第19話 超能力
「……確かに平行世界の日本という話も興味深いが、現状ではあまり意味はなさそうだ。そこの男の話を聞いたら、別の話に移ろう」
すっかりまとめ役のようになっている巌男が最後に指名したのが、面長の細目をしたキツネ顔の男だった。
最後に指名された事で一瞬戸惑ったようだが、すぐに作ったような薄笑いに変わる。
「あー、せっかく指名をもらっておいてなんですけど、一体何を話せばいいのやら……」
「別に何でも構わん。敢えて条件を付けるなら、そうだな。自分が当然だと思っている事でも、それがない世界を想像した場合、大きく世界が変わるような事が望ましい」
「うーん、そう言われましてもねえ……」
キツネ男は少し考えを巡らせていたようで、やがて何かを思いついたのか口を開いた。
その口から出た言葉に、俺は今日イチで驚く。
「まー、そういう条件でしたら、シュレイカーの話とかはそうかもしれないですね」
「シュレイカー?」
「なんだっけ? 聞いたことあるような……」
「あー、アイスのチェーン店の?」
「いやいや、確かそういう名前の彗星がなかったか?」
キツネ男の出したシュレイカーという言葉に、周りの日本人たちがあれこれと言い合っている。
そして俺自身もその言葉については聞き覚えがあった。
しかし、話を詳しく聞かないと、思い浮かんだものと一致しているかは分からない。
「そのシュレイカーというのは何なのだ?」
「え、あ、そうですか。これはもしかしたら僕の世界特有なのかもしれないですね」
「いいから、早くシュレイカーとやらについて教えてくれよ」
キツネ男がもったいぶった言い方をするので、つい俺も口を挟んでしまった。
「……ええ、そうですね。シュレイカーというのは、僕の知る世界では世界的に有名な犯罪者集団です」
「犯罪者集団? 世界的に有名となると、それはまた珍妙だな」
「そんなもんですかねえ? ま、確かにシュレイカー以外で同じような犯罪者集団もないですけど」
ぬう、このキツネ男。
意図的なのか知らんが、なかなか本題に入らないな。
さっさとシュレイカーについて語らんかい!
そう思っていたのは俺だけではないようで、幾人かの追求の視線を感じたキツネ男は、視線に追われるように話を続ける。
「ええとですね、その犯罪者集団は日本でも散々事件を起こしてましてね。名前だけはどんどん広まる一方なんですが、壊滅させる事も出来ない。まるで漫画やアニメに出てくる悪のヒーローのような感じで、シュレイカーに憧れる若者がいる、なんてことでニュースになったりもしてましたね」
「……興味深い話だが、何故そいつらは捕まらないのだ? 少なくとも同じ日本をベースにしてるなら、治安はそう悪くないと思うのだが」
「そうですねえ、僕も警察の人間じゃないんで詳しくは知らないんですけど、組織が大きいですからねえ」
「……組織が肥大化すれば、取り締まる側も目標が定まって一網打尽に出来るのでは?」
「いや、まあ普通の人間相手ならそれも可能かもしれませんが、相手はシュレイカーですからねえ」
「その言い方では、シュレイカーというのは人間扱いされてないようにも聞こえるのだが」
「んん? あれ、もしかして……? あー、そーいう事なのかなあ、これは」
くうぅぅ、ほんと何なんだこのキツネ男は。
喉に魚の骨が詰まったような話し方しやがって。
「それはどういう意味だ?」
「あー、えーと、シュレイカーというのは犯罪者集団でもあるんですけど、同時に超能力者の集団でもあるんですよ」
「……超能力者、だと?」
「はい……その様子だと、やっぱそれっぽいですねえ。僕の世界には特殊な力を持つ、超能力者と呼ばれる人たちがいまして、昔から煙たがられてたんですよ」
超能力ッ!!
ということは、このキツネ男。
かなり100%に近い確率で、俺に超能力を授けた男と同じ世界の出身とみた!
「近代化が進むにつれて、そういった差別はなくそうって表向きでは叫ばれてますけど、実態は酷いもんですよ。彼らの行いを認めてる訳ではないけど、シュレイカーなんていう集団が発生したのも、当然の帰結なんじゃないですかねえ」
「なるほど。お前の世界ではその超能力を使える人の割合は、どれくらいなのだ? その能力でどのような事が出来る?」
珍しく巌男が食い気味に質問している。
漫画だのアニメといった惰弱なものなど、この世から抹殺してやる! とか思ってそうな見た目の割に、案外こういうのが好きなのかもしれない。
「えーと、簡単な能力を発現出来る人は一割~二割と言われてますね。まあさっき言ったように、超能力を持っていると迫害を受けたりするので、この数値の他にも力を隠してる人はいますけど」
「思っていたより多いな。それだけ多いのに、迫害を受けたりするのか?」
「昔に比べれば大分マシにはなってますけどね。今だと……クラスの中で虐められたりする奴は、大体超能力者って感じです」
そう語るキツネ男は、若干表情に影を落としたように見える。
「なるほど。……それでお前も超能力を使えるのか?」
「ええっと……、まあ、そうですね。僕のはさっきいった一割~二割の些細な能力ですけど」
「それを見せてはもらえんか?」
「それは……いいですけど。ふう、まさかこの力を大っぴらに使う事になるとは……」
キツネ男はブツブツ小声で何か言いながらも、超能力を発動させる。
それは本人が言うように、本当に些細な能力で、足元にある小石を念動力で浮かせただけだった。
それでも本人はかなり必死らしく、体に負担がかかったのか、途中で鼻血を噴出させていた。
ううん、俺もあのVRMMOの世界で超能力を試してみたけど、鼻血が出たりといった症状はなかったけどなあ。
「ふぅっ、ふぅっ。まあこんなしょぼい能力ですよ」
「いや、それでも俺から見れば人並外れた力だ。素晴らしい」
「そう……ですかねえ。シュレイカーに所属してる一流の超能力者だと、念動力で自分の体を浮かして空を高速で移動する奴や、発現者は少ないですが、瞬間移動の能力を使える人もいると聞きます。彼らに比べたら……」
なぬ?
超能力で瞬間移動が出来るのか?
あのクマブタに魔法で瞬間移動などの空間操作は難しいと聞いたから、ついつい超能力も同じように考えていたんだが、そうでもないのか?
これは今度試してみる価値はありそうだぜ。
「そうか……。そのような能力を持ってる集団だから、警察も手を出せずにいるという事か」
「まあ、そういう事です。迫害された超能力者はシュレイカーの門を叩き、シュレイカーが暴れるほど、迫害も酷くなる。そういった悪循環が起こってる感じです」
「そうか。……皆に問うが、彼の他に超能力というものが一般的な世界の者はいるか?」
この巌男の質問に、手を挙げたものが二人いた。
一人は男で、もう一人は自信なさげに手を挙げていた女だ。
その二人のうち、男の方が先に発言を始める。
「俺の世界でも超能力者は確かにいたぜ。けど、シュレイカーなんて組織はなかったし、そこの男が言う程に超能力者の割合も多くはなかったな。そのせいか、迫害どころかクラスの人気者って感じのポジションだったけどな」
「なっ……、クラスの……人気者?」
男の発言に、キツネ男はショックを受けた模様。
これまで張り付けていたお面が剥がれていく。
そんな彼をおいてきぼりに、二人目の女性も超能力者についての話を語り始める。
「わ、私の世界では、多分今の人よりもっと超能力者の存在は少なかった……です。でも、最近になってイスラエル人のウリ・ゲレル・フロイドという人が、実験的に超能力者を生み出す事に成功してました」
「それは売名行為で金儲けを企もうとか、そういった類のものではないのか?」
「は、初めはそういう風にも言われてたんですけど、徐々に彼の開発した装置で目覚めた超能力者が増えていったので、今では本当なんじゃないかという人の方が多いです」
「それは……ううむ…………」
巌男は何やら考え込み始める。
もしかしたら超能力者に憧れていたのか?
まあ、そんな事よりも、あの男と繋がりのありそうな奴が目の前にいる。
……のだが、改めて考えてみると、だからどうしたという感じではあるな。
キツネ男からはシュレイカーの名前だけで、それと敵対してると思われるヴェフェルンの名は出てこなかった。
その名を知らないのではなく、意図的に口にしていないとしたら、俺がその事を尋ねたら怪しまれるに違いない。
ん? 怪しまれたからといって特に実害もないか?
んー、でもなあ……。
俺がキツネ男とのコンタクトを取るか迷っていると、更に驚きの発言が投下された。
それは、超能力談義が一旦終息し、巌男が考え込み始めた事によって生まれた空白の時間。
発言を投下したのは、この世界に来て俺が最初に接触をした、大和撫子のような古風な女性。
沙織であった。




