第204話 選ばれたのは
内面的な問題……。
突然そんなことを言われても、当然のことながら思い当たることはない。
「……記憶にございません」
「何で急に丁寧な口調になったのか分からないけど、気付いていたらそもそもこんな事態にはなってなかったと思うよ」
そりゃそうだ。
でもこんだけ心当たりがないってことは、火星人にアブタクトされた時に記憶が抜け落ちたんじゃねえかな。
「自力で神力を扱えるようになるにも時間が足りねえし、そもそもの自滅の理由を突き止めようにも俺自身全く心当たりがねえ。一体どーすりゃいいんだよ」
「……そうだね。とりあえず一旦ここは離れようか。元の場所に連れていくよ」
「む、そうだな。地味にここで自分を保っているのはキツイ」
「じゃあ目を閉じて……」
この実際に物質的な肉体がある訳でもない場所で目を閉じることに、どれだけの意味があるか分からなかったが言われたとおりにする。
すると、周囲の環境が目まぐるしく変化していくような感じがして、気付いた時には元の場所に戻っていた。
「大地さん!」
「大地ッ!」
沙織と樹里が心配そうな顔をしながら俺の方に駆け寄ってくる。
この様子だと、精神だけあの場所に移動してたのではなく、肉体ごと消えていたんだろう。
「お前達、心配いらんぞ。ちゃんと無事戻ってきた」
一応言葉でも無事だということを伝える。
沙織や樹里だけでなく、根本やナベリウスも心底心配していたような表情を――していたと思うのは俺の自惚れだろうか。
何故だろう。
こいつらと出会って以来、時折感じていたこの妙な感覚。
それが今、特に強く感じられる。
「大地さん、無事なようで良かったッス……」
「ダーリンは無事なようじゃが、突然連れ去ったのは感心できぬぞ?」
グレモリィは女が俺を連れ去ったものと思っているようだ。
まああの状況だとそう見るのも当然か。
実際間違ってない訳だし。
ただこの女は少なくとも敵対者ではないだろう。
あのような力があるなら、始末しようと思えばいつでも俺を始末できたはずだ。
なのでグレモリィと女の間に入ることにする。
「まあ落ち着け、グレモリィ。この女……そういやお前名前何ていうんだ?」
「私の名前はネムレスだよ」
「その眠そうなネムレスだが、今のところ敵ではなさそうだ。それどころか、俺に関する問題の答えを一つもらえた」
「問題……ですか?」
沙織の声がすぐ近くから聞こえてくる。
俺の無事を確かめた沙織だが、また突然いなくなってしまうとでも思っているのか、俺の右腕にしがみついたまま離しそうにない。
ちなみに左の腕には樹里がぶら下がっている。
「ああ、ストランスブールでの例の出来事の原因だ」
そう言って俺はネムレスから聞いた話を皆にも話す。
俺自身でも制御出来ない神力によって、俺が自身の存在そのものを消そうとしているということ。
一通り話し終えても、ヴァルやグシオンなんかはよく理解出来ていないようだったが、ナベリウスやグレモリィ、それに沙織辺りはなんとなくのレベルでは理解してくれたようだ。
「つまりダーリンの自滅を防ぐには、神力とやらの制御をマスターするか、無意識に自滅の為に力を使っている原因を突き止めなければならぬ……ということかの」
「そういう訳だ」
「そういう訳だって、大地さん! あんな……何があっても死なない人だって思ってたのに、なんで自滅なんてしようとしてんッスか!?」
「そう言われてもなあ……」
「よく理解出来てないんだけど、よーするに大地は心の闇を抱えてて、そのせいで自殺しよーとしてるってことよね?」
「ぬ……、まあそんな感じ……だ」
なんか改めてそういう風に……それも樹里に言われるとグサッとくるもんがあるな。
それと力が入るのも分かるが、そうグイグイ左腕を引っ張るのを止めてほしい。
「あの……、ネムレスさんはどうにかする方法を知らないのですか? 名前以外素性が一切不明なままですが、大地さんの態度を見る限り途轍もない力をお持ちなのでしょう?」
「ううん、君たち相手ならともかく、ダイチ相手だとちょっと難しいかな。ちょっと干渉するくらいは出来ると思うんだけどね」
「干渉……ですか?」
「うん。君たちの内誰かの精神を、ダイチの深層心理に送り込む。上手くいけば、原因となる何かが見つかるかもしれない」
「なんかそういうの映画か何かで聞いたことあるッスね……」
根本が言うように、俺もどっかで聞いたことがあるようなシチュエーションだ。
だがこういう場合ってリスクが付きもので……
「ただし、扱いを間違えるとダイチだけでなく、マインドダイブした側にも問題が発生する恐れがあるよ」
だよなあ。
実際にどういう状態になるのか分からんが、本来は内部にひとつだけしか存在しない器に、無理やりふたつみっつと異物を混入するようなものだろうからなあ。
「大地さん、私はあなたを失いたくありません。あなたが存在しない世界なんて、ありえないんです。ですから、ネムレスさんの仰る方法を試させてくださいませんか?」
「あ、あたしも!」
「妾もじゃ!」
「マスターの為ならこのペイモン、何でも致そう」
「フンッ、よく分からぬが儂が主と認めたダイチの為なら一肌脱ぐぞ」
「お前達……」
皆から我こそは……と、同じような言葉がかけられる。
沙織や樹里、それからグレモリィやペイモンなどあからさまな態度を見せていた奴らはまだ分かる。
だが物作りのことしか頭にないようなアグレアスや、嫌々従ってたはずのナベリウスまで、協力を惜しまないと言ってくれている。
……なんだか妙に胸があったけえわ。
「ちょっと待って。送り込むだけなら何人でもいけるけど、沢山送るとダイチの方がもたないよ。そうだなあ、送り込めるのは三人までかな」
「三人っすか……」
ヴァルの奴もさっきは親分の為なら! って声を上げてたけど、人数制限があると知って肩を落とす。
普段のヴァルならおいらが行くっす! と言ってきそうなもんだが、何やら遠慮しているように見える。
「三人ってことなら、俺が選ぼう」
俺のことでこいつらが危険な目に遭うかもしれないなら、俺自身で選んでおきたい。
根本達日本人組にせよ、ヴァル達従魔組にせよ。
俺が引き込む形でここまで来たんだ。
責任を取る……ってのともまた違うかもしれんが、まあ一蓮托生って奴だな。
「根本、沙織、樹里。俺の深層心理に潜って原因を探ってくるなら、お前達三人に任せたい。勿論これは強制ではないし、俺としてはお勧めできることではない。だがそ――」
「それいじょー言わなくてもいいわよ!」
「そッス。ここまで一緒にやってきた仲じゃないッスか」
「大地さん。私の心は貴方と共にあります」
「……そっか。すまん……いや、ありがとな」
俺が感謝の言葉を述べると、指名された三人はそれぞれが笑顔を返してくる。
知らず知らずのうちに自分が自滅への道を進んでいると聞いて、平静が保てなくなっていた俺の心。
だが三人の笑顔を見ていると、それも薄っすらとぼやけていく。
「話はまとまったようだね。じゃあ、そこの三人をダイチの心の底へ送り込む。私からは中の様子は分からないけど、何か異変があったら君たちを引き戻すから、少しくらいは安心していいよ」
「少しくらいってのが逆にリアルでヤバイ気がするッスね……」
「今更何言ってんのよ根本! 覚悟決めなさいよ!」
「わ、分かってるッス。ちょっと言ってみただけッス!」
まったくこいつらと来たら。
正念場だというのにいつも通りな根本と樹里。
こいつらはこうじゃないとな。
「ではダイチ。まずは君の意識を奪うよ」
「よしキタ。バッチこおおお――」
最後まで言い終える前に、俺の意識は深く沈んでいった。




