第60話 二位
「ヴェントクリンゴ、シリタ!」
樹里が呪文を唱えると、前方にいたゴブリンの首元がスパッと切れ、そこからは例の緑色の血が流れ落ちる。
「今よ!」
「……南無三!」
仏教徒なのか何のかよく分からん事を言いながら、根本が絶賛流血中のゴブリンにハンマーをぶちこんでいく。
「ほらよっと」
その横で、俺はもう一匹のゴブリンの側頭部に鍬をぶち込む。
そして更に俺の近くでは、沙織が何故か武器も使わず素手でゴブリンを殴り殺していた。
「ふう。ゴブリン程度なら問題はなさそうですね」
「まあ、そうだな」
息の根を止められたゴブリン達は、煙のように跡形もなく消えていく。
唯一残されたのは様々な事に活用され、人々の生活のエネルギー源になっている魔石だ。
「これをたくさん集めたパーティーには、ボーナスが出るんですよね」
自分の倒したゴブリンの魔石を手に、根本が言った。
俺はそんなにこの国に長居するつもりもないので、ボーナスとか言われてもさっぱりやる気が出ない。
というか、稼ごうと思えば幾らでも稼げそうだし、今のところ余り必要性を感じていないって感じだ。
「根本はなんか欲しいもんでもあるのか?」
「僕ですか? ううん、別にこれといって欲しいものはないんですけど……」
「日々生活するだけでしたら、今の生活でも問題はありませんからね」
根本も沙織も、このように特に物欲が強いという事はない。
一人やる気の樹里だって、金銭の為というよりは一位の成績を取りたいってのが強いんじゃないか?
「まあそれなりに魔物は狩れたんだし、ぼちぼち帰ろうぜ」
魔物は何もゴブリンだけでなく、他にも幾種類かの魔物がいるようだ。
まんまるウサギというのも実際に遭遇したが、本当にまんまるな形をした兎で、短い手足で必死に歩いていた。
なんであんな魔物がいるんだと思っていたが、奴はそのボディーを活かして転がってくると、それなりの速さになる。
しかも近くまで転がってくると、短い足を上手く利用して飛び上がってくるので、根本などはボディーにまともにくらっていた。
「ええぇ! まだいけるわよ!」
「森の中だと分かりにくいかもしれんが、そろそろ陽も暮れてくる頃だ。成果も恐らくあれだけありゃ上位には入んだろ」
俺達が集めた魔石は三十個以上になる。
魔物と戦って倒せるかとかいった問題より、この広い森で魔物を探し当てる方が何気に大変だ。
そうした中で、俺達の成果を見てみれば決して悪くない成果だろう。
「うううん……、分かったわ」
渋々といった具合だが樹里が納得したので、俺達はテントのある場所へと戻る事になった。
キャンプ地では既に帰還済みのパーティーもあるようだが、まだ全員帰ってきてはいないようだ。
「どれ、お前達の持ってきた魔石を提出してもらおう」
教官の元まで報告にいくと、まずは魔石の提出を求められる。
この魔石は単に取り上げられるのではなく、この魔石の買い取り価格に加え、全体での順位を考慮して、後でボーナスが与えられる事になるらしい。
「……ほおう、三十四個か。これまでで一番の数だな」
「よし、やったわ!」
教官の言葉に素直に喜びを露わにする樹里。
そこへ、別のパーティーがキャンプ地へと戻ってくる。
火神率いる武闘派な感じのパーティーだ。
「次はヒカミのパーティーか。どれどれ……」
帰って来るなり同じように魔石の提出を要求される火神。
その要求に応じ、教官へと魔石を渡しているのだが……。
「あれ、もしかしてウチのより多くないですか?」
わざわざヒソヒソ声で根本が言っている通り、若干向こうの方が数は多いように見える。
火神のパーティーは、ジャージ男を初めとした厳つい系の男連中に、おまけのように権助どんも混じった五人パーティーだ。
もうなんというか、男連中の中でも取り分けむさ苦しい男達を集めたラインナップだ。
少し離れた場所にいるのに、俺の方にまで男臭さが漂ってくる気がするぜ。
「……全部で三十八個か。これはお前達が初日の最高記録になりそうだな」
「そうか。ちなみに次点はどの程度だったんだ?」
「それならほれ。そこにいる連中が三十四個で、恐らくこれも二位確定だろう」
「そうか」
教官との話を終えると、火神は俺の方を向いてニッと笑みを浮かべる。
まあ、あれは恐らく「流石大地、お前もなかなかやるな!」といった意味合いなんだろうけど、俺の前にいる奴は別の意味に捕らえてしまったようだ。
「ねえ! 大地、ちょっと見た!? あの大男、あたしらの方を見て鼻で笑ってたわ!」
「……別にあれはそういうんじゃないだろ」
「じゃあ何だっていうのよ!」
すでに火神達はこの場を離れつつあったので、俺らのこのやり取りは届いていない。
俺は興奮している樹里をなだめすかし、明日はもっとたくさん集めるわよ、と息巻く樹里と別れを告げ、根本と共に自分のテントへと戻っていく。
それなりに良い時間になっているし、そろそろ夕食の準備も始めないとならんのだ。
「フッ……。流石大地、お前もなかなかやるな!」
テントに戻るなり、火神の奴が俺の予想通りの言葉で出迎えてくる。
一緒に戻っていたので権助どんもテントに戻ってきているが、相変わらずチャラ男だけは別行動だ。
アイツはほんと自由だなあ……。
「……まあ、あまり張り切りすぎてケガをするなよ」
「無論だ」
まあ自分で言っててなんだが、こいつがケガをするようなビジョンがさっぱり浮かばんな。
それからは昼食の時と同じように、根本メインで仕込みが始まり、一時間ほどかけて料理が完成した。
まあ一時間といっても、煮込んでる時間が長かっただけで、別にそれほど凝ったもんを作った訳ではない。
「うむ、美味い!」
「こういった状況のせいか、うんめえなあ」
根本の料理はなかなかに好評なようだ。
火神の奴はお世辞などいうタイプではないし、演技も下手そうだ。
権助どんも純朴そうな感じで嘘をつくタイプでもないし、二人とも本心を述べてるんだろう。
「大地さんはどうですか?」
「……フンッ。まあ上手いかまずいかで言ったらまずくはないな」
「つまりは美味しいという事で?」
なんだ?
やけに突っ込んで聞いてきやがるな。
これが可愛い女の子の手作り料理だったならともかく、なんで男の手料理でこんな会話イベントをしなきゃならんのだ。
「俺がこれまで食べた食い物の中では、八十六位くらいだな」
「……逆に一位から八十五位までがどんな食べ物なのか気になりますね」
そんな会話を交わしながらも夜は更けていき、就寝の時間になった。
しかし夜中寝ていると、権助どんの歯ぎしりの音で目が覚めてしまう。
「…………これでも食らえっ!」
俺は権助どんの口に藁束を突っ込み、物理的に歯ぎしり音をストップさせる。
……これでよし。
俺は意外と繊細な男なので、こういった環境音があるとグッスリ眠れないのだ。
では、おやすみなさい。




