第171話 大地の魔法講座
「お前たちは現代魔法と呼んでいる魔法を使う為に、魔法書を使用しているな?」
「そうねぇ。クラスⅠからⅩまでに別れた魔法書を使ってぇ、現代魔法を使用することが出来るわぁ」
「そして、クラスが高いほど多くの魔法容量を必要とする。才ある者は多くの魔法容量を持っているが、それでも全ての魔法を覚えるのは不可能なので、覚える魔法を取捨選択せねばならない」
魔法に関心の高いナベリウスと、銀鬼として高レベルの現代魔法の使い手であるペイモンが、魔法書についての補足をしてくる。
ナベリウスは魔族魔法など、他の魔法のことについての知識はあるが、本人はペイモン同様に現代魔法しか使えない。
そのせいか、爛々とした目で俺を見つめている。
「あれらの魔法書は、魔力を流すだけでその魔法が使えるようになる。どうしてそんなことが可能かというと、あれらの魔法書は魂の表層部分に魔法文字を刻み込んでいるからだ」
「え……魂に?」
ドン引きした様子で樹里がのけぞる。
根本や沙織からしたら魂といってもいまいち実感がないだろうが、魔法の存在する世界では割とその存在は確定的に信じられているようだ。
理由を推察するに、人の体の中にあるとされる魂からは、魔力が生み出されているからだろう。
実際に人体を解剖しても物理的にそうした器官が存在している訳ではなく、死亡と共に肉体から遊離していってしまう、非物質的なナニカ。
しかし魔法世界では魔法の力によってそのナニカを捉えることが可能で、このような魔法書が生み出されることに繋がったのだと思われる。
「そうだ。そして、魔法書ごとに定められたキーワード……『呪文』を唱えることで、刻み込んだ魔法文字が作用し、自動的に体内から必要な量の魔力を引き出し、自動的に毎回同じように魔法を構築する」
「現代魔法が常に一定の効力を発揮するのは、その為なのねぇ」
「それなら僕でも魔法が使えるようになるんッスか?」
「前も言わなかったか? 低クラスの魔法は使えると思うぞ。あんまお勧めはしないけどな」
「何でです?」
今の根本は、超能力だけでなく実は魔力に関しても大分伸びている。
特に、最初の頃は魔法が一般的でない世界の生まれだったせいか、保有魔力は小規模だった。
でも今ではナノマシンによる身体改良によって、魔力を定着させやすい身体へと作り替えられてきている。
「常に一定の効果が出るというのは、長所にもなりえるが威力が出せないという短所にも繋がる」
「はあ、まあそうッスね」
「それに、魔法を扱うならばきちんと魔力を操作できた方がいい。俺はこの国に来てそのことを学んだ。現代魔法だと、魂に刻んだ魔法文字が処理するから魔力操作の能力が伸びない」
それでも一種の魔導具のように、人ひとりを簡単に魔法発射装置へと変えられるのは、便利っちゃあ便利だ。
一般市民個々人の持つ魔力は低くとも、クラスⅠの魔法を各人が一発ずつでも撃てるなら、全員に覚えさせて使わせるだけでそれなりの火力になるだろう。
だが支配者たちは民衆が力を持つことを恐れてか、ノスピネル王国やボルドスでも魔法書はそれなりの値段で取引されている。
手に入れた者も、身内以外に魔法書を使わせることはない。
「あ、あの時の回復魔法のことかっ……。アレは確かに我も気持ちよ……困惑したのだぞ!」
ペイモンは真っ先に最初に出会った時のことを思い出したようだが、俺はそれ以前にクルメリアでもやらかしてるからな。
……あの時出した暖房は、今も効いているんだろうか。
「うむ、まあ……俺の場合は魔力が多すぎるのも原因ではある。それと、現代魔法の持つ致命的な欠点を俺は一つ見つけている」
「呪文の詠唱が必要なこと?」
「いや、そんな些細なことじゃない。もっと根本的な事だ。そうだな……、ナベリウス」
「なぁに?」
「お前が覚えている魔法を一つ選んで、ついでにその魔法書も出せるか?」
「えぇ? じゃぁ、これでぇ……」
そう言ってナベリウスが差し出してきたのは、クラスⅠの基本的な魔法『ティンダー』の魔法書だった。
クラスⅠの魔法書の為、十ページちょいと薄く、本とは言えない冊子レベルの厚さだ。
「ふむふむ……」
俺はペラペラとそれを捲り、肝心な部分の内容を把握すると、ナベリウスに対してとある魔法を使用した。
本人は気づいた様子がないようだが、ナベリウスレベルでも魂に関しては無防備だということだろうか。
「よし。それじゃあナベリウス。『ティンダー』の魔法を使ってみろ」
「よく分からないけどぉ。分かったわぁ。『小さき火の灯りを』」
現代魔法の呪文は、あくまでキーワードでしかない。
なので、最悪一言二言でもいいし、『炎よ敵を打て!』というキーワードに設定しておきながら、風の刃が発生するようにも出来る。
ただこれまで仕入れた情報だと、大抵は魔法を管理する団体が分かりやすいキーワードにするよう求めているらしい。
もちろん全ての魔法開発者がこの規則に従っている訳ではないのだが、そういう連中は表の団体からは弾かれたり、酷ければ処罰の対象になる。
ただし、それさえ守っていれば問題ないので、同じ効果の魔法でも呪文には微妙な違いがあった。
「……あらぁ? 『小さき火の灯りを』! ……『小さき火の灯りを』!!」
必死になって呪文を唱えるナベリウスだが、火種程の炎を発生させる『ティンダー』の魔法は全く発動することがなかった。
「……もしかしてぇ、私の『ティンダー』の魔法を消したのかしらぁ?」
「その通り。現代魔法は、人によって覚えられる魔法の容量……つまりは、魂の大きさのようなものが異なっている」
「魔法容量のことは現代魔法を使う者なら皆知っていることだったが、それがまさか魂の大きさであったとは……」
ペイモンやナベリウスの反応を見る限り、この辺りのことは一般的には知られていないことのようだ。
現代魔法には魔力を感知する魔法もあるようだが、そんなものは魔力操作が出来れば魔法を使わずとも同じことが出来る。
妙な補助道具に頼って魔法を使い続けた結果、本来の魔法というものが発展してこなかったんだろう。
「魔法書は、魂の表層部分に魔法文字を刻み込む。しかし、魂の大きさには限度があるため、魔法書には一度覚えた魔法を再度消す機能も備わっている」
「それも現代魔法の使い手なら皆知っていることだが、それを行うには本人が覚えた時と同じ魔法書を使わないといけないハズ。しかしマスターは今、従魔とはいえ他人の魔法を触れもせずに消し去ってしまった」
「ああ、別に相手が従魔でなくとも同じことは出来る。それと、魔法書を出してもらったのは『ティンダー』に該当する部分だけを消したかったからだ」
「……ねぇ。その言い方ってもしかしてぇ?」
今の俺の発言でピンと来たようで、ナベリウスが恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「多分お前の想像通りだ。現代魔法では本で魔法を覚える際と消す際には、魔法書に魔力を吸われるな? あれはその魔法を一度使用したのと同じ分の魔力が消費されている」
「そうじゃな。儂も現代魔法は幾つか覚えておるが、その仕様のせいで魔法容量が余っていようとも、魔力消費の多い魔法は覚えられん」
「うむ。俺はさっきみたいに指定の魔法を消すことも出来るが、魔法書がなくとも相手の魔法を適当に消すことが出来る。っていうか、そっちのが細かく消す範囲を指定しないで済むから楽だ」
その場合は、適当に引っぺがすので相手のどの魔法が使用不可になるかは分からない。
……まあ、"鑑定"で調べた後なら個別に解除も出来るんだけど。
また部分的に消すのではなく、全てまるっと消すことも当然可能だ。
そうなると、相手は現代魔法を一時的に一切使用できなくなる。
「そうやって魔法を消す際には、刻んであった魔法分の魔力を消費することになるが、俺の魔力量なら問題ない。今すぐ、ナベリウスの覚えている現代魔法を全て消すことも可能だ」
「い、いやぁ。それはちょいと勘弁して欲しいんですけどぉ……」
「ま、今のは半分冗談だ。でもこれで現代魔法の危うい点は分かっただろう? 元々同じ魔法書があれば、覚えた魔法を消すことは出来るんだ。なら、ちょっとした方法で魔法を消せる可能性は探せば他にもあるんじゃないか?」
「そう……ねぇ。そういった魔導具が存在するって聞いたことはあるわぁ」
「だから、俺は現代魔法よりは俺や樹里の使ってるような魔法をお勧めする。そしてそれには、魔力、魔力操作、イメージ力の三つを磨くことだ」
そう言って、俺は魔法についてのおおまかな話を終えた。




