第180話 謎の少女
「実はなぁ、既にストランスブールにはボルドス国王に頼んで宣戦布告を伝えてあるんだ。今からお前達の国に殴りこむに行くっつう奴だ」
「つつつつまり、あなた方はボルドスの国の者なのですか!?」
「いいや、そうじゃあない。あの国でも最初仲間に手出しされたので、街を一つ半壊させてやった」
「な、ななななっ! もももしや、アントレア壊滅事変もあなた様の……」
「まあ、そういう訳だ。俺らは東の人間の国から西の帝国へと旅している途中で、魔族の国とは一切関係がない」
「それでは、その、我が国には何用で……」
話を続ける内に少し落ち着いてきたのか、少しでも情報を引き出そうとしてくるシュトレングス。
このことは別に秘密でもなんでもないし、別に言っても構わないか。
「お前が知ってるかは分からんが、ストランスブールはあっちこっちに工作員を送り込んでいるようだな?」
「え、はっ、それは、蛮族のようなゴブリン国などはともかく、それ位ならばその、国家としてはどこも行っていることかと、思いますです、はい」
「それもそうだ。だが、お前達の送り込んだ工作員の手によって、俺の仲間に危害が加えられた。俺達がこの国に来たのはその報復のためだ」
「ぐ、ぐぐぐぐ、それは……」
直接報復に来たと告げられ、二の句が継げないシュトレングス。
どうにか俺を食い止める言葉を考えているようだけど、それ無駄だよ。
「そして、実際にこの国を訪れて最初の応対がこれだ。うん、先に宣戦布告しといたのは間違っていなかった。お前らは全員纏めて俺が救ってやるぞ」
「親分の"救い"は容赦ないっすからねえ。おいらの国も親分一人で壊滅させられたようなもんですし」
「なんだぁ? 文句でもあるのかあ?」
「いやいや、とんでもないっす! おいらはどこまでも親分に付いていくっすよ!」
「某もヴァルと同じく」
「わ、私もダイチ様に絶対服従するわよぉ」
ヴァルやロレイは心からそう思ってるんだろうが、ナベリウスは本意でないことが丸分かりだ。
こいつこんなんでもボルドスでは上手く忍び込んで、配下を思うままに操ってたんだよなあ。
シュトレングスは、俺らの話を聞いて「国を滅ぼした……? まさか、それは……」などと一人ブツブツ呟いている。
もうさっさとメッセージだけ伝えて、先に行くとするか。
「いいか? シュトレングス。俺達はこのまままっすぐこの国の王都に向かう。道中にある街や村を全て壊滅させながらな」
「――ッ!」
「お前はそのことをこの国の王に伝え、先に住人を退避させるなり戦力を揃えるなり降伏するなり、好きにするがいい。俺達はもう行く」
そう言ってボロボロに破壊された街に向か……う前に、広場にいる生き残りの魔民族たちに対して範囲回復魔法を使用する。
「先ほどシュトレングスに立ち向かった女に敬意を表して、お前達に回復魔法を掛けておいた。後はお前達の好きにするといい。街はボロボロだが、探せば何か物資は見つかるだろう。だが、街にはまだエルヴァンの生き残りがいるから、程ほどにすることだな」
「あ、あの……」
言うことだけ言って立ち去ろうとする俺の背中に、魔民族の一人に声を掛けられる。
しかし俺はその声を無視して、北の方角に向けて歩き出した。
やってることはゴブリン国の時とあんま変わらんな。
奴らがその後どうなるかまでは俺の知ったこっちゃない。
まあこの街からなら、ボルドス国内の国境近くの村までいけば助かるんじゃないか?
ちなみに、街にいる生き残りはそう多くはない。
恐らくだが、地下にいたとかで直接雷を食らっていなかったとか、強固な建物に守られていたような奴らだろう。
実際壊滅した街中を移動していると、そうした生き残りの奴らが火事場泥棒をしている現場に何度か出くわした。
つっても、かなり派手に街が破壊されているので、なかなか獲物が見つからないようだったけど。
中には俺達に襲い掛かってくる奴もいたので、そういう奴らやエルヴァン族を見かけたらサクっと救いつつ、街の北へと向かって俺達はひた進む。
何故北かというと、ストランスブールの王都である『ライスラヴ』がそちらの方角にあるからだ。
この街はそれなりの広さがあったので、北の端まで辿り着くのにもそれなりの時間を要した。
大半の建物が崩れ、瓦礫が積み重なっている場所もあったので、普通に移動するだけでも時間が掛かったのだ。
それでもようやく瓦礫の跡が酷かった場所を抜け、北の外壁のあったらしき場所まで辿り着いた時、俺達は一人の少女に呼び止められた。
「ふぁふぁふぁ、ようやく見つけたぞ」
「……ああん?」
少女の声に、俺だけでなく他の連中も振り返った。
そして一斉に少女へと視線を送る。
そこには、小柄な少女が一人立っていた。
見た目からすると中学に入ったばかり位の年齢に見えるが、妙に老成した雰囲気を漂わせていて凄くアンバランスな感じがする。
着ている服がどこかの民族衣装のようで、その古めかしくも伝統を感じられる服装によるイメージもあるのかもしれない。
特徴的な薄いピンク色した髪は腰まで伸びていて、少女の体を覆うようにふわっと広がっている。
毛先に行くにつれてその髪色は薄くなっているようで、俺はこの髪を見た瞬間、日本にいた頃に見た桜を思い出していた。
それだけ綺麗な髪色をしてるのだが、この異世界でこのような髪色の奴は今まで見たことがない。
アニメに出て来るような紫だとか水色だとか、そういった髪色をする連中もいるにはいるらしいのだが、俺はこれまで殆ど見なかった。
「何じゃ? 妾に見惚れておるのか? ふぁふぁふぁ、それも止む無しよのお」
いや、その髪の色に故郷の春の景色を見出しただけなんだが……。
なんか妙な奴だな?
見たことのない髪色の割に、見た目は人間とほぼ変わらない。
人間であるならば、この街では劣悪に扱われてるはずなんだが、立ち居振る舞いにはそんなことを微塵も感じさせないぞ。
「それは自惚れなんじゃないか? 大体俺はガキに興味はねえぞ」
もう何年か育った後ならまだしも、流石にあの見た目では食指が動かない。
整った顔立ちの美人系の少女なので、将来性はありそうだけどな。
「何を抜かす。妾はお主よりずっと長生きをしておるぞ」
む? ファンタジーものに時折登場するロリババアという奴か?
確かに見た目の年齢の割には、妙に落ち着いた雰囲気はしている。
……いや、というかよく見ると落ち着いているどころか自然に溶け込んでいるというか、なんか、こう、不自然な程に泰然自若としているぞ。
「お主、今頭の中で失礼なことを考えなかったか?」
「う……。さあて、何のことかなあ? それより、お前は一体何もんだ?」
「今は妾のことより、お主の方よ。先ほどの馬鹿げた威力の雷魔法は、お主が使用したものじゃな?」
何?
少女の態度からして、確信を持って尋ねていることは伝わってくる。
しかしどのようにして、俺を突き止めた?
ナベリウスの話だとエルヴァン族は魔導具作りに精通しているようだから、この街で手に入れた何らかの魔導具で調べたのか?
「……だとしたら、何だって言うんだ?」
「ふぁふぁふぁ、知れたこと。こうするのじゃ」
少女はそう言うなり、呪文の詠唱もなく俺に向けて魔法攻撃を仕掛けてきた。




