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第4話 異世界転生?


 さて、ここまで異常な事態が続けば、もう矢でも大砲でもなんでも来いや! ってな気分になってしまい、強気で帰路についていた俺。

 けどまさかここで、こんなド定番なシーンに遭遇するとは思いもしなかったぜ。


 今、俺は、幼女を抱きとめている。

 あ、犯罪とかそーゆーんじゃないよ?


 目の前でトラックに跳ねられそうになっている幼女がいたから、咄嗟に助けに出てしまったんだな。

 その結果、本来であれば俺の体は勢いよく吹っ飛ばされてたハズなんだけど、火星人印の俺のボディーは完全にトラックに打ち勝ってしまっていた。


「うっ……ぁぁ……」


 俺の胸の中の幼女も、突然の出来事に言葉が出ないようだ。

 近くを見回してみても、この幼女の親らしき人は見当たらないので、とりあえず幼女を抱きかかえたまま道路を渡り切って、地面に下してみる。


「いいか? 道路を渡るときはちゃんと車のいない時か、横断歩道を使うんだぞ?」


「わっ、は、はあああい」


 ようやく幼女は自体が飲み込めたのか、体をガクガクと震えさせ始めた。

 そして表情も変化していき……お、これは泣いちゃうか? え、この場面だけ見られたら俺ヤバいんじゃね?

 などと考えている俺の耳に、幼女の声が届く。


「お、おじさん! たすけてくれてありがとー!」


 どうやら寸での所で涙を堪える事に成功した幼女が、お礼を言ってきた。

 おおう……。お兄さん、なんだけどな?


 トラックの衝突にはダメージを受けなかったのに、いたいけな幼女の一言に俺の心は抉られる。

 ついでに視界の端では、衝突したトラックの運ちゃんがどうにかして車から降りようとしている様子が映った。

 俺とぶちあたったのが助手席側だったせいか、あんだけ派手に俺の体の形に凹んだトラックだったのに、運ちゃんの命は無事だったようだ。


 しかしなんだ?

 車から降りようとしているのだと思ったが、よく見るとその途中の状態のまま動いていない。


 え? 途中で力尽きた?

 

 普通なら自分を引いた相手の事など気に掛ける余裕はなかろうが、そこはこの超地球人となった俺様よ。

 運ちゃんの様子を確認しようと体を動かし……たはずが、どうにも体が動かない。

 それどころか妙な幻聴まで聞こえてきた。


〈ええと、次は大地宇宙じゃったな。あー、残念ながらお主はただいま死んだ。えー、なになに。死亡予定では前方不注意でトラックに突っ込んで死亡か。ふうむ、もしやアレか? そっちで流行ってるという、異世界転生でもしたかったのかの?〉


 話しかけてくる相手の姿はどこにも見えない。

 例によって頭の中に直接響いてくるような感じだし、体も動かせないから周囲を見渡すことも出来ない。

 ただ、あのサイキックマインドの男の時とは少し声の伝わり方? が違うような気がする。


〈そんなお主に朗報じゃ。さっき飲み仲間の神達とのビンゴ大会で、見事優勝してのお。優先的に転生者を都合してもらえる事になったんじゃ〉


 ハァ? 神様ってビンゴなんてやるのか?

 って、そんなのはどーでもよくて、これはまさにテンプレパターンが来たんじゃないのか?


〈でな? この後死ぬ予定のお主にスキルを授けて、異世界に転生してもらう事になったのじゃ。どうじゃ? 嬉しいじゃろ?〉


 いや、まあそれは嬉しいっちゃ嬉しい……のか?

 けどいきなりよく分からん世界に放り出されるのはキツイ……って事もないのか。

 今の俺は、自分自身でもよく分からない存在になりつつあるからな。


 それよりも、さっきからこのジジイが未来形で話してるのは一体どういう訳だ?


〈本来ならスキルも転生者自身に選ばせるのが規則なんじゃがの。ワシはこの後、女神ちゃんとデートの約束という重大な約束があるのじゃ。そこで先にプログラムを組んでおいて、お主には自動的にこのメッセージと、ワシが選んだスキルが贈られるようにしておいた〉


 な、なんだとおおーー!


 なんかこの神様適当すぎやしないか?

 そもそも俺って死んでるのか?

 今の俺の体なら、あの程度(トラックに轢かれる)で死ぬことはないと思うんだが……。


〈ホッホッホ。今頃はお主が感謝の涙を流している姿が目に見えるようじゃわい。さて、それではワシはこれから大勝負を掛けにいくでの。このメッセージの送信が終わったら、お主も自動的に異世界に送られるようになっとるから、お主はお主でがんばれよい〉



「ちょ、待てよ!」


「ほええぇ?」


 α波でも放出してるかのような幼女の声に、俺は自分の体が動かせるようになっている事に気づく。

 というか、硬直が解ける直前に言おうと思っていた事がそのまま口から漏れていたようで、幼女が困惑していた。


「い、いや。その、車には気を付けて帰るんだよ? お兄さんとの約束だ」


「うんっ! 分かった!!」


 うむ。子供は元気が一番。

 そして幼女は俺の下を離れ、家路につく。


「じゃあああねえええ、おじさああああん!」


「おじさんちゃうわっ!」


 すでに大分距離が離れてしまっていたから、俺のツッコミは聞こえなかったであろうが、これだけはどうしても譲れないラインだ。


「あ、あの……。大丈夫、ですか?」


 背後から声を掛けられ振り返ると、そこには買い物帰りの主婦といった装いの人が心配げにこちらを見ていた。

 改めて周囲を見てみると、先ほどは停止したままだったトラックの運ちゃんも、どうにか車からはいずり出ることに成功したようだ。


 通行人の助けを借りて警察や消防などにも連絡を取っていたらしい。

 あれ? そういえばこの事故の被害者って俺とあの幼女だよな?

 勝手に幼女を帰してしまったのは失敗だったか?


 なんて事を考えてると、遠くからサイレンの音が響いてくる。

 近くでは返事のない俺の事を心配してか、再び先ほどの主婦らしき女性が声をかけてきた。


 んーむ、なんだか面倒な事になりそうだ。

 というか、俺は異世界に転生するんじゃないのか?


 しかしそのような傾向は一切起こらない。

 自分の体をあちこち触れてみたり、体内にある魔力やサイキックマインドに意識を集中しても、俺と俺の周辺に異変は…………いや。


 なんか、魔力やらサイキックマインドやらで騒がしくなってきた俺のインナースペースに、覚えのないナニカがあるな。

 それもこれまで得た力とは異なり、指向性があるもののように思える。

 これがもしかして贈られたスキルという奴か?


 俺が内なる変化について熟考しているうちに、どうやら警察の車両などが到着していたようだ。

 先ほど俺に話しかけていた主婦や通行人などが、警察官の事情聴取に応じていた。


 俺のそばにも警察の人が一人いたのだが、何も反応を示さない俺にどうしたもんかといった顔をしている。


 いや、どうしたもんかって顔したいのはこっちの方なんだよなあ。

 目撃者への事情聴取によって、俺がトラックに轢かれたのにピンピンしてるって話が、警察にも伝わっちゃっている。


 ううん、このままだと強引に病院に運ばれかねないな。

 下手に病院で検査なんて受けたら、俺の仮性人ボディの……じゃない、火星人ボディの秘密が漏れてしまうかもしれない。


 …………うん。ここはこれまで得た能力を駆使して、強引に乗り切ろう。


「あの……大丈夫ですか? 話すことはできますか?」


 反応のない俺に熱心に話し続けていた警察官に、俺は声をかける。


「ホッホッホ。心配はいらぬぞ。どうやらワシの遣わした使徒によって、あの幼子は無事じゃったようじゃな」


「え、は、はあ……」


「これもあの子の徳の高さ故。人間よ、神への信仰を怠るでないぞ」


 ついさっきの神の口調になってしまったが、俺は頭のおかしい人みたいな言動をしつつ、サイキックマインドを発動させる。


「えっ……わああ!?」


 すると俺の体は宙へと浮かんでいく。

 あとはこのままそれらしくフェードアウトすればいいだろう。

 んー、そっちは魔法の力でどうにかできないかな?


 どうにかこうにかして、魔法で光を発生させる事に成功する俺。

 対ショック、対閃光防御を完備した俺からすれば、この光量の中でも視界を奪われることはない。

 だが普通の人間からしたら、地上に降り立った太陽のごときまぶしさだろう。


「ではさらばじゃ」


 最後に捨て台詞を残し、光り輝いた俺はそのままサイキックマインドのサイコキネシスを使って自身を操作し、空の彼方へと消えていく。



 ……って、俺自宅に帰る所だったんだよ。

 空の彼方に消えてどうする。


 ううん、仕方ない。

 徐々に光量を落としつつ、どこか人気のない所を探して着陸しよう。

 お、あのビルの屋上なんかよさそうだな。


 こうして俺は、現在地もよく分からないままビルの屋上に降り立った。



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