第26話 ヘイガートリオ
ダァァンッ! ドオォォォンッ!
辺りに権助どんの攻撃による爆音が、定期的に発せられる。
その音の主な発生原因は、拳で殴りつけようと地面を殴りつけた時か、足で踏みつぶそうとした時に地面に接した時のものだ。
最初は拳による攻撃が多かったのだが、それだと半分サイズの俺相手では中腰にならなければならず、操作がやりにくかったようだ。
なので、途中からは踏みつぶし攻撃を基本にしかけてきている。
その間、俺も無策で逃げ回っていた訳ではない。
権助どんのオツァーガマンサクを"鑑定"にかけて、弱点を探っていたのだ。
すると、構造的に一番脆くて攻撃しやすいのは、向こう脛の辺りだと判明した。
よし、それなら……。
これまで逃げ回っていた俺だが、ここで虚を突いて反転し、接近戦に持ち込む……ように見せる。
「む? そこだべか!」
そんな真正面から迫る俺に対し、権助どんはこれまで通り右足で俺を踏みつぶそうとしてくる。
しかしそんな事はミエミエだったので、俺はギリギリ躱せる程度に権助どんのストンピングを躱し、先ほど"鑑定"で調べて判明した弱点部分にクリティカルな突きを放つ。
魔甲機装は視覚を使用者とリンクし声を伝えたりもするが、基本はパワードスーツのようなものであり、痛みまでを伝える事はない。
しかし構造的な欠陥を付けば、機装の方が耐える事が出来なくなる。
すると……、
「な、ななななっ!?」
権助どんの意思に反して、オツァーガマンサクが膝をついたような態勢に移行していく。
その動きに合わせ、俺はガクンと下がった頭部のあご部分目掛け、突き上げるようなアッパーを繰り出す。
俺は会心の一撃を放ったような感覚を覚えると共に、すぐさまその場から立ち去る。
すると、膝立ちになったオツァーガマンサクが、更にゴロンと前方に倒れていった。
俺はその状態で少し様子を見る。
すると少ししてから自然に魔甲機装が解除され始め、そこには地面に倒れた状態の権助どんが現れた。
「なるほど。これがあん時ストレイダー卿がやってた奴か」
魔甲機装は使用者の周りを魔甲核が覆う事で、外部からの攻撃から身を守る事が出来る。
しかし、強すぎる攻撃……この場合は"衝撃"を受けてしまった事で、機装は大丈夫でも中の人が耐えられない事がある。
そして魔甲核は高い位置……頭部から胸部辺りに格納されているので、その辺りをピンポイントで強打すれば、このように無力化もできる訳か。
「あれ、大丈夫なんですか?」
俺が今の闘いについて考察していると、近くから声が聞こえてきた。
振り返るとそこには奴がいた。
そう、根本だ。
……って、また根本かよ!
「さ、さあ? 死んではいないようだけど」
「ううん、僕のタンゾーでは人のケガは治せないんですよね」
「いやあれケガっつうか、ただ気絶してるだけだろ」
「……僕も良く見てなかったんですけど、一体何をしたんですか?」
「俺もよく見てなかったんだけど、勝手に権助どんが転んで、勝手に気を失ってたんだよ」
「……へぇ、そうなんですか」
俺の言ってる事を微塵とも信じていない様子の根本。
まあ、別にこいつにどう思われようとどうでもいいけどな。
「う、ううぅぅ……。お、おら一体どうしちまったんだべか」
お、目を覚ましたみたいだな。
一応声くらい掛けておくか。
「戦闘中に転んで頭を打ったんじゃないか?」
「え、そっただ事になってただか。言われんてみんば、そげな気してきただ」
おおう、なんという騙され体質なオッサンなんだ。
詐欺師の恰好の的になりそうだな。
「っつー訳で、お前も訓練に戻ってろよ」
「そうですね。ただあの人は少し休ませた方がいいと思います」
「あー、わかったわかった」
最後に忠告を残して去っていく根本。
ただまあ、言ってる事は間違ってないか。
あんなデカイ魔甲機装を操ってるとはいえ、中身はただのオッサンだしな。
「権助どん、彼の言う通りそこで少し休んだ方がいいですよ」
「ご、ごんすけどん? ……そうだすな。なんか記憶ば少し飛んだよやし」
あれ? 名前権助じゃなかったかな?
なんか反応が少しおかしかったけど……。
そしてそれから十五分くらい、休憩を挟むことになった。
俺は権助どんと世間話をする趣味はないので、権助どんに断って一人着装して仮想敵訓練を行っていた。
わずかな時間も無駄にしない、俺のこの姿勢よ!
その後は復帰した権助どんとの対戦が再開されたのだが、どうもさっきより動きが消極的になってるね。
俺の方も、余り衝撃を与えすぎちゃうと権助どんにダメージがいっちゃう可能性があったので、結局鬼ごっこのような事を延々と続ける羽目になってしまった。
こうしてこの日の訓練は終わり、次の日以降も毎回相手を変えての対人戦が行われていく。
そうした日々が数日続いていくと、日本人たちの間にある傾向が現れ始めた。
「お前とは対戦まだだったよな? お前クラスとタイプは?」
「え、その、ジンガーボーシュ……ですけど」
「え、ジンガーかよ。そりゃあ楽出来そうだぜ、へっへ」
いつものように訓練場に向かう途中、そんな会話が聞こえてきた。
話しかけられていた女は……、確か初日のテストでシンガーの在庫がないからってジンガーを割り当てられた女だな。
男の方はヘイガートリオの一人、か。
ヘイガートリオってのは、まあ勝手に俺が名付けた名称だけど、意味的には三馬鹿トリオに近いな。
ヘイガータンゾーを割り当てられた、まんまる眼鏡を除いた三人のヘイガーの使い手。
その内の一人は先日権助どんを責めていた女で、残り二人の男の内の一人が、今さっき話してた奴だ。
確か松本敏郎とか言ったっけか。
それとあと一人、神経質そうな眼鏡をかけた、七三分けの平良純也という男。
こいつらはこれまで見た感じだと、ろくな奴らではないという印象だ。
そして、今日の昼休み。
いつものように沙織と根本と三人で昼食を取っていたのだが、その時根本が松本の対戦訓練の時の話をした。
「……正直見ていて気分がいいものじゃなかったですね」
なんでも同じボーシュタイプでも、性能が高いヘイガーボーシュを操る松本が、ジンガーボーシュの女をぼっこぼこにしていたらしい。
「何日か対戦してみて分かったけど、魔甲機装はちょっとやそっと殴られたくらいでは、中の人に身体的な影響はでないんです」
そこで根本は俺の方へ、ジッと視線向けてくるが……。
男の視線など知らん知らん!
「……ですけど、攻撃されているという恐怖感は、魔甲機装でも防いではくれません。泣いてやめてと叫んでる彼女を、それはもう楽しそうにあの男は甚振ってましたよ」
「なんとそのような! 止めに入らなかったのですか!?」
「そう言われましてもね……。その時の僕の対戦相手は、あの最強と呼ばれてる、火神剛三の操るオツァーガガムシャーでしたから」
「それなら彼に状況を説明したらいいではないですか!」
「いや、それはしたんですけどね。『弱者は戦に必要無し。あの場から立ち上がれぬようでは、所詮戦場では生きられぬ』みたいな事を言われて、相手にもしてもらえませんでしたよ」
そいつは随分とアレな考え方だな。
まあ別に大きく間違ってはいないと思うが、生まれつき強者な奴が発するセリフだろう、それは。




