#103 アタリハズレのハズレの方
「井寄さん……!」
「あ、先輩……」
入口を抜けてすぐ、ちょうど会いたくない集団に遭遇する。うちの高校のジャージを身に着けた、先輩達の群れ。その中に森口先輩の姿もあった。
森口先輩は、これまでと同じように井寄の名前を呼び、手を振ってくる。夕夏達からの酷評っぷりを聞いた後だと、なんだか同情してしまいそうにもなる。が、俺は先輩の味方じゃない。
「おい鉄平、話してこいよ」「行ってこいって」と、他の先輩にそそのかされ、森口先輩が俺達のもとへとやってくる。
「や、やぁ」
「こんにちは……」
頼りない笑みを浮かべる森口先輩に、井寄は気まずそうな態度だ。
「君達、井寄さんの友達?」
「そうですけど」
井寄を庇うように、九条が前に出て言う。悪い虫を追い払おうということが、口にせずとも伝わってくる。ようやく俺も、九条の考えていることが分かるようになったのかもしれない。それとも、俺自身が同じことを考えていたからだろうか。
「悪いんだけど、ちょっと外してもらっていいかな? 井寄さんと二人きりで話したくて……」
後輩相手に強気には出てこない。傲慢じゃないことに好感は持てるが、慎ましさか、意気地なしかと聞かれれば、間違いなく後者だという振る舞いだ。
俺達は、咄嗟に茂木を見る。事情を知っている俺達からすれば、彼氏である茂木に最優先で確認を取るのは当然だ。しかし、そんな分かりやすい行動を取れば、茂木と井寄がただならぬ関係だと察する材料にもなってしまう。
無意識だったとはいえ、ここはもう森口先輩が鈍感だということに賭けるしかない。
茂木が声を発する前、先んじて井寄が返事をした。
「あー、でも……私も場所取っておかないと。今来たばっかで……」
今回のように、出場校のグラウンドを借りて行われる大会では、立ち見が一般的らしい(堂島談)。なので、試合をしっかり観たければフェンスの前を陣取っておかなければいけないのだ。
それを、森口先輩も理解しているだろう。しかし、なおも食い下がってくる。
「そ、それなら、友達に取ってもらおうよ。お願いしてもいいかな?」
「……はい」
絶妙な間を空けて、茂木が答える。腹に一物抱えていることは、森口先輩以外には明白だったはずだ。
「じゃあ桃、あとで。話終わったら連絡ちょうだい、迎えにいくから」
「うん」
サムズアップした夕夏に、井寄は唇を引き結んで頷く。わざわざ『迎えにいく』と言ったのは、森口先輩が気を利かせて(いる風で)井寄をエスコートするのを防ぐためだと、夕夏の若干棘のある声色で気付いた。
森口先輩には悪いが、俺達はもれなく先輩の敵なのだ。
井寄と別れ、グラウンドに出た俺達は、まるで合図があったかのように一斉に口を開いた。
「あの先輩、ひどい男だったな(ね)」
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