#99 明るさに向かう、暗い足取り
これが演劇などの公演であれば、終了後に話す時間があっただろうが、九条の舞踊は儀式のようなものだ。役目を終えたばかりの九条のもとに駆け寄ることはできない。
今度何かしらの形で感想を伝えよう。そう心に決めて、俺達は神楽殿を後にした。
「ここでみんなに相談です!」
何かを買うわけでもなく、ぶらりと出店を巡っている途中、井寄が急に振り返って言った。
「相談って?」
心当たりはないらしく、夕夏は首を傾げて尋ねる。
「花火まではまだ結構時間があるんだけど、さっきの踊りと違って場所を取り合うんだよね。だから、早めに行ってそこで暇を潰すのか、ギリギリまでお祭りを楽しんで後ろの方から花火を見るの、どっちがいいかなって思って!」
早々に花火を見る場所を確保したとして、手持ち無沙汰になるのは否定できない。その場から動けない以上、やれることが限られるからだ。しかし、人で溢れかえった場合、背伸びしても音だけしか聞こえない可能性だってある。
夏祭りを楽しむことと同じくらい、友達と、彼女と花火を見ることは青春ノートにおいて重要な項目だった。
「俺は、早めに行くのに一票だ。音だけじゃ、ノートを埋められない」
「私もそれに賛成。せっかく来たんだもん、ちゃんと花火見たいよ」
「颯斗君は?」
「そうだね、僕も花火が見たいかな。これまで何度も見てきたけど、今年は特別だ」
「うん……そっか」
茂木に回答にはにかみ、井寄は頷く。これで全員の意見は一致した。あとは行動に移すだけだ。
俺達は、はやる気持ちを足に乗せて、神社近くの土手へと急ぐ。正確に言えば、花火がここで打ち上げられるわけではない。だが、この土手からなら空で炸裂する花火を一望できるそうだ。
常連の茂木と井寄がいてくれて良かった。俺なら、迷わず打ち上げ場所の近くを押さえようとしていただろう。
「わー……もう人いるじゃん……!」
打ち上げ一時間前、観客としては相当早めの入りだったつもりだったが、すでにレジャーシートが土手に彩りをもたらしていた。中には、斜面に沿って寝そべっている人もおり、有意義(?)なひと時を過ごしている。
「花火が上がる場所って、どっちだっけ?」
「あそこの橋の方からだから、もう少し離れた方がいいかな」
茂木は、慣れた様子で絶好の鑑賞スポットを探してくれている。
今日がダブルデートじゃなかったら。その仮定が恐ろしいものだと感じるほどに、今日は茂木と井寄に助けられていた。
来年、二人っきりで来ることになれば、俺が全てをこなさければならない。楽しむことも大事だが、今日のうちに学べることは学んでおこう。
抱いた決心で肩に力が入り、なんだか踏み出す足が重い感じがする。さっきまで浮いていた足元が、地面の固さを急に認識したみたいだった。
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