#97 両手いっぱいの食事
茂木達と合流した俺達は、一緒に出店の食事を見て回ることにした。
「このりんご飴があっちで、この綿アメがあっち! それからこのチョコバナナが、あそこの店ね!」
「甘いものだらけだね……」
すでに買っていた商品を両手で持ち、井寄は意気揚々と店の位置を教えてくれる。俺も夕夏と同じく、甘味しかないことが気がかりだった。
「なんかもっと、がっつり食べれそうなのは売ってなかったのか?」
「それなら、階段付近かな」
茂木に先導され、俺は数十分前に目を付けていた焼きそば屋に辿り着く。
「いらっしゃい! 今なら出来立てだよ!」
ソースに負けないくらいに肌を焼いた店主が、白い歯を見せて微笑みかけてくる。額に巻いたタオルとのコントラストは抜群だ。
鉄板の上では、食欲をそそる音と湯気を立てて焼きそばが作られている。ソースの香ばしい香りを嗅ぐと、抗えずに腹が鳴った。
今注文すれば、この鉄板にある焼きそばを提供してもらえるらしい。それなら、迷う必要はなかった。
「焼きそば、一つください」
「まいど!」
わざわざ俺と目を合わせて、店主は気前のいい表情で応じた。その人の良さのおかげか、なおも鉄板で踊る焼きそばの引力か、俺以外の三人も我先にと店主に声をかける。
「私も一つください!」
「私も私も!」
「僕にも一つお願いします」
「あいよ! 嬉しいねぇ」
俺達の注文を受けて、店主のヘラ捌きに熱が入る。瞳に宿る気合いは、真剣そのものだった。
カチャリカチャリ、と響くのは金属同士がぶつかる音。その音さえも、これから提供される焼きそばへの期待を高めていた。
「はい、焼きそば四人前ね!」
やがて、四人分の焼きそばが詰められる。パックが閉まらず、輪ゴムで強引に固定されたそれは、持っただけでカロリーを感じるほどだ。
「これでメインも買えたし、それじゃ戻ろっか!」
「あでも、まだ私チョコバナナ買ってない……」
「それなら大丈夫!」
そう口にした井寄の手元で、チョコバナナをはじめとした数々の商品が分身した。
「ちゃーんと、みんなで食べれるように買ってきたから!」
「ありがと……」
夕夏は、突然の曲芸に呆気に取られていた。
一体どんな芸当だったのか。気になって仕方ないが、タネを聞くのは無粋というものだろう。
「焼きそば一つに対して、りんご飴に綿アメ、チョコバナナがデザートか。どっちが本命か分からないね」
「今日はお祭りなんだから、細かいことは気にしないの! 食べたい時に食べれるのが、屋台のいいところなんだから!」
それもそうだ。焼きそばを食べて、たくさんの甘味を食べても空腹が満たされないなら、また買いにくればいい。祭りの夜は、まだ長いのだから。
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