第30話 益荒男
まず、平良純也の方なんだが、こいつはなんかもう人付き合いが下手。
というか、他人を全て自分より下に見ているので、口の利き方が尊大。
そしてちょっとした話題でも、平良の言ってる事を論破したりすれば、顔を真っ赤にして暴れだす。
まるで知識だけ詰め込んだ小学生みたいなやつだ。
いや、小学生でも高学年になってくれば、こいつよりはマシだろう。
という位、気に入らない事があるとすぐ暴れる。
それで物事が解決できると思っているんだろうか?
そんなんだから、基本こいつは誰も相手にしていないんだが、こいつ自身から近寄ってこられれば、問題も発生する。
特にこいつのターゲットは、ヘイガーである自分より上のクラスの機装を貸与された者。
すなわち、コゥガァーボーシュのチャラ男こと細田篤。
オツァーガ三人衆の、沙織、火神、権助どん。
この四人となる。
平良はこの世で一番優れている自分が、三番手にあるヘイガーを宛がわれる事が、どうしても耐えられないらしい。
なのでこの四人に対してだけは、自分からちょっかいを掛けていく。
その結果……、
細田は「はいはい……」と完全に受け流して相手にせず。
火神からは最初に鉄拳制裁を喰らったので、以降は離れた場所から呪いの言葉を投げかげるに留めている。
今でも時折そうした平良を見かける事があり、興味本位に駆られて俺の超聴覚で何をボソボソ言っているのかを聞いてしまい、後悔したのも記憶に新しい。
権助どんは、恐らく故意ではないと思うのだが、平良との対戦時に盛大にボディプレスをぶちかましたらしく、それ以降権助どんにも正面切って絡みに行くことがなくなった。
結果、残った沙織にはいまだに平良は粘着質に絡みに行く。
沙織も沙織であの性格だから、ビシバシッと筋の通った事を言ったりして筋道を通そうとするので、余計両者の関係はこんがらがってしまう。
沙織はあんな奴でも話せばわかると思っている節があって、細田のように最初から相手にするのを止めるような事をしないのだ。
それがまた粘着質な平良と妙に絡まって、決着のつかないPK勝負を延々続けるような状況になっている。
俺も根本も、いい加減に平良の相手をするのは止めるべきだと忠告してはいるのだが、彼女もなかなか頑固でなかなか折れてはくれない。
そういった訳で、俺が直接困っている訳でもないんだけど、沙織が被害にあってるんだよね。
そして、もう一人のヘイガーリュースイの大森智子だが、こいつはこいつで面倒な奴だ。
こいつのターゲットは完全に女性であり、男に対しては何でも自分の言う事を聞く存在だと、そう思っているように見える。
ターゲットとなる女性は、自分より優れた能力や特徴を持っていたり、自分より人気のある相手となる。
要するに同性に対する嫉妬心という奴だ。
もっとも、大森は自分が一番美しいと思っているので、本来なら嫉妬を抱く事なんてない筈だ。なんせ自分が一番なんだからな。
けど、心の奥では敵わないと思ってるんだろう。
そういった訳で、大森が敵対視しているのは、自分より上のクラスの機装を扱い、なおかつミャウダ人に強化された肉体をも持っている。
そして、性格の方も芯がしっかりしている大和撫子。
つまり、沙織の事だ。
それと、魔甲機装は最低クラスだけど、魔法を使う事が出来、大森や沙織とは違った可愛い系の魅力を持つ笹井。
この二人が主に大森のヘイトの行き場となっていた。
大森は、何人かの男たちに取り入って、取り巻きのようなものを作っている。
彼らにこの二人の悪口を吹き込んだり、聞こえるような距離で彼女たちの悪口を言ったりと、女子学生の虐めか! というような陰湿な事を繰り返している。
これらは俺が実際に見聞きできた事なので、多分裏ではもっと色々とやってるんだと思う。
沙織に聞いても答えてはくれなかったが、反応からして靴に画びょうを仕込むような事もされてそうだ。
こういったタイプは、段々やる事がエスカレートしていって暴走する可能性があるのが厄介だ。
ただ沙織に関しては、生身でもある程度魔甲機装と遣り合える力を持っているので、大森では危害を与えられそうにはない。
毒物に関しても沙織の体はある程度耐性があるようなので、絡め手でも難しいんじゃないだろうか。
問題なのは、そういった事をされたら防ぎきれるか不明である、笹井の方だ。
彼女は魔法が使えるようだが、肉体的には一般人とそう変わらない。
女性陣の中でもほぼ孤立している笹井は、周りに頼れる者もいないようだし、万が一もあり得る。
……といった感じで、松本以外の二人もなかなかの困ったちゃん達だ。
日本人全体を取り仕切るような立ち位置になっている火神も、そういった問題には口を挟むことはない。
火神の次に、強力な魔甲機装を持っている細田も、女を口説く事以外には無頓着だ。
今の所、二人の問題児達が取り返しのつかない事態を引き起こした事はない。
しかし、このままだといずれ何か問題が起こる気がする。
まあもしそうなったら、俺と沙織に危害が加わらないように立ち回るか。
んー、根本ぉ?
アイツは良い奴だったよ……。
さて、そんな裏事情がありつつも、着実に対戦訓練の日は続き、ついにこの日が来てしまう。
三十二人の日本人が、午前と午後に相手を変えて一日二人との対戦を行う。
つまり十六日も続ければ、全員と一度は当たる事になる。
俺が避けていたというのもあったけど、その最終日である十六日目に俺が対戦する事になったのは、最強の魔甲機装を使う火神だ。
「お前で最後か」
気負った様子もなくそう言った火神は、まるで漫画や映画のキャラのようだった。
何気ない言葉なのに、妙に様になるというかなんというか。
これがこの男が周囲の者を引き付けている、カリスマの力なんだろう。
まるで俺の"鑑定"のようなスキルみたいだ。
……って、まさかこの男。実際にスキル持ってたりしないよな?
以前、魔甲機装ごと"鑑定"を掛けた事はあったが、生身の肉体に掛けた事はなかった。
気になった俺は、改めて火神本人に"鑑定"を行使してみた。
その結果を見て俺は驚く。
コイツ……、マジでスキルらしきもんを持ってやがるっ!
「どうした。着装しないのか?」
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ……」
俺は火神に返事をしつつも、先ほどの鑑定結果の対象を火神のスキルらしき部分にだけ絞って、詳細解析を行う。
すると幾つかの情報が断片的に浮かび上がってきて、それらを分かりやすいように並び替えていく事で、すっぴんの俺にも理解出来るように整理されていく。
どうやら火神のスキルは"益荒男"というもので、やはり人を惹きつける力があるらしい。
そして、それとは別に武術的な才能に恵まれるようにもなり、常に恐れを抱くことのない鋼鉄の心を持つようにもなる。
以前に、「異世界に召喚されはしたけど、別にチートスキルをもらえた訳ではない」って思った事あったけど、まさかコイツは例外か?
それとも他の奴も調べてみれば、何らかのスキルを持っているんだろうか。
……いや。これまで何人かに"鑑定"を使用してきたけど、他にスキルを持っている奴はいなかった。
でも全員には試してないから、今度折を見て全員に"鑑定"を試してみた方が良さそうだな。
「……まだなのか? それとも、それがお前なりの何らかの工夫なのか?」
「何のことだ?」
「俺の魔甲機装は最強だとか言われているが、俺は相手が誰であろうと情報収集を怠ったりはしない。お前は最弱と言われるキガータ型でありながら、勝利を重ねているようだな」
「偶然が幾つも重なりあった結果でな。『着装』」
「フッ、そうか。『着装』」
これ以上の時間稼ぎは、この男には通用しそうにない。
こうして俺と火神の対戦のゴングが鳴らされた。




