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大地転移 ~宇宙人に改造され、魔法少女にされかけた俺は、サイキックマインドを内に秘め異世界を突き進む!~  作者: PIAS
第一章 ノスピネル王国編

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閑話 沙織


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ……誰?



 どこからか、声が聞こえてくる。

 聞き覚えの無い声。

 聞き覚えのない言語。


 夢うつつにいた私は、その声によって少しずつ意識が覚醒していきました。


「…………」


 目覚めた私は、寝起き直後の気だるさを振り払うように、無理矢理に体を起こしました。

 障子、畳、姿見、布団。

 視線を這わしてみたけれど、声の主は見つかりません。


『*********』


 なに?

 何を言っているの?


 依然とどこからか聞こえてくる声に、私は事態の把握に努めようとします。

 けれど、そんな私の努力をあざ笑うかのように、次なる異変が発生しました。


「こ……れは……」


 果たしてその言葉が口に出来たのかどうか。

 突然視界が真っ暗になると、私は訳の分からない空間に浮かんでいました。

 微塵とも体を動かす事も出来ません。


 訳の分からない事態に、私の心は恐怖に染まっていきました。

 そして永遠とも一瞬とも思えるような時間が過ぎた後、私は見知らぬ場所に放り出されている事に気づきました。


 よく見ると周りには、同じような経験をしたと思われる人たちが大勢いました。

 そして光る円の外側には、私達を観察するような奇天烈な服装をした人達がいます。


 その彼らが向ける視線の先。

 その視線が気になってそちらを見てみると、そこには空間にぽっかりと開いた穴がありました。

 まるでブラックホールのように、吸い込まれそうな漆黒の穴。


 周囲にいる他の同朋と思しき人達も、何名かがそちらを見ています。

 少しすると、その空間の穴から一人の男性が、まるでチューブから押し出されるようにして現れました。


 その、彼の姿を見た途端……。


 トクンッ、と。

 私の胸が脈を打ちました。


 何故でしょう?

 彼から視線を外す事ができません。


 しばしそのまま彼の様子を見ていると、彼はその場で戻し始めてしまいました。


「げっ! こいつゲロ吐いてやがるぞ!」


「ちょ、やめてよね」


「今日からこいつのあだ名はゲロ男だな。ギャハハハッ!」


 そんな彼を嘲笑する声が聞こえてきます。

 私はそんな人たちの声を背に、彼に駆け寄っていきました。

 自分でもよく分かりませんが、体が勝手に動くとはこの事を言うのでしょう。



「あの……大丈夫ですか?」


 優しく彼の背中をさすりながら尋ねます。

 一連の動作を行った自分が信じられません。

 何かを考える前に、ここまで体が動いていたのです。


「は、はい……。おかげさんでどうにか……」


 初めて聞く彼の声。

 その声を聞くだけで、私の体の芯が痺れるような感じがしました。

 こう、体の内から……何かが駆け巡っているような気がしてくるのです。


 それから何か別の事に気を取られているのか、黙り込み始めてしまった彼。

 あの奇天烈な服装の方々の話を聞いているようですが、何を話しているのか理解出来ているのでしょうか?


 その後、日本語を話せる方が現れたのですが、どうやら彼らは私達にとって余りよろしい相手ではないようです。

 しかし、訳の分からない状態で暴れるのは得策ではありません。

 とりあえず彼らの後を付いていく事になりました。


 そこは奇妙な材質で出来た床や壁で出来た部屋。

 奥には焼却炉のようなものが置かれています。


「この部屋もそうですけど、このフロア一帯は他とはどこが違いますね」


「そうですね。この壁なんて何で出来てるんだろうね」


 何が起こっているのか分からない状況ですが、彼とこうして話していると心がとても落ち着いてきます。

 そして心が落ち着いてくると同時に、私はまだ彼と自己紹介をしていない事を思い出しました。


「あの、申し訳ありません。私とした事が申し遅れておりました。私は一色沙織(いっしきさおり)と申します」


「ああ、これはどうもご丁寧に。俺は大地宇宙と言います。宇宙と書いてソラと読みます」


 大地宇宙さん……。

 とても雄大で素敵なお名前です。


 それからも私達は言葉を交わしましたが、私の適性検査の番が来ると一旦大地さんとお別れになります。

 またすぐに会えると分かってますが、その僅かな別れすらも今は惜しい。


 せめて検査へ向かう前に何か言葉をと思ったのですが、大地さんは何やら考え込まれてるご様子。

 そこで後ろ髪を引かれる思いで私は一人、何も告げず検査へ向かいます。

 

 焼却炉のような検査装置の中に入り、体中に光を浴びせられながら私は思いました。

 私は……一体どうしてしまったのでしょう?


 彼に全て委ねてしまいたい……。

 気づけばふと、そんな事を考えてしまいます。




「大地さん!」


 そのせいでしょう。

 検査を終え、次の部屋で待っていた私の所に、大地さんがやってきたのを見て……。

 私はらしくなく大きな声を上げ、彼の下へ駆け寄っていってしまいました。


「さ……、一色さんも検査を終えられていたんですね。気づきませんでした」


「ええ。大地さんが難しい顔をして考えてらしたので、お邪魔しては悪いかと先に検査を受けておりました」


 ああ、このような言い方では気分を害されてしまわないでしょうか。

 大地さんとの会話は、細かなところで私を一喜一憂させます。


 まだ出会って間もないというのに、私の心は大地さんに射竦められたみたいです。

 でもそんな浮ついた状態の私でも、最後に着装テストを行った男性が暴走した時には、一瞬にして平静を取り戻しました。


 幸いといっていいかは分かりませんが、男性の狙いは私達日本人ではなかったようで、大地さんが無事だったのは幸いでした。

 場合によっては、あの暴走した魔甲機装に踏みつぶされていた可能性もあるのですから。


 これは、私が……。

 私が大地さんを守らなければ……。


 見た所、確かに魔甲機装というものは中々に優れた兵器のようです。

 ですが、あの時止めに入った人の動きを見た限り、同じことは私にも出来そうな気がします。

 ミャウダの方達によって作り変えられた私の身体は、大地さんを守るためにあったのかもしれません。



 ……などと考えていたのですが、着装テストを終え、宿舎とやらに到着した後の話し合いで、新たな事実が発覚しました。

 なんでも、私達は同じ日本人のようでいて、それぞれ別の日本人なのだそうです。

 本当に今日はとんでもない日ですね。


 最後には私の能力を明かし、人並外れた身体能力がある事を明かしました。

 能力の証明と言われて少し困りましたが、とりあえずそれと分かれば良いのだと思い、看守の目を盗んでその場で跳躍をして見せました。


 その直前、大地さんと眼が合った気がします。

 きっと大地さんも私の能力を見て、私と一緒にいれば安心だという事を理解してくれたと思います。


 私には人並外れた身体能力だけでなく、幼い頃より習っていた武術もあります。

 その二つが揃えば、このような右も左も分からぬ世界であっても、大地さんを守れる事でしょう。


 ええ、そうですとも。

 魔法などなくとも、大地さんをお守りするのは私なのです。



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