第25話 アヤシイ根本
「脱装!」
俺が降参をすると、沙織はすぐに魔甲機装を解除して俺の元に駆け寄ってくる。
俺もそんな彼女に合わせ脱装すると、沙織は少し慌てた様子で言った。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「え? ああ、大丈夫だよ」
「あの、私、幼い頃から武術を学んでいて……。えっと、その時と同じ感覚で技を使ってみたら、大きな音と衝撃が……」
「大丈夫だから、落ち着いて」
「は、はい……」
いつもは冷静なイメージのある沙織だけど、これだけ取り乱してるのは珍しいな。
「スゥゥ、ハァァァ……。すいません、少し取り乱しておりました」
「ははは、珍しいもんが見れたからいいよ」
「……意地悪な事をおっしゃらないでください」
おおう、今の沙織のキュートな反応に俺のドキがむねむねだよ!
「悪い悪い。にしても、動きが只者ではないと思ってたけど武術か。合気道とかそういった奴?」
「いえ……。一色流という、我が家で代々伝わっている古武術です。組討や捕手を基本として、短刀、杖術などの武器術も修めます。しかし、一色流は相手を害することが目的ではなく、相手を制する事を目的としています。開祖である一色公康は、これによって最終的には相手との……」
「ああ、えっと一色流という古武術なんだね! いやあ、単に魔甲機装の性能の差だけじゃなくて、動きも凄かったから、手も足も出なかったよ」
「あっ……と、そんなことはありません。大地さんの動きも見事なものでした。今更ながらに、あの時必死に訓練してらした動きの意味を、理解できたように思います」
「いやあ、そんな大層なもんでもないですよ」
「いいえっ! あの動きは一朝一夕で出来るようなものではありません!」
なんだろう。
元々古武術をやっていたせいか、摸擬戦で大分暖まっちゃってるのかな?
今も俺の手を握って……あ、恥ずかしそうに手を離したな。
「あ、あの、すいません。つい興奮してしまったようで……」
「ははは、今日は普段は見れない沙織を見られて新鮮な気分ですよ」
「さお……り?」
あ、ヤベ。
いつも心の中では名前で呼んでたから、ついうっかり言葉に出てしまった。
「あ、えっと、俺もちょっと弾みで呼び捨てにしてしまって、慣れ慣れしかったですね」
「い、いえ……、あのもっと弾んでくださっても構いません……ですけど」
「え、あ、はあ。ええと、それは名前を呼び捨てしてもよろしいって事で?」
「はい……。よろしいですわ」
おお、これは結構脈アリなんじゃね?
なんかギャルゲーやってて、急にヒロインが主人公の名前の呼び方を変えてきたような感じがするぞ。
「そ、それじゃあその……さ、沙織」
って、なんか意識すると妙にこっぱずかしいな!
なんだこれ。
俺こんな初心なやつじゃなかったハズなんだがなあ。
「は、はい……」
「ええっと、その、試合再開……しようか?」
「……分かりました」
結局それ以上何かあるでもなく、二回戦目が行われた。
あ、二回戦っていってもそっちの意味じゃないからね。
そもそもこんな周りで巨大ロボットが戦っているような状況で、女を口説くとかないわー。
結局その後も試合を行ったり、技の掛け合いなどを行ったりして、沙織との対戦時間は過ぎていった。
技の掛け合いというのは、魔甲機装も基本的には人間の形状をしているので、柔道の投げ技のような事もできたから、色々試していたのだ。
その結果、素早く動ける沙織はともかく、俺のキガータでは動作が鈍いので、そういった技が掛けにくいという事が判明した。
ちゅうか、これでどうやって戦えっていうんだ。
まあ、実戦で戦うのは魔甲機装相手じゃなくて、魔族なんだけどな。
ともあれ、沙織との対戦時間は終わり、昼飯休憩の時間となった。
俺達は少し早めに脱装をして、いつもの配布場所へと向かう。
その途中での事。
「彩ちゃん、最後のは良かったよー」
「え、マジでー? もしかしてあーしって才能あったりしちゃう系?」
「うんうん、しちゃうしちゃう」
「へえー、それってテンション爆上げだね」
「それならオレがもっとテンション上げよーか?」
「んっ、あっ……。ちょっとー、こんなとこではじめちゃうのー?」
「その方が興奮するだろ?」
「えー、でも、むこーで見てる人いるけどー?」
「ギャラリーがいたほうが燃えるって、そう思わない?」
「あー、たしかに! 燃え上がっちゃうかもー!?」
………………。
まさか、こんな場所で女を口説くどころか、更にその先へと進もうとしてる奴がいるとは……。
訓練場の端っこの方には、幾つか建物も立ち並んでいるのだが、俺と沙織がこうして目撃してしまったように、そこは通り道の途中で誰の目に入るような場所でもあった。
「最初に私達を案内していた人が、風紀を乱す真似はするなと言っていたのに彼らは……」
やばい、沙織の怒りも燃え上がってきている。
ううんと、ここは……。
俺は近くを見渡す。
そして手ごろな大きさの石を発見すると、それを念動力で動かしてナンパ男へと飛ばした。
「ガバチョッ!」
「え? がばちょってなーにー? って、あれ? なんで倒れちゃってんのお?」
よし、俺の飛ばした石は、背後から上手く後頭部に当てられたようだな。
「あれ? なんか男は倒れたようだし、ここはひとまず昼食に行かない?」
「え、ですが……」
これ以上奴らに付き合うのも面倒だし、変に今使用した超能力の事を悟られたくはない。
俺が沙織の気を逸らそうと話しかけていると、背後から声を掛けられた。
「午後の訓練の為にも、しっかりと昼食は取ったほうがいいんじゃないですか?」
「あ、根本さん」
うげ、なんでこいつはいつも俺と沙織との間に割って入ってくるんじゃあ。
「僕もチラッと見てましたけど、屋根から石ころみたいなのが落ちていったみたいです。自業自得という奴ですよ」
「いえ、そういう話ではなくて……」
「まあまあ。奴には今度ほどほどにするように言っとくよ」
「そ、そうですか?」
ってなんか根本と一緒に沙織を丸め込んだ風になっちまった。
こいつはこいつで、何で俺に援護射撃みたいなのしてくるんだ?
目的が見えないから気持ち悪いんだが……。
渋々ながら、沙織は配布場所へと移動を再開する。
俺と根本もその後に続いたんだが、その時根本が小声で、
「やはりあなたは、僕の見込んだ通りの人みたいですね」
とか言うもんだから、なんか背筋がぞわーってしちまったわ。
なんだか日に日に根本警戒メーターが上がっていって、留まるところを知らない状態だわ……。
その後、昼食を取った俺らは再び実戦訓練を行った。
しばらくの間は、一度対戦した相手は避け、午前と午後で違う相手と戦うように指示を受けている。
そして、今俺の目の前に立っているのが……
「ほんだら行くだすよー」
俺の魔甲機装の約二倍の背丈をしている、権助どんのオツァーガマンサクだった。
最初は操作も覚束なかった権助どんだが、今では動き回る位は出来るようになっている。
そして、あれだけ巨大だというのに、その動きの速さは俺のキガータより早い。
同じマンサクでも、上から二番目のオツァーガと、びりっけつのキガータでは基本性能に大きく差があるようだ。
速度としては同じオツァーガの沙織ほどではないのだが、図体がでかい分、迫力がやばい!
上からの振り下ろしのただのパンチなのに、大きな岩の塊が眼前に迫ってくるような感覚に襲われる。
「なぁ、こなぁっ! ちょっこまっかすんでね!」
しかしそれも当たらなければどうという事はないのだ。
図体がでかい分予備動作も分かりやすくて、性能の差があろうと慣れれば避けるのも難しくない。
問題はこのキガータで、どうやってあのデカブツにダメージを与えるかだが……。
俺は権助どんの攻撃パターンを解析しながら、考えを巡らせた。




