第174話 虎仮面
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ストランスブールとの国境から一番近い場所にある、カービスの街へと到着した俺達。
すでにこの街に滞在してから数日が過ぎており、次の目的地へと向けて出発の準備が整っている。
「では私たちはここで帰りをお待ちしてます」
「さらばだ。もう会うこともあるまい……」
「いや、会ってくださいよ! 待ってますからね!」
「かっかっか!」
「いや、笑ってごまかさないでくださいよ?」
「なあに、湿っぽい別れよりは笑って別れた方が良いとは思わんか?」
などと、ウィスチムと定番のやり取りをして別れを告げつつ、俺達はカービスの街を後にした。
これより北にも村は存在するが、街となるとここが最後。
俺達がストランスブールでの用事を済ませてきたら、この街で再びウィスチム達と合流。
そこから先は、西のオークの王国『ヴォルキド』へと向けて西の国境付近まで再びウィスチムらと旅をする予定だ。
「ストランスブールかー。ね、ね! エルヴァン人ってみんなナベリウスみたいな感じなの?」
「それってどぉゆぅ意味かしらぁ?」
「だーかーらー! みんなアンタみたいな美形ばかりかって聞いてんのよ。アンタ達ってあれでしょ。エルフの親戚みたいなもんでしょ?」
「……それ他のエルヴァン人の前で言ったらぁ、敵意を買うどころか攻撃されてもおかしくないわよぉ?」
なんでも、ドヴェルグのアグレアスがドワーフに間違われた時に拒絶反応を示したように、エルフとエルヴァンも互いに別の種族であると言い合っているらしい。
それも、ドヴェルグとドワーフは種族的に関係自体は悪い訳ではないのだが、エルフとエルヴァンの間ではかなり仲がよろしくないとのことだ。
「エルフの奴らってぇ、みんな貧相な体ばかりだからぁ、特に女達は私らのことを妬んでるのよねぇ……」
と、ため息交じりにナベリウスが言っていたが、本当にそこが問題点なのかは分からない。
確かにノスピネル王国で見かけた数少ない女エルフは、みんなスレンダーな感じだったけど。
俺達はその後、ストランスブールとの国境から一番近い村を超え、国境近くの平原まで辿り着いた。
両国の間に跨って通っているこの道を利用するのは、そのほとんどが商人達だ。
ボルドス、ストランスブール双方とも直接貿易は行っていないが、商人による行き来が少数ながらある。
この道も誰かが整備したというよりは、そうした商人達が行き来することで自然に出来上がっていったものだ。
「今日はこの辺に石屋敷を出して休むぞー」
そんな国境沿いの道の途中、平原になっている場所で俺は石屋敷を取り出した。
「はぁぁ……。何度見てもとんでもない魔法よねぇ」
一つの屋敷をそのまま収納できる俺のアイテムボックスの魔法を見て、ナベリウスが呆れたような感嘆としたような声を上げる。
「ふふん、すごいでしょ!」
そして何故か自分が使った魔法でもないのに、マウントを取ろうとする樹里。
ちなみにボルドス滞在中には余り使用することはなかったが、あれからちょこちょこバージョンアップは加えてある。
大きな変更点でいうと石屋敷を中心に、結界を張るための魔導具を二つ中庭に設置してある。
範囲が広いためそれなりに消費魔力は多い(ナベリウス曰く)らしいんだが、俺特製の魔石があれば何も問題はない。
二つ設置したのは、どちらかに不具合があった場合に備えてだ。
別に機能としては一つだけでも問題ない。
「そういえば、最近は石屋敷をよく出すッスね」
「そーよ! 前はなんだかんだ言って出してくれないこと多かったのに!」
「……それは結界の魔導具が完成したからだよ。以前のなんもない場所に家が一軒だけあるって状況で、一体誰が魔物や賊の警戒をしてたと思ってたんだ?」
「えっ……! も、もしかして大地が守ってくれてたの?」
「そういうこった。この屋敷は広すぎて見張りを立てにくいからな」
「そーだったんだ……。そうよね、この世界はそんな安全な世界じゃないもんね……」
……などという俺の言い訳を聞いて、反省の色を見せる樹里。
そんな樹里の様子を見て、思わず沙織と視線が合ってしまう。
「…………」
互いに言葉を交わした訳ではないが、俺がコクリと頷くと、沙織も無言で小さく頷く。
それだけで互いに通じ合う合図となる。
それはまるで秘密裏に社内恋愛してるカップルが、秘密の合図を送りあうかのようだ。
いやね。
一度沙織と結ばれてからは、定期的に、その、致してる訳だよ。
でもやっぱ野外ってのは、なんかアレじゃん?
たまにはいいかもしんないけど、この世界だと虫とかそういうったもんだけでなく、魔物や賊に襲われたりするからさ。
だから落ち着いて出来るように、石屋敷を利用しているって訳だ。
あ、勿論結界の魔導具が出来る前に、俺が夜の警戒をしていたのはマジだよ!
俺の場合は基本的に睡眠を取る必要が殆どないんで、寝不足とか関係ないからな。
それでも気分的には夜はグッスリ寝たいので、以前はあまり石屋敷を出さなかった。
石屋敷っていう、便利なもんに慣れちゃうのも良くないだろうって思ってたし。
はてさて、そんな訳でその日の夜。
特に沙織とはどちらの部屋に落ち合うかは決めてなかったので、今日は自分の部屋で沙織を待つことにした。
すると、夜みんなが寝静まる時間になってから、俺の部屋へと近づく足音を感知。
昨日もしたばかりだというのに、俺の飽くなき探究心はとどまるところを知らない。
え? それは探究心じゃなくてスケベ心だって?
いーんだよ! 男には三つの大事な袋……お袋、給料袋、そして玉袋があるんだ。
とにかく俺は全裸待機して沙織を待っていた。
そして遠慮気味に扉がノックされる音。
こういう所が大和撫子たる沙織らしいんだよね。
「入りたまへ」
俺もつい思わず気取ったダンディー口調で決めてしまう。
ゆっくりと開かれる扉。
そこには薄手の布を纏った……まとった…………。
「ま、マスター……。今夜は、その、マスターの寵愛を授かりに……きた」
扉の先にいた人物を見てビックリギョーテンする俺。
そこには、それ着てる意味あんの? ってくらいの薄着をしたペイモンが立っていた。
月明りに照らされたペイモンの体は、元々の銀白色の肌と相まって、まるで滑らかな金属のような光沢を放っている。
物理も魔法もいける銀鬼というクラスであり、人族からしたら大剣に分類されるような巨大な剣で戦うペイモンだが、体つきを見る限りとてもそのようには見えなかった。
腹筋が割れているということもなく、なめらかで女性的なラインを描く腰回りは、このような状況では非常に扇情的に映る。
何よりその扇情的なラインの腰より下の部分。
そこには大事な部分がオープンゲットされた、非常にけしからん下着……ねえ、あれ下着なの? ほとんど覆ってないよ? ていう布切れが装備されていた。
何故か山を越えた先にある生まれ故郷の王城の隠し部屋の宝箱にある「えっちなしたぎ」という奴と同種の、"これは良いもの"なのだ。
って自分でも何考えてるのか分からなくなってきたぞ。
「あの、あの、ですね? えっと、その下着はおトイレする時に楽そうですね?」
いや、あのですね?
ペイモンの背が高いことと、俺がベッドに腰かけていたこともあって、俺の目線の先には彼女のフゥーハァーが見えそうなんだよ!
いや、というか見えてるんだよ!
「う、うむ……。その、これはガーストルの街に寄った時にサオリと一緒に買いに行った、夜の決戦用の下着……とのことだ」
「うえぇぇッ!?」
不意に沙織の名が出たことで、ついつい妙な声を上げてしまった。
ってか、こんな所を沙織に見られたら……みられたら……。
「マスター、ど、どうしたのだ? 我をガン見していたかと思えば、急にキョロキョロと辺りを見回して……」
「えっと、素朴な疑問なんだけど、なんでその下着を沙織と一緒に買いに行ったのかなーってのが、気になっちゃったりなんかしちゃって……ね」
「なるほど、そのことか。それなら心配はいらぬぞ。サオリからは既に了承を取ってあるのだ」
「りょ、りょーしょーですかあ?」
「うむ。我はちゃんと自分の立場は弁えているつもりだ。あくまで正室はサオリであり、我は側室でも妾でも構わぬとな」
「へぁっ!? い、いつの間に……」
思わぬ展開に、俺のSAN値がガシガシ削られていく。
だって、昨日だって沙織からはそんな話はひとっことも聞いてないんだぜ?
「それは勿論下着を一緒に買いに行った時だ。それに、先ほどここに向かう途中で足が止まってしまった我を見かけて、『今宵は貴女に譲るので、しっかりとお役目を果たすのですよ』と背中を押してくれたのだ」
お、お役目ぇぇえええ?
それって何のことやねん!
OYAKUME、オーヤークーメ?
「だから……だな。その、我を、我をマスターのモノにしてくれないか!」
そういって後ろ手に扉を閉め、俺の座っているベッドまで駆け寄ってくるペイモン。
ボイン、ボインと揺れる二つのたわわな膨らみ。
恥ずかしそうにしていた割に、積極的に俺に寝技を仕掛けてくるペイモン。
怒涛の連続攻撃に、俺のSAN値はついに限界を迎える。
トラだ、トラだ! 俺はトラになるのだ! タアアァッッ!!
白いベッドのジャングルでくんずほぐれつの激しい夜のプロレスは、沙織以上にタフだったペイモンと、俺の燃え上がる闘魂のせいで、朝方まで続くのであった。




