第198話 問い詰める樹里
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アレはたまたまだった。
ほんとーにたまたまだったのよ!
ケンジングに到着して、いつもどおりあたし達は宿に泊まった。
旅の疲れが溜まってたのか、ベッドに入ってすぐに寝ちゃったんだけど、ふと夜になって目が覚めた。
「うー、といれといれ……」
ごーせーな宿になると各部屋にトイレがあったりもするけど、今回泊まった宿はトイレは別だった。
トコトコと廊下を歩いてトイレにいって戻ってくる……その途中。
あたしは大地の部屋の方から魔力反応があることに気づいた。
……気付いちゃったの。
そうなると……ほら……気になるじゃない?
ぼーっとしてたあたしの頭もすぐに晴れてきたから、早速様子を見に行ったのよ。
したら、どうも大地の部屋を包み込むようにして魔力の結界みたいなのがあることに気付いたの。
でもその結界みたいなのは、完全に部屋を綺麗に包むんじゃなくて少し廊下の壁際にはみ出てたわ。
だから恐る恐る手で触れてみたんだけど、魔力的な結界ってだけで物理的な感触はなかった。
手で触る分には、結界の先にある壁部分まで触れられるみたい。
「んー、物理的な遮断をしていないということは、魔法を警戒して遮断してる?」
そう思って、試しに明かりの魔法を結界に近づけてみたけど弾かれたりすることもなかった。
「物理も魔法も素通りするなら他のもの……そういえば、音を遮断する結界って大地はよく使ってるわよね」
そう思って試しにほんの出来心で、壁に耳をあててみる。
すると聞こえて来たのは艶めかしい女の声。
「こ、ここここここれって!?」
ドキドキしながら声を聞いてると、その声に聞き覚えがあるのに気づいた。
最初はなんかその、そーゆー女の人を連れ込んだのかと思ったんだけど、すごい聞き覚えのある声だったのよね。
「これって……一色の声?」
その事実に気付くと、あたしの心が一気にざわつきはじめる。
なんていうか、知っている人同士がそーゆーことしてるってのもショックだったんだけど、それだけじゃないっていうか……。
水に潜って息を止めてるときみたいな……。
なんともいえない感じになってく。
「ちょ、ちょっと部屋に戻っておち、落ち着かなきゃ」
誰に聞かせるでもないのにわざわざそう言って、あたしは部屋に戻ってベッドに飛び込む。
でもあの艶めかしい一色の声がどうしても頭から離れない。
大地の声はほとんど聞こえなかったけど、大地の部屋ってことは相手は大地……なんだよね。
「うっ」
改めてそー考えると、今度は胸が締め付けられたような感じになる。
「え、ちょっと待って。これって、そんな……? まさか?」
言葉では小さな声で否定の言葉が出て来るんだけど、心の中では急速にそのことを意識し始めちゃう。
でも……なんで?
今まではそんな風に思ったことは……なかったはずなのに。
そう思ってこれまでのことを振り返ってみる。
「あ……、でも前から一色とは張り合っちゃうことあったけど、あれも大地が関わってた時だったっけ?」
そう考えると、今まで何で気付いてこなかったのか? ってくらいに思い当たる節がでてくる。
最近ではなんか友達とか恋人とか……、そういうのを超えちゃって家族の一員みたに思っちゃってたから、余計わかんなくなってたのかな?
「うー、何で今更こんなことに……。でもこのまま黙ったままじゃ……」
あたしはウーウー唸りながら、その夜はろくに眠れないままベッドで悶々とした夜を過ごした。
結局眠れないままほとんど徹夜みたいな状態で食堂に向かうと、いきなり悩みの種がのほほんと朝ごはんを食べてる場面に出くわす。
どうにか挨拶だけはしたけど、大地は一色やグレモリィとコソコソと話してる。
話の内容が気になりすぎて、朝ごはんの味もさっぱり分からない。
だから、朝ごはんを食べ終えてこれから何するかって話になったとき、あたしは出たとこ勝負で大地に話しかけた。
「ねえ、大地。あの、ちょっと話があんだけど……」
ってね。
「……それで、話ってのはなんだ?」
「ええと、あの、さ。大地って一色と付き合ってる……の?」
「ううん……、そう、だな。付き合ってるか付き合ってないかでいえば、付き合っているという方が適切な気がしなくもない」
あたしが必死に口にした質問を、大地はなんだか曖昧な感じで答えてくる。
それが妙にイライラして、あたしは強く言い返す。
「どっちなのよ!?」
「……樹里、ここは日本とは別の場所にある異世界だ」
「? それがどーしたのよ」
「だから少女漫画や恋愛ドラマに出て来るような、日本的な恋愛の価値観とは必ずしも一致しない」
「だから何が言いたのよ?」
「つまり……だな。沙織は確かに正妻的なポジションで関係を持っているが、ペイモンともそういった関係を持ってるということだ」
「…………はあ?」
え? 何それ、どういうこと?
「最初は沙織だけだったんだけどな。ペイモンとのことは、なんか沙織も認めてるんだよ。それが逆にコエーんだけどさ」
「つまり、二股してるってこと?」
「二股っつうか、俺としては沙織もペイモンも同じように接してるつもりなんだよ」
「何よそれ! 誰にでもお前が本命なんだ……って、言ってることはスケコマシと同じじゃない!」
「スケコマシってお前……。だから言っただろ? ここは異世界なんだって」
「異世界だからって何でも許される訳じゃないでしょ!」
うー、大地の話を聞いてるとムシャクシャしてくると同時に、涙が出そうになる。
なんでなの?
「別に異世界じゃなくても一夫多妻な所はあっただろ……」
「そ、それはそーかもしんないけどさ……。そもそも大地は二人のことどー思ってんのよ」
「俺の中では……ざっくりと仲間というカテゴリーに入ってる」
「え、仲間?」
「そうだ。俺はこれまで恋愛感情ってのを感じたことがない。好きか嫌いかなら言えるが、愛してる愛していないは区別がつかん」
ええええええ、なにそれ!?
そんなことってあるの?
う、ううううん、でもそーゆー人だっていてもおかしくないのよね。
でもそれだからって二股なんてよくないと思う。
「……具体的にはどこら辺がよくないって思うんだ?」
「え!?」
「え? じゃなくてだな。樹里は何で二股がダメだって思ってるんだ?」
「あ、あれ? もしかして口に出てた?」
「んん? どの発言かわからんが、多分バリバリと口に出してたぞ」
ちょおおおおおおお!!
なんでこういう時にこんなミスするのよ!
ここは一度しんこきゅーをして落ち着かないと……。
すぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………。
ふう、これで少しは落ち着いたわ。
なんか大地が変な目であたしのこと見てるけど気にしない。
「なんでって、日本だと結婚できるのひとりだったじゃない」
「ここは異世界だが?」
「それに、その、やっぱ、好きな人とは二人っきりでいたいじゃない」
「俺の場合は相手がふたり共、今の状態でいいって言ってるんだが?」
「そんなのは無理して言ってるに決まってるでしょ!」
「それは樹里が代弁して言うことではないだろ」
「じゃ、じゃあ、あたしが三人目にりっこーほしてもいいって言うの?」
「……沙織もそんなことを言ってたな」
「えっ!?」
「沙織のあの様子だと、あっさり認めそうな感じはするぞ」
え、えええええええええええええっっ!?




