第181話 ハイスペック魔法少女
その魔法は単純に先の尖った氷の杭のようなものを打ち込むものだったが、詠唱などもなく即座に、それも一度に二十も展開して俺に放ってきた。
「おわっとぉ、急に何し……」
展開した二十の氷杭は一度に襲い掛かることなく、微妙に間隔をずらしながら俺の方へと誘導されながら飛来してくる。
しかしギリギリまで引き付けてから躱すことで、地面なりに激突させてしまえば問題ない。
……そうやって初撃を凌いだ俺に、今度は先ほどよりも大きな氷の槍が幾つも飛んできた。
このまま躱し続けることは可能だが、近くには樹里達もいるので俺への攻撃のとばっちりを受けかねない。
ここは受けきることにしよう。
「沙織! お前たちは一旦距離を取れ!」
そう呼びかけておいて、俺は迫りくる無数の氷の槍に対して念動力を使用する。
かなりの勢いで俺に向かって飛んでいた氷の槍だが、それら全てを無効化させることに成功。
逆に俺は掌握した氷の槍を少女に向けて撃ち返す。
「ほおう、念動術か。魔法だけでなくそのような能力も使うとは、益々もって興味が沸いてきたぞ」
そう言いながら、少女は跳ね返ってくる氷の槍群に向けて右手を翳す。
魔法を使って対処するのかと思ったが、少女はそのまま氷の槍の一つに右肩を貫かれながら、派手にすっとんでいく。
……今、俺の念動力に干渉してくる力があった。
微弱ではあったが、今の根本よりはよっぽど強い念動力による干渉だ。
あんなことを言っておきながら、自分の方だって超能力を使えるんじゃねえか!
「くううぅぅ……。どうやらお主の念動術は、妾のような軽く嗜んだ程度の力では敵わぬようじゃな。ならばやはり得意な方で行くとするかの」
俺が跳ね返した氷の槍をまともに食らった少女だが、氷の槍によって抉られていた右肩部がまるで映像を逆転再生させたかのように、元に戻っていく。
ただし例の民族衣装は流石に修復できず、衣装に空いた穴だけが先ほどダメージを与えたことを物語っていた。
だがそのダメージも、少女にとって取るに足らないレベルのもののようだ。
「そうはさせるかよ」
チラッと背後を確認しながら、俺はアイテムボックスから魔法剣を十本程取り出して、念動力で動かす。
沙織たちは俺の指示を聞いて、一目散にこの場を離れ始めていた。
ここから外壁部はすぐそこだったので、そこを超えれば道なりに逃げれば距離は稼げると思う。
「ほっ、はっ! ハハハハハッ! 中々器用なことをしよる!」
奴が魔法を使う前に、サイキックソードで割り込む。
だが十本の宙を舞う剣の嵐に対し、澄ました顔で対処して除ける少女。
どうやら魔法や超能力だけでなく、肉体戦闘能力も並外れた能力を持っているようだ。
あの様子だと、沙織がプラーナを使って戦っても手も足も出ないんじゃねえかな。
「だが、このような児戯で妾は止められぬぞ?」
少女はまたも無詠唱で魔法を使用すると、宙を舞う俺の魔法剣が氷に包まれていき、やがて動きを止めた。
俺が強引に動かそうとしても動く気配がない。
一体どういう仕組みだあ?
ただ物理的に氷に包まれた程度なら、中からぶち破って動かせるはずなんだがなあ……。
「どれ、妾も少し試してみるか」
俺が止められた魔法剣について考察していると、少女は次に魔法で氷の剣を幾つも生み出した。
そしてそれら氷の剣を、俺に向けて飛ばしてくる。
「ふっ、はっ、ほっ! まったく、さっきから同じことやり返しやがって」
「この程度の魔法。妾の手にかかればへなちょこさいさいよ!」
この口ぶりからこれは元々少女が持っていた手札ではなく、今この場で即興で生み出した魔法のようだ。
つまり少女の使っている魔法の形式は、俺の使ってるものと似たようなものだという可能性が高い。
……と思っていたのだが、ここにきて初めて少女は魔法の詠唱らしきものを使い始める。
「フロスティガ、グラシアジ、ラディコォ。ズィ、アルポタス、エターマン、ドルモン、オル、チゥ、キゥイテゥサス、ジン…………」
あれは……樹里が魔法を使う時に使用している魔法語に似ている。
だがまるっきり同じものでもない。
見たところ、あの時ヴィシュヌが使ってきた魔法のように、周囲の魔力まで取り込んで力にしているようだな。
今この街では俺が撃ち込んだ魔法の影響で、一時的に魔力濃度が高まっている。
それに少女自身の魔力も、これまで見たことがない程に豊富なようだ。
「ポヴァス、エスティ、マリンピキータ……、ふぁふぁふぁっ! 妾の期待に応え、これを見事退けてみせよ! ニブルヘイム」
氷の剣とチャンバラごっこをしている間に、少女は大規模な魔法を発動させる。
ううん、流石にこれはまともに対処した方がよさそうだ。
根本のサイキックソードより迫りくる氷の剣の攻撃が鋭く、俺の鍛錬にもなったのでしばし相手をしていたが、大技が来そうなので途中で周囲を飛び交う氷の剣をパキパキッと拳で折っていく。
相手の大規模魔法に対応するためだ。
少女が魔法を発動し終えると、彼女の頭上に宙に浮かぶ巨大な氷の樹が伸びていく。
その巨大氷樹からは氷の根が幾本も伸ばされていき、それは地面へと到達すると、それまでのゆったりした動きではなく猛烈な速度でもって、根が伸びていった……俺のいる方へと向けて。
氷の根が伸びていくと、その周辺の地面がたちまち凍り付いていく。
あー、あれに捕まったら大分寒そうだ。
……寒いといえば、ボルドスの最初の街で使った魔法は大分暖かかったな。
よし、あれを再現してみるか。
ええっと、あの時は後先考えず魔力を放出した結果、魔力の持っていきようがなかったから、暖房をつけるつもりでイメージしたんだった。
まずは魔力を込めて一か所に纏めて……っと。
「な、な、なんじゃお主……。今もそっととんでもない量の魔力を捻り出さんかったか?」
それから、この魔力を熱に変換するようにイメージして、周囲の温度を強制的に一定に保つようにしておこう。
前回は温度調節のことまで頭になかったからな。
ただ今回はただの暖房目的でもないから、一瞬にして設定した温度を維持するように調整をしよう。
それで後は……ううん、特に思いつかないしこれでいいか。
俺は高速で迫りくる氷の根を交わしながら、魔法構成を考えていた。
けどそろそろ辺りが氷の根でいっぱいになり移動しづらくなってきたので、やっつけ作業感は否めないが魔法を発動させる。
「よおし、暖かくなれよ。|ダンボー《これで冬も乗り切れるね》ッ!」
別にその必要はないんだが、最後に魔法名を叫ぶと同時に俺の目の前にあの時クルメリアで見たような光球が現れた。
見た目は小さな太陽のようで、熱い俺の魂が具現化したかのようだ。
逃げ回るのを止めた俺の下には、少女が執拗に這わせ続けた氷の根が迫る。
しかし、甘いぜお嬢ちゃん。
俺のダンボーは氷の根が範囲内に突入すると、猛烈な熱を発して氷を溶かしていく。
「なっ、バカな!?」
おお、おお、驚いてるなあ。
大見得を切っていたし、見た所この魔法にかなり魔力を注ぎ込んでもいたから、少女にとってもこれはかなりの大技なんだろう。
少女はそれからも氷樹から根を這わし続け俺を氷漬けにしようとしてくるが、俺の近くまで伸びた氷の根は問答無用に溶かされていく。
この氷の根もかなり低温っぽいのに、ダンボーで一瞬にして溶かされても特に大きな物理現象が起こらない。
天気的な話だと、高温の空気と低温の空気がぶつかれば上昇気流が発生して雨になるんじゃなかったか?
まあ魔法同士がぶつかっても、そういう物理的法則が適用されないのかもしれないな。
結局、少女はその後もしばらく余分に魔力を消費してまで氷の根を伸ばし続けていたが、まったくもって効果がないことを知ると、
「むむむむっ……、終いじゃ!」
と言って、遂には魔法の発動を止めるのだった。




