第170話 戦闘訓練 樹里
「次は樹里か。お前は魔法メインだから、少し距離を取って魔法の打ち合いをしていくぞ」
「望むところよ!」
まだスキルの効果はそれほど出ていないが、ナノマシンによる内側からの改造の成果もあってか、以前より成長している樹里。
その魔力はエルヴァンウィザードのナベリウスを大きく上回り、物理と魔法双方が高いレベルで備えている鬼族のレアクラスである銀鬼のペイモンをすら凌いでいる。
「じゃー行くわよ!」
互いに距離を取り、観戦者達と距離を取った場所で向かい合う俺と樹里。
早速樹里の得意な炎の魔法が飛んでくるが、俺はそれを風の魔法で打ち消す。
純粋な魔力で構築された魔法の炎と魔法の風は、互いにぶつかり合うと魔力の粒子となって消えていく。
魔法には有利不利という概念があるらしく、魔法で作られた物質同士ではそれが大きく影響する。
ちなみに樹里の出した炎に対し、俺の風は不利だ。
これで相手に打ち勝つには、より多くの魔力を注がなければならない。
つまり俺からすると、属性の有利不利というのは余り気にしなくていいってことだ。
「ううーーー、それならこれで!」
不利属性相手に拮抗しているのが気に入らないのか、今度は風の魔法にシフトする樹里。
そう来るなら俺は、風に対して不利になる土の魔法へと切り替える。
その後も樹里の魔法に対して、不利属性で迎え撃ち続けていく。
樹里も属性のことは諦め、途中から攻撃魔法の形態変化や、派手な範囲魔法なども混ぜ始めたが、軒並み俺が不利属性魔法で相殺していく。
これは俺の魔力操作の訓練にも繋がっていた。
樹里の魔力に対し、キッチリと相殺出来る分だけ魔力を込める。
「はぁっ、はぁぁぁぁっっ……。もうっ! 降参よ!」
別に魔法を使うのに体力は使わないハズだが、妙に疲れた様子で樹里が降参を告げてくる。
「大分お疲れの様子だな。別に運動した訳でもないだろ?」
「ちょっとアンタねえ……。ふつーは魔力を激しく消費すると、体に凄い疲労感が訪れるものなのよ。限界までいくと、それこそ意識を失っちゃうんだからね」
「む、そうなのか。一度もそんな体験したことないから知らなかったぞ」
「今まで一度もぉ……ですかぁ?」
樹里との魔法対戦が終わり、みんなの所へ戻っていくと、ナベリウスが疑問を呈してくる。
「ああ、一度もだ。アントレアの時も、一応威力は抑えていたしな」
「ダイチ様の魔力量はぁ、ほんとぉとんでもないわねぇ」
「うむ。だがジュリの魔力も大したものだ。魔術師系のクラスでも、それほどの魔力の持ち主はそうはいないぞ!」
「あーー、そーお? ま、これでもあたしは笹川家の異才として騒がれてたからね」
ペイモンの物言いは堅苦しいものだったが、本人がそう思っていることが伝わってきたようで、樹里の機嫌も一気に良くなっていく。
「そうであったのか。ところで、二人の使う魔法は現代魔法ではないようだが、それが異世界の魔法なのだろうか?」
新しく行動を共にすることになったナベリウスとペイモンにも、すでに俺らの出身のことについて話してある。
しかし余り踏み込んだ話まではしていない。
「んー、そういうことになるかな? でも、根本や一色の世界には魔法がなかったらしいのよ」
「魔法が……ない? そのような世界があり得るのか?」
その辺どうなのか、俺もいまいち確信は持てない。
ただ、火星人は魔力を活用していたようだし、根本や沙織の世界にも魔法そのものは存在していたように思う。
「あたしもちょっと想像できないんだけどね。でも、あたしのいたとこも魔法を使える人は少なかったから、ちょっと分からないでもないかな」
樹里のいた世界も人口だけは多かったので、数としてはそれなりの魔法使いがいたらしい。
ただし、その多くが初歩的なものしか使えない連中だったという。
「それでぇ、肝心のジュリの魔法ってどういう原理なのかしらぁ? 私は魔族魔法に近いものだと睨んでるんだけどぉ」
「そーいえば、前もそんなこと言ってたわね。周囲に漂う魔力も利用するだとかなんとか……」
魔法について貪欲な樹里とナベリウスは、道中よく魔法談義をしていた。
樹里はこちらの世界で一般的な本を読んで覚える魔法、という仕組みが理解出来ず。
ナベリウスは、恐らく魔族魔法に近いものだと認識しつつも、どこがどう違うのかが理解出来ず。
「ダイチ様に至ってはぁ、魔法を使う際に詠唱すらしてないしぃ」
「うむ、あれには驚いた。稀にそういうことが出来る者がいるとは聞いたことがあるが……」
へえ、そいつは初耳だな。
でもまあ、魔法ってのがどんなものかを追求していけば、無詠唱で使える奴も出て来ると思うんだがな。
「よーし。じゃあ、今日は俺が簡単な魔法講座をしてやろう」
「魔法講座って、大地の魔法って独学なんでしょ?」
「うむ。だが火星人の知識や、魔力に対する認知能力などによって、大まかな仕組みは説明できる」
「かせいじん?」
ペイモンが難しい顔をして呟くようにして尋ねる。
その表情でそのセリフを言われると、日本人の男なら少しドキッとしてしまうかもしれない。
「根本のような男のことだ」
「なっ! ち、違うッスよ!?」
「む、違うのか? 日本人の多くはそのハズだが」
「もう! いいから早く続きを話してよ!」
樹里が止めに入るが、会話の内容を理解している感じではない。
同じ日本人組の沙織も、この下ネタにはついていけてないようだ。
「そうだったな。では、まず魔法というものを発動するにあたり、必ずしも詠唱だの魔法文字だのといったものが必要ではない」
「確かにぃ、ダイチ様はそれを実践してますねぇ」
「魔法に必要なのは魔力とイメージ。しかしイメージすれば何でも実現出来る訳ではなく、そこには法則のようなものが存在する」
魔法というと、割となんでも出来るイメージがある。
実際色々なことが出来るようだが、何でもできるという訳でもない。
その辺りについては火星人も色々研究をしていたようで、追及していくと存在力学とか異界物理学とか、専門的な知識も必要になってくる……らしい。
「俺が思うに、魔法が使えない人の原因は三つ。一つは魔力そのものが少ないこと。次に魔力を扱う能力が未熟なこと。そして最後に、イメージ力の不足だと考えている」
「んー、なんとなく言ってることは分かるわね」
「そうなのか? 魔力が大事なのは分かるが、あとの二つは良く分からないな」
樹里は俺の使う魔法形式に近いせいか直感的に理解できているようだが、こっちの世界の魔法使い組はいまいち理解できていないようだ。
ただそれも仕方ないこととも言える。
「それはお前たちが……この世界の魔法使いが使っている現代魔法というものが、その二つの点を不要としているからだ」
「え? でも魔法を使う条件としてその三つが必要なんでしょ?」
「そうだ。だからこそ、現代魔法を使用する為に、魔法書が使われている。あれは言わば、簡単に魔法を使用出来るようにするための補助道具だ」
いつしか仲間だけでなく、ウィスチムや護衛の鬼達も俺の周囲に集まって話を聞いていた。
ウィスチムも魔法が得意な白鬼クラスだから、魔法関連の話は聞き捨てならないんだろう。
別に渋るつもりもないので、俺はこの場にいる者達に引き続き魔法の話を再開した。




