第169話 戦闘訓練 根本
「という訳でだ。ストランスブールに突入する前に、戦闘訓練を行おうと思う」
「行おうと思うって、別にこれまでも訓練はしてるじゃない」
確かに樹里の言うように、一時期力を入れてた時ほどではないが、今でも継続的に戦闘訓練は行っている。
しかしメンバーも増えたことだし、改めて自分たちの現在の強さを再確認するのも悪くない。
そういったことをみんなに説明する。
「まずは根本。お前からだ」
「僕からッスか? まあいいッスけど……」
そう言うと、根本は俺特製の腕輪型のアイテムボックスから魔法剣を四本取り出す。
このアイテムボックスは、ナベリウスが持っていたものを解析して再現したものだ。
これは必要な素材、制作難度、制作時間などの問題で、まだ初期メンバー分しか作れていない。
ちなみに樹里は本人が希望したので指輪型。
沙織は戦闘時に邪魔になるとのことで、ネックレス型に。
「じゃあ行くッス」
取り出した四本の魔法剣は、それぞれバラバラに宙に浮き、俺に遠慮なく切りかかってくる。
最初は二本が精いっぱいだった根本も、今では四本同時に操作できるようになっていた。
「ホイッホイッホイッ!」
「ぐ、なんでそんな動き出来るんッスか!」
しかし剣が四本に増えようと、当たらなければどうということはない。
次々と襲い来る、人間が振るうのとはまた違う動きをする剣を、器用によけ続ける俺。
「それならッ!」
ぬっ……。
調子よく躱し続けていた俺だが、急に体の動きが固定される。
そこに根本の操作する四本の剣が四方から飛んできた。
「甘い、甘いぞお根本! ガムシロップに蜂蜜とメープルシロップぶち込んだくらい甘いぞお!」
発言し終わる頃にはすっかり窮地を脱していたが、根本の超能力によって拘束されていた俺の体はパワーによって無理やり剥がした後、派手に跳躍して飛んできた剣を躱す。
「なんっで、それを力づくで抜けられるんッス、か!!」
おっと、今度はパイロキネシスによって俺の全身が燃え上がるが、生憎と俺の体はこの程度では火傷することも出来ない。
逆にこのまま根本の下までダッシュで近寄って抱き着くことで、奴自身を火だるまにしてやる。
「アッツ! アッツウゥゥゥ!? もうギブッス! ギブウウゥ!!」
根本が根を上げたので、俺は魔法で根本と俺の燃え盛る火を消す。
パイロキネシスで生み出された炎は、魔法と同じで生み出された時点では特殊な力によって通常の炎とは別の性質を持っているが、力の効果が切れて引火した後は、普通の炎と同じ性質になる。
なので、引火する前に炎を消せば炎を完全に消すことも可能だ。
「ふう、根本も少しは腕を上げたな。"神通力"の効果が出てきたようだ」
「そんなこと言っても、全力で抑え込んだのに身体能力だけで強引に……って、ジンツーリキって何ッスか?」
…………?
自分のスキルのことなのに知らないのか?
そういえば、俺の方からその話題を出した記憶はないな。
でも俺だって自分の"鑑定"スキルは自分で把握でき……って、俺の場合スキルが"鑑定"だったから、自分のスキルを判別出来たのか。
というか、自分だけでなく他の奴のスキルまで鑑定出来ている。
「……あー、お前たちは『スキル』というものを知っているか?」
改めて同行者全員にそのことを尋ねてみる。
しかし全員が何のことだ? という顔をしていた。
「技術とかそういう意味とは別の意味でということじゃな?」
「そうだ。根本とか樹里は、日本にいた時そういう言葉くらい聞いたことあるんじゃないか?」
「そりゃあゲームとか漫画では見たことあるッスけど……実在してるんッスか?」
「うむ。根本は"神通力"というスキルを持っている。というか、半年ほど前にポンッと目覚めていたんだが、本人は気づいていなかったのか?」
「半年前ッスか? ……ううん、そういえばなんか急に変な感覚を覚えたことがあったような、なかったような……」
どうやら本人の認識も曖昧なものらしい。
火神の奴も俺が調べた時点で"益荒男"のスキルを持っていたが、本人に自覚がなかったようだしなあ。
「まあお前の場合、スキルに目覚めてすぐに効果があった訳でもないからな。でも最近の超能力の伸びの良さは、間違いなくそのスキルのせいだと思うぞ」
「えーー、マジッスか! 僕にそんな能力が……」
根本は戦闘能力で言ったらこの集団の中では中の下といった所だが、それでも既にゴブリンエンペラーとは渡り合える位の強さにはなっている。
プラーナの開通がまだなので、それが成れば更に力がつくことだろう。
「マスター。結局の所、スキルというのはどういうものなのだ?」
「んー、つまりだな。根本の"神通力"は超能力を強化し、最近芽生えた樹里の"魔の祝福"は魔力を強化する。そして俺の"鑑定"は、色々なものを調べることが出来るスキル……まあ特殊能力みたいなものということだ」
「えっ? 大地さんもスキル持ってるんッスか?」
「待って! あたしもスキルなんて持ってんの!?」
「大地さん……。私にはスキルはないのですか?」
俺の発言に根本と樹里が大きな声を上げる。
そして最後に蚊の鳴くような声で、沙織が質問してきた。
「う、む……。俺には"鑑定"のスキルがあるし、樹里はついこの間の王都滞在中にスキルを獲得していたし、沙織には残念ながらスキルはない」
「そう……なのですか」
日本人組で一人スキルを持っていないと知って、落ち込む沙織。
沙織はスキルなんかなくても十分強いと思うんだがなあ。
「まあ、そう落ち込むな。俺みたいな特殊なのを除けば、あの大勢いた日本人の中でも、スキルを持っていたのは火神だけだったんだ。それに、そこの二人も後天的に覚えたんだから、沙織にもまだチャンスはあるさ」
「え、あの人もスキル持ちだったんッスか?」
「どーりで! なんっかアイツおかしいと思ってたのよ」
「でもあの方からは、スキルという話は聞いたことありませんでした」
「ああ、どうも本人も気づいてなかったようだからなあ」
んーむ、スキルについては俺も分からないことが多い。
それこそ"鑑定"スキルがなかったら、正体不明な特殊能力としか分からなかっただろう。
ただふと思ったんだが、もしかしたらあの日本人たちの生まれ故郷の中には、スキルというものが一般に知られている世界もあったかもしれないな。
俺が調べた範囲ではスキル持ちは火神だけだったが、スキル知識が一般化している世界から来たが、スキルは持っていないって奴が混じっていた可能性はある。
「ねぇ。話を聞いていて思ったんだけどぉ、スキルっていうのはもしかして『ギフト』のことなんじゃなぁい?」
話がノスピネル王国時代に遡り、話についていけない従魔達は静かに話を聞いていたのだが、ナベリウスは気にせずマイペースに話に割り込んでくる。
「ギフト? それは一体どういうものだ?」
「だからぁ、さっきダイチ様が言っていた特別な能力を持ってる人のことよぉ」
「ギフトなら儂も聞いたことはある。能力の種類は様々だが、常人には出来ないことが出来るという」
ほお、この世界でもそういったものが認知されているのか。
まあスキルって呼び方は、正式名称って訳でもないだろうからな。
ギフト所有者の全てが俺のいうスキル持ちかどうかは分からんが、それだけ話が残ってるなら存在はしてるんだろう。
「全てがそうではないだろうが、多分それらの何割かはスキル持ちなんだろう。ちなみに、今のところお前達にスキル持ちはいない」
一緒に行動してるウィスチムや護衛の鬼までついでに見たが、スキル持ちはいなかった。
というか、今までギュスターヴやらあの辺の奴らも密かに"鑑定"で調べていたんだが、それでも一人も見つからなかった。
やはり、そうそうスキル保持者はいないということだろう。
「とりあえず根本は"神通力"があるんだから、超能力の訓練にもっと励むといいだろう」
「うぃッス!」
「ではスキルの話はこの辺にして、次の訓練相手に名乗りを上げる奴はいるか?」
「ハイ! ハイッ!」
ここで元気よく手を上げたのは、自分にもスキルがあることを知って喜んでいた樹里だった。




