#14 ルージュよりも真っ赤な
話し合いの末、一店舗目に選ばれたのは輸入雑貨の専門店。明海曰く、大体のいいものはここに揃っているらしい。
雑然としたように見える店内も、これが海外式と言われてしまえば納得だ。
「ところで、何を買いにきたんだ?」
「新しいコスメとか、切らしちゃったものの補充とか……あとはお菓子! 遠足には欠かせないでしょ?」
誰にも聞かれてはいないが、俺はおやつにバナナは入らない派だ。というか、生ものはまずいだろ。鞄の中で潰れたりしたらどうするつもりなんだ。え、最近はバナナケースとかあるのか。
店頭に並んでいたプラスチック製のバナナ(ケース)に目を奪われていると、明海が俺の腕を強く引いた。
「ほら、こっちこっち」
「分かったから、そんな引っ張らないでくれ」
手を繋いでいると自由に歩くこともできない。それにもかかわらず、明海はその手を離そうとはしなかった。彼女だけじゃなく、不思議と俺も離そうという気は芽生えなかった。
明海に連れられたのは、メイク用品のコーナーだった。カラフルなデザインから単色のシンプルのデザインまで豊富なラインナップに加えて、形も様々な展開を見せている。メイクの世界には足を踏み入れたことがないから、どれをどう使うのかは見当もつかない。
商品が鎮座している棚に教室を重ねてしまう。高校生という括りで学校というスペースに収められている俺達は、俯瞰で捉えるとこんな風に見えるのかもしれないと。
それぞれに色があって、それぞれの形があって、組み合わせや活かし方によって全然違った姿になる。俺の高校生活は、最初黒一色のつまらない線だった。それが明海のおかげで曲線を描き始め、茂木達との出会いが彩りをもたらした。
メイク後の変化を、可愛いは作れると表現することがある。同じように、青春は作れるのだ。他ならない俺が、そう肌で感じていた。
「……新宮君?」
「あ、ごめん……痛かったよな」
「ううん、大丈夫だよ」
無意識のうちに手に力がこもっていた。心配そうな明海の声で、俺は我に返る。
「遠足、楽しみだな」
「うん、そうだね」
漏れ出た言葉に、明海が同意する。班行動が基本だから、二人っきりになることはないだろう。だが、青春ノートの項目は何も恋愛沙汰に限っているわけじゃない。友達と過ごす時間も、青春の立派な一ページだ。
「あっ! これ欲しかったやつだ!」
ふと、棚に目線を戻した明海が、声を跳ねさせ棒状の商品を手に取る。
「限定カラーだから、ここでしか買えないんだよね」
「それ、なんだ?」
「リップだよ。……リップくらい知ってるよね?」
「ああ、さすがに」
「発色がシアーだから普段使いもしやすいし、オイルも入ってるからティントなのに保湿も完璧なんだ」
「えーっとごめん……やっぱり知らないかも」
急な横文字に、俺は自分の知識に自信が持てなくなった。ティント? きちんとの派生みたいな感じなのか?
「もう、しょうがないな……ん」
「あ、明海……!?」
突如突き出された唇に、俺の動揺は人生で最高潮に達する。な、なんなんだこれは……! この表情は、何を求めているんだ?
混乱した俺は、明海の唇を凝視してしまう。瑞々しく弾力がありそうな唇は、うっすら赤みを帯びていて健康的な印象を受ける。これは、男を見せる時が来たのか……?
「あ、あの、あ……」
何かを言おうにも、鯉のようにパクパクとした口からは言葉らしい言葉は出てこない。
「ほら、すごいでしょ。今使ってるのは色違いなんだけど、こんな感じで自然に見えるのに全然色落ちしないの」
「……あ、うん」
リップの効力を示して満足したのか、明海は身を引く。俺は、堪らなく恥ずかしかった。あの話の流れなら話題はリップのはずなのに、俺は一体何を期待していたんだ……! そ、そりゃキスの項目だって青春ノートにはあるさ。できればいいなと思っているからな。それにしたって、この勘違いはまずい。
「どうしたの? 顔赤いよ?」
「気にしないでくれ……」
穴があったら入りたいとは、このことだ。あまりにも無自覚な行動に、踊らされてしまった。天性の小悪魔とは、明海のことを言うのだろう。これを経験したのだから、井寄のボディタッチなどに心を揺さぶられはしない。
しかし、今デートをしている相手は明海なのだ。家に帰るまでの数時間、果たして彼女の猛攻に耐えられるだろうか。
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