第21話 魔法少女
「今のは一体……?」
巌男がびっくり顔で呟くように言う。
まだ出会って間もないが、この男のこうした顔はレアなんじゃなかろうか。
「今のがミャウダ人の技術によって、瀕死だった私を蘇らせた結果です。これでも抑えられてはいるようなんですが、彼らの手術によって、私の体は大幅に強化され、体内にはナノマシンが埋め込まれています」
ふむ。
つまりは俺と同じ状況な訳か。
そう思った俺は、そういえば彼女に対して"鑑定"を使っていなかったなと思い至り、こっそりと"鑑定"を使ってみる。
………………。
…………。
……なあるほど。
確かにこれは色々と改造を受けているなあ。
しかし、俺のと比べると技術的には大分劣っているようだ。
沙織も言っていたが、ミャウダ人とやらは技術を抑えて手術をしたようなので、本気を出せば火星人に迫る技術力があるのかも……いや、それはないか。
元が地球の原住民である俺からしたら、余りその辺の事は理解が及ばない所ではある。
だがそれでも、"鑑定"による結果と俺の中に埋め込まれた火星人の知識からして、雲泥の差があるのではと推測できた。
なんせ、体内のナノマシンにしても、向こうのは体の調子を整えたりちょっとした欠損を治す程度の機能しかない。
しかし、俺のは腕を一本そのまま切り落とされたとしても、驚くべき速度で元通りになる……らしい。
これはまあ実際試してはいないけど、スペックとしてはそんな事が出来ると、俺の頭のデータバンクには記録されている。
「なる……ほど。確かに、これは説得力のある証明だ」
「身体能力の強化に加え、体内のナノマシンのお陰で、各種ウィルスなどにも対応が出来ます。……こちらの世界でどうなるかは少し不安ですが」
「それは素晴らしいな。……しかし、この世界に呼び出された時から思ってはいたが、余りこれまでの凝り固まった常識に縛られるのは良くなさそうだ」
「そう、ですね……。私も超能力という存在には驚きました。ミャウダ人からの技術供与にも、そういったものはありませんでしたので」
「いやあ、あなたの方が凄いですよ。僕の場合、超能力を少し使えるだけですからね」
「そうですよ! それだけの身体能力があれば、あの騎士の人みたいな事も出来るんじゃないですか!?」
キツネ男や他の人たちも、沙織が先ほど見せたパフォーマンスに感銘を受けたようだ。
周囲からやたら凄いと言われている沙織は、これは自分で獲得した力ではないからと、控え気味だ。
そんな沙織持ちあげムードが高まる中、不機嫌な様子の少女の声が響き渡った。
「ちょっとお! その女は単に改造手術をされて強くなっただけでしょ? それならその女が言う通り、凄いのはそのなんたら人っていう宇宙人の方よ!」
その少女の声に場はシーンと静まり返る。
口を挟んできたのは、茶髪の女子高生だ。
腕組みをして仁王立ちした状態で、沙織を睨んでいる。
「それは……確かにその通りだな。しかしそれだけ強く言い放つという事は、君には何か自慢できるようなものがあるという事か?」
その巌男の問いかけは、ナチュラルを装っていたが微かにノイズのようなものを感じた。
んー、ほんの微かな違和感だったけど、一瞬この男の素の部分が見えた気がすんな。
「勿論あるわ! それとさっきまでの話を聞いていて思ったけど、私のいた日本もどうやら特別な世界だって事に気づいたわ」
おおう、またか。
今度は一体何が飛び出してくるんだ?
「ほおう、それは興味深い。どういった所が特別だと言うんだ?」
「一見は百聞にしかずよ! さあ、ひれ伏しなさい!」
茶髪女はそう言って意識を集中し始める。
てか、それを言うなら「百聞は一見にしかず」だろ!
大体、ひれ伏しなさいって一体どういう環境で育ったんだ、この女。
「ファイログローボ、ブルブゥンド!」
茶髪女が呪文のようなものと唱えると、彼女の前の前には小さな火の玉が浮かんでいた。
「フルーグ!」
彼女が追加で何事かを発すると、その火の玉は地面へと向かって衝突し、小さく爆発したのちに消滅する。
「どう? これがあたしの世界の特別な力、魔法よ!」
ドヤ顔で威張っている茶髪女に、周囲の日本人の注目が一気に集まっていく。
それが心地よいのか、茶髪女は大分満足そうだ。
「魔法……か。確かに、この世界にはそういった力が存在するようだし、平行世界のどこかしらには魔法の存在する日本があってもおかしくはない……のか?」
「おおお!? 日本人でも魔法が使える奴がいるって事は、俺でも使えたりするのか!?」
「んー、惜しいですなあ。彼女は魔法少女というには少し年齢が……」
「ええー! 魔法とか超激ヤバっしょ。あーしも使いたいなー」
周囲からの声が聞こえてくる度に、茶髪女の鼻が高くなっていく。
そこに沙織からも声が掛けられる。
「本当に凄いですね。ですが、この場で魔法を使用したのはよろしくないのでは?」
「はぁー? 何言ってんの? あ、自分にはない力だからって僻んでる訳ぇ?
あー、ヤダヤダ」
「……そういった事はありません。ただ私は監視の目が届くような所で、迂闊に力を見せるのは如何なものかと言っただけです」
「それこそ何言っちゃってんの? アンタだってさっきバカみたいに飛び跳ねてたじゃん?」
「アレは門番がこちらを見ていない瞬間を見計らってやったのです。私は視力も強化されているので、ここからでも門番の様子が良くわかるのですよ」
「それって門番の目は誤魔化せても、宿舎の中から見てる人がいたらバレバレじゃーん。やっぱアンタ馬鹿なんだね」
「なっ、なっ、なっ…………」
まるで前世からの因縁の相手、水と油といった具合に反目する二人。
見かねたのか、巌男が間に入って仲裁をしだした。
「待て。ここで我々が争っても何の得にもならん。それよりも、彼女と同じような、魔法というものが存在した世界にいた者は他にいるか?」
巌男が呼びかけるが、反応は一つも返ってこない。
俺もなんだかんだで魔法を使えるようにはなってるけど、元の世界では一般的じゃなかったからなー。
「ふふん、まあそりゃあそうよねえ。他にも魔法使いがいるなら、とっくに話題に出してるはずだしー?」
そう言って笑う茶髪女は、人を見下したような声を上げていた。
そんな茶髪女の様子に、これまで魔法使いという事で盛り上がってた人達も、徐々に距離を取っていく。
いやまあ、ここにも魔法使えるのはおるんだけどな。
ただ、今の茶髪女の言い方は気になるな。
「話題に出す」と言っていた時の意味深な目。
あれはもしかしてそのままの意味ではなく、召喚時に結ばれた主従契約の事を指しているのでは?
……ただそれにしては、今チェックした感じだと茶髪女にも主従契約は掛かったままだ。
もし気づいているなら解除も……ってまだそんな事する時間も余裕もなかったか。
後でこっそり自分だけ解除するのかもしれん。
それにしても、宇宙人に超能力に魔法。
まさしく俺の身に起こった出来事を、そのまま体現したようなのが現れたな。
あとは何だ……?
異世界転生……は、まあこの状況そのものが、転生の方でないけど異世界転移と同じような状況か。
まあ、チート能力を授かったりはしてないようだけどな。
あとはVRMMOか。
こればかりは、中の世界にいる状況では確かめようがなさそうだ。
あの世界みたいに魔物を倒してもレベルが上がらないとか、何かしらの不具合でもあれば、可能性は出てくるけど。
その後も話は少しだけ続いたのだが、いい加減そろそろ宿舎に向かおうという事になって、話は打ち切られた。
こうして波乱に満ちた、召喚一日目が終了した。




