第24話 訓練の日々
午後の訓練に戻り、俺は魔甲機装を着装した。
早速午前の仮想訓練を再開……といきたい所だが、その前に少し調べておきたいことが出来た。
根本が特殊能力を発動させたら、超能力を使用した時のような疲労感を感じたと言う。
着装時に魔力を吸収しているのは既に判明しているが、こういったメカメカしいものには魔力よりも、超能力の方がふさわしい。
まあこれは俺の勝手な思い込みだけど、超能力と魔甲機装の関連性について、ちょいと調べてみるとするか。
俺の"鑑定"スキルは、詳細なことまで調べることが可能なんだが、採取するデータが膨大すぎるため、臨んだ情報をピンポイントで抜き出すにはコツがいる。
今回は自分の魔甲機装に、超能力という検索ワードみたいなものを設定して、"鑑定"を掛けてみよう。
どーれどれ……。
…………む、これか?
………………ふむふむ、なるほど。
なんだか思ってたより、結構あっさりとそれらしい機構が見つかった。
この魔甲機装は、基本的には魔力をベースに動いているのは間違いないが、超能力でも代用が出来るらしい。
内部の機構に、超能力を発動させるためのベースの力を、魔力へと変換するための機構が実装されている事が分かった。
ただ、変換効率はあまりよろしくないようで、普通に魔力を使用できるなら断然そっちのが方がいいみたいだ。
この「超能力を発動させるための力」ってのは、もしかしてVRMMOのキャラメイクの時にあった、SPとかいう数値の事か?
魔力とどう違うのか、双方を使える俺にもいまいち分かってない部分であるが、何らかの方法で数値で表すことが出来るのかもしれないな。
今後の事も考えて、"鑑定"スキルでその辺を判別できないか、色々試してみるか。
でも今は今しかできない訓練をするとしよう。
ええと、まずは仮想敵としてストレイダー卿を呼び出して…………。
「今日の訓練はここまで! 各自、魔甲機装を脱装した後、宿舎へと帰投せよ!」
……む?
もうそんな時間か。
確かに周囲はすっかり陽が暮れてきているなあ。
こんなに時間が早く感じるとは、我ながら相当集中していたんだな。
しっかりと訓練をしたという満足感と共に、魔甲機装を脱装していく。
帰りも兵士に付き添われての宿舎への移動となるが、少し様子を見て問題ないと判断されたら、自由に行動しても良いと言われている。
ただし、移動出来るのはこの軍事エリア内か、内壁の内側にある貴族エリアまでのみ。
また貴族エリアは、余り軍人がうろうろしていると咎められる事もあるので、用がなければ近寄らない方がいいとの事だ。
つまり自由行動といっても、うろつけるのは主に今いる軍事エリアのみという事になる。
まあ街に行けたとしても、今んとこ俺たちはこの国の通貨も持っていないので、店を冷やかして回る位しかできないけど。
うーん、その内こっそり街を覗きに行ってみるのも悪くないな。
そういった事を考えながら、家路につく。
ふう、明日からもこんな単調な感じの訓練が続くんだろうな。
果たして俺の予想通り、特にこれといった変わり映えの無い訓練の日々は続いた。
最初の数日間は、とにかく魔甲機装に慣れろ! という事で、長時間着装した状態で動き回ったりさせられていた。
そして権助どんが思い通りに魔甲機装を操作できる頃になると、今度は実際に教官が魔甲機装を操り、型というか魔甲機装での動き方などについての実技指導が始まっていく。
これが普通の人間同士の訓練であれば、一対一で戦わせたりするそうなのだが、魔甲機装は新規に生み出すことが出来ないロストテクノロジーなので、大事に扱われている。
この情報は講習期間中に教えられた事なのだが、そんな調子だとこの先この国が生き延びるのは、無理なんじゃなかろうか。
一応魔甲機装に頼らない方法を必死に模索中らしいが、そんな都合のいい案などそうそう浮かぶ訳もない。
ちなみに西の帝国では、魔法の使い手や技術力、人口などがノスピネルとは段違いのようだ。
この技術力というのは、魔甲機装のようなロストテクノロジーを除いたものになる。
他にも、帝国では魔石を利用した魔導具が普及しているようで、戦闘だけでなく生活の面でも進んでいるらしい。
その内、帝国にでも遊びに行ってみようかなと、その話を聞いたときは思ったものだ。
それはさておき――魔甲機装による基本の動作を、リュースイ、ボーシュなどの種類別に教わっていく俺達。
一応俺も指示された事はやっていたんだけど、これに意味があるのかはさっぱり分からんかった。
なんせ、同じマンサクタイプでも、ロークラスなキガータの俺と、ミドルクラスなキーガの奴では、能力に差があるのだ。
具体的に言うと、俺のキガータではどうしてもできないような速さで、キーガクラスは移動したり体を動かすことが出来る。
一定の動きの型みたいなのは、複数の相手に教えるにはいいのかもしれないが、元々数の少ない魔甲機装なんだから、個別指導の方がいいと思うんだよなあ。
そう言った訳で、俺を含むロークラスな奴らは、訓練に対するテンションが低い奴が多い。
例外は同じキガータの茶髪女――笹井樹里くらいで、彼女はいつも必死に訓練を行っていた。
これは結構意外だったな。
見た目や態度から、そういった泥臭い努力はしないような印象があったのだが、ちょっと俺の中で彼女に対する印象に上方修正が入っている。
そして、そんなロークラスの連中とは逆に、ミドルからハイクラスの連中のテンションは高い。
もちろん、沙織や巌男――火神剛三など、態度の変わらない連中もいる。
けど、なんだろうな……。
奴ら……テンションの上がっている連中を見てると、どうも嫌な予感がしてくる。
この予感が当たらなければいいんだが……。
そんな事を思いながらも、基本の動き方などの指導は二週間に渡って続けられた。
そして、次の訓練がようやく実戦訓練だ。
内容は、日本人同士二人で一組になって、互いに試合形式で戦うというシンプルなもの。
同じ相手だけと繰り返すのではなく、午前、午後と相手を変えて行う。
戦うと言っても武器もないし、特殊能力の使用も禁じられているので、喧嘩……ようするにただの殴り合いで勝敗を決する。
搭乗者の周囲を覆う魔道核は、外部からの衝撃や熱などをある程度防ぐことが出来るので、中は比較的安全だ。
「大地さん、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしく」
最初に俺が対戦を組んだのは、やはりというか、一番仲がいい沙織とだった。
とはいえ、彼女はオツァーガリュースイであり、俺のキガータマンサクとは月とすっぽんと言っていいほどの、性能差があった。
「ハッ! フゥゥッ……」
魔甲機装は他の機装との意思疎通のために、魔甲核内の音声を拾って外のスピーカーみたいな所から外に伝える機能がある。
こんなもんを作れるくらいなら内部に通信装置でも用意すればいいと思うんだけど、そういった機能はついていないらしい。
魔甲機装では、実際に自分で体を動かす訳ではないので、息が切れたりという事はない。
なので先ほどから聞こえてくるのは、沙織が攻撃時などに無意識に発してる声だった。
シュヴァアアンッ!
などと考え事をしている俺の魔甲機装に、激しく風を切り裂くような音が聞こえてきた。
俺はその鋭い沙織の攻撃を紙一重で躱す。
うおう、あぶなっ!
俺のキガータでどうにかこうにか踏ん張れているのも、最初の頃に行った仮想敵訓練のお陰だ。
この訓練がなければ、どこぞの赤い奴みたいにまるでこちらの三倍の速度で動いているような沙織相手に、こうまで粘れはしないだろう。
とはいえ……、
ガコオオォォンッという音と共に、魔甲核でも抑えきれなかった程の衝撃が俺を襲う。
横から回り込んできた沙織の一撃によって、俺は吹き飛ばされたらしい。
「参った」
右手を上げるよう意識した俺の魔甲機装は、右手部分を上げると共に口元のスピーカーから俺の声を伝え、試合の決着がついた。




