううろ覚えではあるが、話の種になるかもしれない。
「遠足でいうと、たしか行った先で迷子になったんだよな。列からはぐれて、後で先生にめっちゃ怒られてさ」
みんながいたから楽しかった空間に、突如自分だけが取り残される感覚。知っているはずの場所が知らない場所になったみたいな恐怖は、小学生当時の俺には刺激が強かった。
「へ、へぇ……それは大変だったね」
「まぁ、詳しいことはあんま覚えてないから、迷子になって怖かったなくらいの思い出なんだけど」
「そっか……」
せっかく盛り上がっていたはずの空気が、途端に息を潜める。あ、もしかしてこれしくじったか?
調子に乗って話した結果、空気を破壊する。絵に描いたようなコミュ障の失敗例だった。そもそも、大して覚えていない話を人に振るやつがあるか。しかも、内容は暗い感じだし。こういうところで、俺はまだまだだと思い知らされる。
「で、でも、もう高校生だしな! さすがに今回は迷子にはならないさ」
「じゃあ、新宮君が迷子になっても迎えにいってあげないからね」
「万が一のことがあったら、その時はよろしくお願いします……」
俺が頭を下げると、明海は小さく笑い声を上げる。止まっていた波が、再び動く音がした。
たった一言で流れを修復するなんて、これが陽キャのトークテクニックというわけか。俺も見習わなければと心を引き締める。
「私はこれとか買うつもりだけど、新宮君はどうする?」
明海は、手に持ったグミの袋を掲げて尋ねてくる。
「俺は伝統を重んじて駄菓子にしようかな。さっき、駄菓子屋があるのを見たんだ」
地図によれば、この店の上階にあるらしい。近くのエスカレータで上がれば、すぐに行けるだろう。
「おっけー。そしたら、私お会計してくるからちょっとだけ我慢しててね」
我慢? なんのことだろうか。手元に冷えを感じて、俺は疑問の答えに気付いた。今日のほとんどを共にした熱が、離れていったのだ。
こんなにも物足りなくなるとは思わず、俺は自分の手の平をまじまじと見てしまう。
「そんな顔しないでってば。ちゃんと後でもう一回手繋いであげるから」
眉を下げ、去り際に言われた言葉で表情を自覚する。俺は、思っていたよりも寂しがり屋だったみたいだ。
やがて、明海が戻ってくると、すっと手を差し伸ばしてくる。俺は躊躇うことなく、その手を取った。初めは緊張だらけだったはずなのに、今ではこの行為に安心感を覚えている。
仮初とはいえ、恋人の魔力というのは恐ろしい。……ノートが埋まって関係が解消されれば、こうして明海と手を繋ぐことはできなくなるのか。
目的はノートを埋めることのはずなのに、俺はその事実に勿体なさを感じていた。
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