#102 決戦の日 はじまり
夏休みも、今日で半分が経過した。いよいよ、サッカー部の大会が始まる。
大会会場の前で、井寄は一際大きなため息を吐いた。
「はぁ……どうしよー……」
「ありのまま話すしかないでしょ」
「そうだけど……」
井寄の顔が曇っている理由を、俺達は当然知っている。この大会当日こそが、森口先輩からの告白に返事をする日だからだ。
告白をして、『大会の日に返事を聞かせてほしい』と言って以来、森口先輩が井寄にアプローチをかけてくることは、ほとんどなかった。せいぜい、廊下ですれ違った時に手を振ってくるくらいだ。見方によれば、誠実というか、クリーンと取れるかもしれない。しかし、女子陣からは逆に「臆病者だ」という烙印を押されてしまっていた。
本当に大会での自分の活躍で惚れさせるつもりだったとしても、それまでに自分を知ってもらう時間はあったように思える。まぁ、そうした静観のおかげで、茂木の滑り込む余地が生まれたわけだ。
告白こそ先を行かれたが、そこからは茂木の圧勝だろう。横取りだと文句を言われる筋合いもない。
だから、俺としては正直なところ告白の返事はおまけみたいなものだった。少し前までは、今日が来るまでにと奔走していたが、茂木と井寄が恋人になった今、主役は堂島だ。
「返事っていっても、さすがに試合の後だろ? まずは堂島の応援が先だ」
「分からないよ? オーケーされる気満々で、試合前に聞いてくるかもじゃん!」
森口先輩の動向的にありえない仮定で、井寄は俺に噛み付いてくる。
「もし心配なら、僕もついていこうか? それなら、僕もその場で手助けできるだろうし」
「うーん……甘えちゃいたいところだけど、それは意地悪かな。返事する前に答え言ってるみたいなものだし」
告白された時点ではなく、ここまで返事を保留してしまったこと。それが森口先輩の期待を煽っている可能性を、井寄は危惧していた。
たしかに、告白した側としては、すぐにノーを突きつけられるよりも、脈ありに感じてしまうかもしれない。
だが、ズルズル引き下がっていた森口先輩を確実に諦めさせるために、俺達は準備をしてきたのだ。
「彼氏がいるってこと、ちゃんと言うんだよ?」
「分かってるよ。でも、どうしよう……これでも諦めてくれなかったら」
「あの先輩に、モテ男君から奪うような度胸ないって」
やはり、森口先輩の評価は散々のようだ。茂木は、「あっても困るんだけどね」と苦笑いを浮かべている。
誰かが無理矢理動かさない限り、井寄は動かないだろう。彼氏の茂木も含めて、同性の友達である夕夏と九条達では難しそうだ。
それなら、俺が切り込み隊長になるしかない。
「そろそろ受付しとかないと、遅れるぞ」
周りの反応を待たず、俺は入口に歩き出す。これくらい強引じゃなきゃ、効果は期待できない。
「あ、待ってよ友哉君!」
最初に続いた足音は、夕夏のものだ。それをきっかけに、続々と足音が連なる。
「もー! 分かったよ! 行くから、置いてかないでって!」
褒められたやり方ではなかったかもしれないが、なんとか井寄に一歩を踏み出してもらえた。けれど、最後に壁と向き合うのは井寄にしかできない。俺にできるのは、こうやって背中を押すことまでだ。
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