第176話 やっぱりこうなる
「あのぉ、最初に伝えておくけどぉ、ストランスブールでの魔民族の扱いは良くないわよぉ」
街を目前にして、ナベリウスが忠告してくる。
これはボルドスにいた時からちょくちょく聞いていた話ではあるが、直前に態々再度指摘してくる辺り、よっぽど扱いが酷いんだろう。
「その話は既に散々聞いている。仕掛けてくる奴がいれば、やり返すだけだ」
「まず確実にそうなると思うんだけどぉ、その場合私はどう立ち回ればいいのかしらぁ?」
「お前はもう俺の従魔だ。それを踏まえて行動すればいい」
「……はぁ、まぁ、ダイチ様ならどうにでもなりそうねぇ」
ナベリウスは納得したようで、俺との話を打ち切った。
だが俺の方はまだ少し聞きたいことがあったので、話を続ける。
「で、あの街はなんていう街なんだ?」
「あれはキルディアねぇ。少し前の小高くなってる丘から見えたと思うけどぉ、ストランスブール最南端の街だからぁ、軍事関係の区画がかなり広く取られている街よぉ」
「そーなると敵の数は多そうッスね」
「ハッハッハ、望む所よ」
根本もすっかり慣れてきたのか、最初から敵と戦う想定をしているように見える。
当初戦闘力的には一番不安だった根本だが、今ならこの世界でも逞しく生きていけそうだ。
「私としては余り望んでいないんだけどぉ……。大軍に襲われたらどうするのかしらぁ?」
「目算で敵の数が百を超えるまでは、ある程度ばらけてもいい。まとまった数が来たら、俺がドッカンドッカンしてやろう」
「それはもしや、アントレアを一瞬にして壊滅させたという、破壊の魔法のことか?」
そういえばペイモンは、あの時まだ一緒に行動していなかったな。
「あのクラスの魔法を使うかどうかは、あそこにいる門番たちの態度次第だろうよ」
俺達は南からまっすぐ街に向かって歩いてきた。
つまり街の南門に向かっている所なんだが、国交がない国同士なのでこの道を通ってくるのは一部の許可を得ている商人か、よほどの物好き位なんだろう。
俺達が近づいていくにつれ、衛兵の数が増えていっているのが見える。
荷馬車を連れている訳でもないし、明らかに商人には見えないからな。
ただナベリウスが一緒にいるのを確認したのか、いきなり攻撃を仕掛けて来る様子はなさそうだ。
「お前達、そこで止まれ。……魔民族だけでなく、ドヴェルグや鬼族なども連れているが、お前は奴隷商か何かか?」
南門まで辿り着いた俺達に、集まっていた衛兵の一人が声を掛けてくる。
この呼びかけ方からして、ストランスブールでは奴隷売買は特に禁止されている訳ではなさそうだ。
ちなみに衛兵が話しかけたのは勿論俺ではなく、エルヴァンであるナベリウスに対してだ。
「いいぇ、違うわぁ。私はただのダイチ様の奴隷よぉ」
って、ナベリウスよ。
お前は立場的には奴隷に近いかもしれんが、お前は一応俺の従魔の一人だ。
大体戦いは望んでないと言ってたのに、今の態度からはあんまそういった風には見えんな。
ほら、奴隷発言を聞いて、衛兵達が俄かに態度を変え始めたぞ。
俺達の中にはナベリウス以外、エルヴァン族はいないからな。
奴隷発言を聞いて、まっさきに鬼族であるペイモンに視線が集まっていった。
「おい! そこのうすらでかい力だけが取り柄の鬼族! お前がそこのエルヴァン族を奴隷に仕立て、あまつさえ堂々と我らの国に乗り込んできたと言うのか!!」
「フッ、鬼族に脳筋が多いのは事実だが、貴様の言ってることは間違っている。我らのマスターは、そこにおわす人族の男だ」
ペイモンが言い返すと、衛兵達の視線が再び移り……
「い、いや。僕じゃないッスよ。こっちの人ッス!」
という慌てた様子の根本の声に、ようやく俺を見定める。
「人族……だと? まさかお前ら、帝国からやってきたとか言うんじゃなかろうな?」
魔族の間では人族も魔民族も一緒くたに扱われることが多いが、一応は類似した別種族であるという認識はある。
そして南部魔族領の多くの国では、人族といえば西にある帝国のメイン種族だという認識だ。
「いいや、違うぞ。寧ろ俺達は帝国へ向かう途中だ」
「……よく分からんが、つまりお前達は死にたいということだな」
どう結論付けたのか、衛兵はそう言うと手にした槍を俺に向かって突き出してくる。
俺は目線で仲間へ手出し無用の合図を送ると、突き出された槍を掴んで、ブンッと振り回して衛兵を外壁にぶち込……もうとする。
なんだかいつだったかどっかで同じようなことをした記憶があるが、そん時とは違って今回は衛兵が槍をすぐに手放してしまったため、上に持ち上げて軽く投げ飛ばした程度にしかならなかった。
「敵襲だ! 援軍を呼んで囲んで叩け!」
「よーしお前ら、戦闘開始だぞ!」
「……なーんか楽しそうねえ」
「ま、やっぱりこうなるッスよね」
樹里達が何か言っているが、お前達も見ていた通り、これは完全に相手が売ってきた喧嘩だ。
いや、槍を突き出してきたのだから、喧嘩を通り越して殺し合いだ。
そうだ。
俺はこいつらを救ってやらねばならない。
「はははっ、よおし、お前ら纏めてこの世知辛い世界から救ってやるからな」
「うひっ、久々に親分のアレが出たっす」
俺はとにかく目についた衛兵達を、徒手空拳で殺していく。
剣? 槍?
いいや、今日は素手の気分なんだ。
「ぶへらぁあぁ!」
ほら、上手く力を調整して殴ってやると、かっとんでいくんだよ。
これがなかなか面白い。
昔遊んだアクションゲームのようだ。
「くっ、こいつら只者じゃないぞ!」
「距離を取って、魔法攻撃に切り替えろ!」
衛兵は必死に指示を出しているが、その指示が実行される前に俺や俺の仲間達によって屠られていく。
エルフよりはマシといえ、元々エルヴァンは肉体系じゃなくて魔法系の種族なので、接近した状態から戦いが始まれば最初の段階で一気に優位に立てる。
そうして俺が連続キルコンボ数を稼いでいると、最初に呼んでいた応援の兵士達が現れた。
……兵士だとは思うんだが、その多くが魔民族やらゴブリンやらだ。
まだ街に入っていないから分からんが、ストランスブールもボルドス同様に支配層であるエルヴァンの数が多くないのかもしれない。
基本的にエルフってそんな数が多いイメージないし、似たような種族のエルヴァンもきっとそうなんだろう。
なお俺が兵士かどうか疑問に思ったのは、現れた連中は武器こそ手にしてはいるものの、防具が木の鎧だとかボロ布を重ね着したものだとか、まるで農民が一揆おこしました! とでもいうような恰好だったからだ。
「よおし、肉盾が到着したぞ! こいつらを盾にして、距離を取って魔法攻撃を当てていけ!」
ふむ、街に入るまでもなく、ストランスブールがどういった国なのかを如実に表してくれたな。
初めてみるエルヴァンの男達は、エルフというイメージに少し筋肉とダークエルフ成分を足した見た目をしているが、力より魔法寄りな種族だ。
そりゃあ、魔法職からすると肉盾は欲しいもんなあ。
分かるよ、分かる。
俺もRPGでパーティー組むなら、全員魔法職なんかにはしないし、むしろ全員戦士とかいう脳筋パーティーの方が楽しく感じる方だ。
だからお前たちの考えも分かるっ! 分かるんだけど…………だが許さん!!
「お前達、エルヴァンを狙っていくぞ!」
「承知した、主殿」
「わははっ、儂のハンマーで脳髄ぶちまけてやるわい!」
「まさか正面から乗り込んでこのような立ち回りをするとは、流石我がマスター! 喜んでエルヴァン共を切り捨てて御覧にいれよう!」
みんなの士気も大分高まっているようだ。
俺もみんなの動向に注意を払いながら、辺りにいるエルヴァン族に救いを与えていった。




