#11 交わすのは言葉だけじゃなく
「ねぇ、新宮君。今度の土曜日、一緒に出かけない?」
そんな誘いをされたのは、手を繋ぎ、駅まで明海を送っている途中のことだった。思わぬイベント発生に、繋いだ手の平に汗が滲むのを感じる。
平日の場合、朝と夕方の二人でいられる時間に限り恋人関係ということになっている。では、休日ならどうだろう。もし、他の参加者がいなければ、必然的にすべての時間が二人っきりになる。
大事なことだ。ちゃんと確認しておかないと。
「俺と明海と……他に誰が来るんだ?」
「誰も呼ぶつもりないけど」
それって……デートってことか?」
「えっ!?」
はっ、つい思っていたことが口から漏れてしまった。ただ二人で出かけるだけでデートなんて、前向きに考えすぎだ。きっと、明海なりにノートを埋める方法を考えてくれたに違いない。
しかし、当の明海はそうは思っていないようで。
「……あー、たしかにそうかもね。で、デート……かも?」
なんて、はにかみながら言うものだから、俺としても照れが最高潮に達してしまう。
「そ、それなら、日給上げとくか?」
「いや、全然お構いなく! 私が出かけたいだけだし、お金目当てなんかじゃないから!」
ぎこちない空気になっても、手を繋いでいるから互いに距離を取ることもできずにいる。
明海がお金目当てではない(体裁的に)ということは、今朝のやり取りで分かっていたつもりだった。仏の顔も三度まで。デリカシーの欠けた行いに三度目は許されないと、自分を戒めた。
俺は、取り繕うように別の話題を切り出そうとする。
「そ、そういえば……デートってどこからがデートなんだろうな?」
「え……気のある二人が出かけたら、そうなんじゃないかな?」
明海の答えを受けて、俺は空いた手でスマホを操作する。道の脇で立ち止まったから、歩きスマホじゃないぞ。本当だよ。
「『互いに恋愛的な展開を期待して、日時や場所を決めて会うこと』みたいだな。当たり前だけど、交際中も含まれるらしい。どっちかが友達だと思ってたり、片方でも恋愛的な進展を期待してなかったら、デートじゃないんだとさ」
となると、これは果たしてデートなのか? 恋愛的な展開は、特に期待していない。というか、起きるとすら思っていない。まぁ、広い解釈をすれば俺達は付き合っているわけだ。その点から考えると……
「やっぱりデートなのかもな」
「そ、そうなんだ……」
明海の左手が、手中で落ち着かなそうに動いている。たまにやってくる手の甲をなぞるような感触が、ゾクゾクと背筋を刺激していた。
このまま土曜を迎えれば、『彼女とデートをする』という最難関項目にチェックが付くことになる。できるわけないと半ば諦めて書いたものだったから、実現するかと思うと今から緊張してきた。
再び歩き始めると、空気が張り詰めるでもなく無言の時間が続く。いつもは明るい明海も、なぜか今はしおらしくなってしまっている。耐えきれずに、俺は明海に問いかけた。
「どこか行きたいところがあるのか?」
「うーん……そういうわけじゃないんだけど、遠足までに色々買っておきたいかなって」
つまり、買い物の助手というわけか。参考文献はフィクションの世界だが、女の子の買い物は量が凄いと聞く。当日は、心して臨む必要がありそうだ。
「それと――」
不意に言葉が切れ、俺は明海に目を向けた。同じ方向を向いていたはずの視線が、強制的に重なる。
「新宮君と、もっと仲良くなりたいからさ」
そう口にする明海は、夕焼けに負けないくらい眩しい笑顔を見せた。心臓が、音を立てて鳴ったのを感じる。
躊躇いもなくこんなことを言えるのは、彼女の魅力だ。俺だったら恥ずかしくて言わないし、言ったところで夕日と張り合えるのは顔の赤さだけだろう。
俺が期待しているだけかもしれない。けれど、今の明海の言葉が契約ありきじゃない、本心からのものだと信じたかった。
駅に到着して、残るは別れの挨拶だけかと思いきや、さらなるビッグイベントが舞い込んでくる。
「あ、そうだ! 土曜日の予定も立てたいし、LINE交換しとこうよ」
「……ああ」
これが、夢にまで見たSNS交換……! 俺は、震える手でスマホを操作し、交換用のQRコードを差し出す。この作業だけなら、入学前に何度も練習したからすんなりこなせる。今日まで一度も披露するチャンスはなかったけど。
「よし、これで登録完了! 後でメッセ送るから、友達登録よろしくね!」
「送ってくれてありがとー」と言い残して、明海は改札を抜けて雑踏に紛れる。
夜になって、明海一派のグループへの招待と『またハグしようね』という悪戯じみたメッセージが送られてきた。
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