第167話 二人の成果
ペイモンに関する騒動がひと段落した後、俺達は改めて王都を満喫していた。
今度は邪魔が入ることもなく、新たに従魔となったペイモンの案内であちこち見て回る。
といっても、観光名所という所はそれほどない。
回ったのは魔導具屋とか、素材を売ってる店。それから食事処がメインだ。
そうして二週間ほどこの街で過ごしている間に、旅に必要なものやアグレアスやナベリウスに頼まれていたものなどを購入していく。
この二人は王都滞在中に施設を貸してもらって、魔導具やら武具やらを作っていた。
「久々に思う存分モノづくりが出来て、満足だ」
「そうねぇ。私もちょっとしたものだけどぉ、色々作れて楽しかったわぁ」
俺は今、二人が借りている施設を訪ねている。
進捗状況の確認と、そろそろこの街を出ることを伝える為だ。
ナベリウスには、旅の途中や日常生活にあると助かるちょっとした魔導具、というテーマで自由に作らせていたが、一体何を作ったんだろうか。
「アグレアスにはペイモン用の剣を作らせていたが、お前は一体何を作ったんだ?」
気になったので聞いてみることにした。
「いいわぁ、まずはこれよぉ」
そういって取り出したのは、一見すると普通の鏡のように見えるものだ。
ただこっちに来てから見かける鏡は、余り映りがよくないものが多い。
その点でいえば、ナベリウスが取り出した鏡はそれなりに反射して映りは良かった……のだが。
「……おい、この鏡。実際より若干細く映ってるんだが?」
「そうよぉ。これでスイーツを食べすぎても大丈夫!」
「それは問題の解決になってねえだろ!」
一体コイツは何を考えてこんなモンを作ったんだ……。
「でもでもぉ、試しにジュリに見せたら評判良かったわよぉ?」
「いいから、作るなら普通の鏡にしとけ。或いはもっと実用的なもんにしろ! で、次は?」
樹里もこんなんで自分を誤魔化してまで、スイーツを食べたいのか?
とりあえずこいつは没ということで、俺は次の魔導具を要求する。
「実用的ねぇ……、分かったわぁ。それじゃあ、次はこれよぉ」
次にナベリウスが取り出したのは、手に平に収まるサイズの球形のナニカだった。
金平糖のように表面はでこぼこしていて、石のような材質で出来ている。
「それは何だ?」
「これはぁ、魔法爆弾よぉ」
「ぬ? まさかさその丸っこいの、爆発するのか?」
「当たり前でしょぉ? だって爆弾なのよぉ?」
確かにそうかもしれんが、そもそも爆弾なんてもんがこの世界にあるのか。
まあ俺らが思い浮かべるような、火薬による爆弾とは別物なんだろうけど……。
「それはどうやって使うんだ?」
「えっとぉ、まずはこの魔印から魔力を通してぇ……」
「おい! こんな所で起動させて大丈夫なのか?」
「大丈夫よぉ。あっちの対魔コンクリートの方に投げるからぁ」
今はナベリウスが使っていた施設から外に出たところにある、妙に広いスペースに俺達は立っている。
ここでナベリウスは魔導具のテストなどを行っていたらしい。
十メートル程先には、対魔コンクリートとやらで出来ているらしい壁が張られていた。
ナベリウスの手からヒュンッと投げられた魔法爆弾は対魔コンクリートに命中したが、その場で爆発せずに反射してこちらの方へと転がってくる。
「こっちに転がってきたんだが……?」
「あらぁ? おかしいわねぇ」
爆発しないことに疑問を抱き、不用意に転がってきた魔法爆弾の方へと近づいていくナベリウス。
直後、俺は魔法爆弾から急激に魔力が現象へと変化しているのを感じ取り、慌てて壁状の魔法防御の結界を展開する。
その次の瞬間ッ、
ズガアアアアアアァァァンッ!
あんなに危機意識もなく扱っていた割には、えげつない威力の爆発現象が目の前で発生した。
俺とナベリウス、それからアグレアスは、俺の展開した魔法防御壁によって無事だ。
しかし、目の前には深さ五メートルくらいはあるクレーター状の穴が出来ていた。
「……おい、殺す気か?」
「おかしいわねぇ。組み込んだ術式は簡単な爆発のだったんだけどぉ……」
「あの大きさの割には、かなりの威力をしてやがるな」
「まったくだ。俺が咄嗟に魔法で守ってなければ、俺はともかくお前らは危なかったんじゃねえか?」
「うむ……。儂らドヴェルグはタフで有名だが、流石に今のをまともにくらったらかなり痛かっただろう」
かなり痛いで済むのかよ。
あの爆発を見た感じだと、下手すりゃ脳髄ブシャーだぞ。
「ううん……。これだけ威力が出たのはぁ、ダイチ様から頂いた魔石のせいかしらぁ?」
「何? まさかあれをそのまま組み込んだのか!?」
最近なんとなく掴めてきたんだが、俺からすれば微量と言えるあの魔石の魔力量でも、攻撃に転化するとそれなりのものになるらしいのだ。
「まさかぁ。あの魔石を更に砕いてぇ、十分の一くらいにした破片を入れたんだけどぉ……」
あの魔石の十分の一で今の爆発の威力か。
そいつぁーすげーや。
「それでもあれだけ威力が出るのねぇ。これは凄いわぁ……」
危うく死にかけたというのに、ナベリウスの奴は「凄いわぁ」と連呼している。
ハゲ頭の大きなミスターの取り巻きか!
「……儂の方は、しっかり注文されたもんを作っておいたぞ」
魔導具マニアなナベリウスを据わった目で流し見しつつも、アグレアスは近くの建物に立てかけてあった剣を持ってきて、俺に差し出す。
俺が構えるとグレートソードのように思える程、刀身が長く大きな剣だ。
しかしそれでも問題はない。
この剣は俺ではなく、ペイモン用に作らせたものだからだ。
身長が約二メートルあるペイモンならば、これくらいの大きさが丁度いい。
その辺はちゃんと、事前にペイモンにリサーチ済みだ。
「ほおお、これは見事だな」
手渡された剣はまだ仕上げがされていないが、素人の俺が見ても大きく、分厚く、重かった。
それは切るよりも叩き切ることを重視した、金属の塊のようだ。
この剣ならば、ドラゴンすら殺すこともできるだろう。
素材としてはオリハルコンや魔鉄などがメインに使用されており、アグレアス曰く、素材の値段だけで家一軒が建てられるような代物らしい。
そして、この剣はまだ完成していない。
最初の頃、俺が自作で魔法剣を作っていた時は、金属を加工する段階から魔法の術式を金属そのものに刻み込んでいた。
けど、これって結構作るのに集中力がいるんだよ。
そこであれからアグレアスと話し合った結果、新しい方法を試すことになった。
というか、普通は魔法の武器といったらその方法を取るのが一般的らしい。
その方法とは、完成した品に魔法文字を刻み込んで、魔法効果を付与するというものだ。
すでに簡単な品で試作は繰り返しているので、このオリハルコンの剣でも恐らく上手く行くはずだ。
「それじゃあ、ソイツに魔法文字を刻んでいくぞ」
超能力で剣を宙に浮かした俺は、付与する魔法の術式を浮かべながら、剣に魔法文字を刻み込んでいく。
この作業は、刻む金属によって難度が激変し、オリハルコンともなると膨大な魔力と緻密な魔力操作が求められる。
魔力の方はともかく、これは俺の魔力操作の訓練にもってこいだ。
剣が大きかったので、刻む面積は広い。
ただ、やみくもに刻んでいいという訳ではなく、その物の限界値を考えて刻まないといけない。
二十分ほどかけて両面に魔法文字を刻むと、俺はゆっくり息を吐きながら剣を地面に下ろす。
「うぬう、何度みても見事なものだ」
「本当よぉ。私はこんな小さな魔法爆弾に魔法文字を刻むのに、何時間も掛かっているというのにぃ」
ナベリウスは自称「魔導具制作のプロ」らしいが、それでもこの作業にはそれだけの時間がかかるという。
俺としてはもっとちゃっちゃと刻みたいとこなんだけどな。
「そんなペースでこの剣に刻印してたら、数年かかるんじゃねえか? んなことより、そろそろここを出る予定だから、出発準備を整えておけよ?」
「分かった」
「えぇ、もう出発なのぉ?」
「ああ、そうだ。じゃーな」
まだナベリウスの作ったという魔導具を全部チェックしていないが、要件を伝えた俺は二人の下を後にした。




