零壱-迫る異変と日常の日々
あの空の上、あの雲の向こうには、一体何が………
群青の空の下、湧き上がる雲を眺めていた。
私はルナサ・プリズムリバー。この学校の管弦楽部の部長をやっている。「はぁ……」
溜め息を吐く。今日もまた一日が始まった。いつもと変わらない朝。ただ違う事と言えば、少し寝不足気味だという事くらいかしら。昨日も遅くまでヴァイオリンの練習をしていたからね。おかげで今朝の朝食は喉を通りそうにない。
「ルナねぇちゃん?最近元気ないけど、どうしたの?」
ふと後ろを振り返ると、そこには私の妹であるメルランがいた。メルランは心配そうな顔をしている。
「何でもないわよ」
「本当~?無理しちゃダメだよ。姉ちゃんってばすぐ我慢するんだから!」
「大丈夫だって言ってるでしょ。ほら、さっさと学校に行くわよ」
これ以上詮索される前に私は教室へと向かった。
「おはようございます」
私が挨拶をして席に着くと、隣にいるにとりが声をかけてきた。
「おはよールナサ!……あれ?何か疲れてない?大丈夫?」
水泳部で部長をやっている彼女は、いつ見ても輝いている。そんな彼女を見てると羨ましくなる。こんな私の悩みなんて、きっとちっぽけなものなんだろうな……。
「うん。平気よ。ちょっと寝不足なだけ」
「そっか。でもあんまり無茶しない方がいいよ。ルナサってばいっつも頑張ってるんだからさ」
「ありがとう。その言葉だけで嬉しいわ」
「んもう~!!本当に可愛いんだから!!」
にとりは私を強く抱きしめた。
慧音先生が入ってきた。
「おはようございます。今日の時程は普段の逆順ですので、しっかり確認するように。」
やっぱり先生には私の疲れなんて分かりやしないんだ………。
授業が始まってからも私は上の空だった。先生の声もまるで聞こえていない。ただボーっと窓の外を見つめているだけだった。
放課後、突然同じクラスの国府津くんが話しかけてきた。
「今日元気なかったけど、どうした?いつものお前じゃないだろ。」
辰之助くんはいつも前向きで、クラス中のことを気に留めてくれている優しい委員長だ。彼の前では嘘をつけない気がして、私は思わず本当の事を言ってしまった。
「実は、眠れなくて……」
「眠れない?どうしてまた?」
「夢を見るんです。とても怖い夢を……」
「どんな夢なんだ?」
「それは、分からないんです。思い出そうとすると、どこかすっぽり抜けたような気がして………」
「大丈夫か?本当に無理しなくていいんだぞ!ルナサには他にもいいとこたくさんあんだからさ!」
「あ、ありがとう。」
それからしばらく話した後、私は家へと帰った。
帰り道、そこには見慣れぬ光景が広がっていた。
「うわぁー!凄い!綺麗!」
校舎の周りには大きな桜の木があり、満開になっていたのだ。
にわかに元気になった私は、その木の下でヴァイオリンを小一時間ほど弾いていた。
「はぁ……気持ちよかった♪」
そして、ふと時計を見ると時刻は既に6時半を回っていた。
「あらいけない。遅くなっちゃった。」
家路を急いでいると、稗田町の交差点で、ふと視線を感じた。しかも何かおかしい。上から視線を感じる。慌てて上を見ると、そこには巫女装束をきた長髪の少女がいた。年は私よりも少し上くらいか。赤いリボンが風に揺れている。
「こんな時間に一人で、何かあったの?」
彼女はそう尋ねてきた。しかし、私は答えられなかった。何故なら、この彼女の姿に見覚えがあったからだ。そうだ、確か……神社にいた子だ!
「あなたこそ、何でここに!?」
「別に大したことじゃないわ。それよりも質問に答えなさいよ」
「ヴァイオリンの練習してたら帰るのが遅くなっちゃった。それだけよ。」
「そう、それじゃあ帰り道に気を付けなさい。悪い男どもは相手がいくら妖怪であれ、妖精であれ襲ってくるからね。」
「はい、ありがとうございます。」
私は頭を下げてその場を去った。
「あっ!待って!」
後ろから声が聞こえたが、私は振り返らずに走り続けた。
「やっと見つけたわ。全く、手間かけさせんじゃねーよ」
「え?何?」
「ようやく追いついたぜ」
「誰?どこから声が聞こえるの?」
「ここだよ」
「きゃっ!」
目の前に突然現れた少女に、私は驚いた。
「よう。初めまして」
「あ、あの、どちら様ですか?」
「ん?私は霧雨魔理沙だぜ。さっき霊夢に会ったろ?あいつとは腐れ縁みたいなもんでな」
「は、はぁ……」
一体何を言っているのか分からなかった。それにしても、先程の巫女さんと雰囲気が似ている気がする。でも、何処と無く違う感じもする。見た目は全然似てないんだけどね。
「部活帰りか?」
「ええ。そうです」
「へぇ~。ヴァイオリンってやつか。」
「はい。」
「ちょっと聞かせてくれないか?」
「いいですよ」
私は鞄から楽器を取り出した。
「おおっ!!すげーなこれ!ちょっと触ってもいいか?」
「え?はいどうぞ」私がそう言うと、彼女はケースから弓を取りだし、構えた。
「2年前に買ってもらった古いやつだから、音はそんなに良くないけど、我慢してくださいね。」
「これそんなに使ってるのか?新品かと思ったぜ。これからも大事にしろよ!」
「ありがとうございます。」
「よし!いくぜ!」
魔理沙の弾く「ドナウ川の漣」はとても美しかった。
翌朝、朝食を済ませてニュースを見ていると、
『次のニュースです。昨夜未明、東方府幻想市霧湖区稗田町の路上で、女子高生が何者かに襲われました。犯人は現在も逃走中。警察は捜査を続けています』というテロップが流れた。どう考えてもこの近くである。幸いにも襲われたのは女子高校生らしいので、私は安堵した。
学校に着くと、教室では皆がその話題について話し合っていた。
「ねぇ聞いた?今朝の事件」
「ああ知ってる。霧湖区の稗田町だろ?」
「まさかルナサちゃんの家の近くじゃないよね?」
「心配しなくても、ルナサには関係ないと思うぞ」
「そうだよ。ルナサに限って、そんな事ないよ。きっと大丈夫だって!」
クラスメイト達は私を励ましてくれた。しかし、私はどうしても不安を拭えなかった。何か、嫌な予感がしてならないのだ。その日は授業どころではなかった。ずっと窓の外を見つめていた。
そして放課後、帰ろうとしたその時だった。突然背後から声をかけられた。振り返るとそこには魔理沙がいた。
「お、おい。」
「え?何?」
「お前、今日はなんか変だな。どうかしたのか?」
「い、いえ、何でもありません。」
私は逃げるようにその場を後にしようとした。すると、
「待ってくれ!!」
「は、はいっ!?」
いきなり大声で呼び止められたので、驚いてしまった。彼女は真剣な表情で言った。
「私と一緒に来てほしいんだ。」
「ど、どうして?」
「頼む。一緒にきてくれ」
彼女の目は真っ直ぐ私を見ていた。その目を見た時、何故か断る事ができなかった。
「わ、わかりました。」
そして、私は彼女に手を引かれて走り出した。目的地などわからない。しかし、彼女は迷いなく走っていた。まるで何か確信があるかのように。
しばらく走ると、急に視界が開けた。そこは大きな公園であった。
「ここは……?」
「この先に、私の家がある。」
「え?そうなんですか!?」
「ああ。行くぞ!」
私たちは再び走った。住所表示は、霧湖区魔森大林1丁目となっている。おそらくここだろう。
「着いたぜ。ここが私たちの住んでいる場所だ」
こじんまりとした黄色い洋館だった。確かに魔理沙の言う通り、あまり裕福ではないのかもしれない。
「あ、あの、一体何なんですか?ここに連れてきた理由を教えて下さい。」
私は恐る恐る尋ねた。
「それは……」
「あなたがルナサさんですね?」
突然声をかけてきたのは、背の高い男性だった。
「あ、あの、貴方は?」
「私はこういう者です」
男性は名刺を差し出してきた。その名刺を見ると、
『Axe Co., Ltd.』と書かれている。
「あの、これはどういうことですか?」
「実は、魔理沙さんから連絡がありましてね。あなたの事を色々と調べさせていただきました。」
「えっ?何を言って……」
「単刀直入に言いますと、貴方は妖怪なんですよね?」
「え?」
私は言葉を失った。確かに私は騒霊族だし、妖怪であることには変わりない。しかし、人間と共に生活できている以上、人を襲うことは絶対にしない。そもそも、何故こんなことになったのか、全く理解できなかった。
「あ、あの……私は、そんなつもりじゃ……。」
「わかっていますよ。しかし、我々も仕事ですから。」
「そんな、酷いですよ!私、何も悪い事してません!」
「そうでしょうね。でも、残念ながらそういうわけにはいかないのです。」
「そ、そんなぁ……」
私はその場に崩れ落ちた。もうダメだ。どうしようもない。このまま捕まってしまうのだろうか?
「待ちなさい!」
突然誰かの声が聞こえた。その瞬間、私の身体に電撃のようなものが流れた。一瞬意識を失いかけたが、何とか持ち堪えることができた。
「大丈夫か!?」魔理沙が心配してくれた。
「え、えぇ。なんとか。」
「これはこれは、博麗の巫女さんじゃないですか。私とは同業者のはずなのに妖怪を庇うとは、随分といい性格をしてらっしゃる。」
「うるさいわね!あんたがルナサを捕まえるっていうなら、容赦しないわよ!」
「やれやれ、困りましたねぇ。こちらとしては穏便に済ませたかったのですが。」
「ルナサ、あんた戦えるわよね?」「え?い、一応は……。」
私は半信半疑で答えた。正直自信がない。
「だったら、一緒にあいつを退治するわよ!」
「え?ちょっ、ちょっと待ってくださいよぉ~!」
「さっきから聞いてれば、勝手なことばかり言ってくれるじゃないの。」
突如現れたもう一人の人物は、いや、彼女もまた妖怪だ。背中から蝙蝠の翼が生えている。
「私は紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ!この幻想郷を脅かす存在は、何人たりとも許すわけにはいかないわ!」
「へぇー。吸血鬼が相手ですか。それならば、こちらもそれなりの対応をしなければいけませんね。」
「ふん。負け犬ほどよく吠えるというけれど、まさにその通りね。」
「お嬢様、あまり調子に乗るものではございませんわ。」
「え?…ちょっ……ここ人集まりすぎでしょ!」
「ふっ、確かにそうですね。では、場所を移しましょうか。」
「望むところだわ。」
眩い光が目に突き刺さった。
「ここは我が能力、『世界を創り出す能力』で創り出した幻の世界。ここなら文句ないだろう。」
「な、なんだか凄く強そうな敵が現れましたけど……」
「気にしなくていいわ。所詮は雑魚よ」
「おい、何の話をしているんだ?お前たち、まさかこの俺と戦うというんじゃなかろうな?」
「その通りよ!覚悟なさい!!」
「上等じゃないか!!後悔しても知らんぞ!」
こうして、謎の男との戦いが始まった。
―続く―
皆さんこんにちは。作者の国府津辰之助です。『東方幻夢譚』をお読みいただいている皆様にお願いがあります。是非、感想を送って下さい!どんな些細なことでもいいです。一言でも構いません。作者はとても喜びます。これからもよろしくお願いします。




