第166話 一件落着?
「う、ううううん……。ここは……」
従魔契約を施し、魔法薬を解除されたペイモンが、寝ぼけた様子で周囲を窺う。
そこには泣き崩れる父親と、国の重臣たち。
それに加えて俺達外部の者も一緒にいる。
「覚えているかい? アンタはそのペンダントの魔導具で、マクイスの幹部らを主人として崇めるよう、隷属の呪いが掛けられていたんだ」
「母上……」
ペイモンは寝起きのせいか、エルネスタの言っていることをすぐに理解できていないようだったが、徐々に理解の色が広がっていくと態度を一変させる。
「そう……だ。我はあの時頭が真っ白になって、そして近くにいたリザードマンに襲い掛かった……」
このペイモンの様子からすると、その時の記憶は残っているっぽいな。
「それから我は……、そこの男に足蹴にされていた」
思い出すにつれて、その時の屈辱を思い出したのか、顔が赤くなっていくペイモン。
だが以前のように、こちらをキッと睨んだりすることはなかった。
「そして最後は我の魔法の発動が阻害され、魔力が暴走して……」
「そうだ。そこで自分の魔法を直に受けて、気絶した」
最後の部分を俺が補足してやる。
気を失う直前のことだし、よく覚えてないだろうからな。
「そう……か。迷惑をかけたようだな、済まなかった」
「いや、別にいいさ」
ペイモンが俺に素直に頭を下げる。
これは俺の従魔になった影響もあるだろうが、元々こういう性格なんだろう。
「それでね、ペイモン。アンタの隷属状態をどうにかする為に、ここにいるダイチが従魔契約を結んだんだよ」
「はぁ……、我がダイチの従魔に…………。ふぁぁっ!?」
「そのままにしておいたら、マクイスの幹部連中にいいようにされちゃうからね。でも今のアンタの主人はダイチだけだ」
「な、、な、な……。しゅ、しゅしゅしゅしゅ……」
エルネスタからの現状説明に、一旦戻りかけたペイモンの赤い顔がまた復活してくる。
そして、蒸気機関車が出発進行する時みたいな声を上げ始めた。
「主人ってどういうことよ!!」
今日イチ大きな声で叫ぶペイモン。
それからチラチラッと俺の方に視線を送ってくる。
それはまるで恥じらう乙女のような仕草だった。
「あらあらあらあら。ペイモンも満更ではないようね」
「そん、そんなことはありませんぞ! 母上」
余程動揺しているのか、少し口調まで変化してるぞ。
うーーん、これもアリ!
「元は俺が提案したことだが、そこのエルネスタからの承諾は受けてある。もしペイモンが俺の下に来るのが嫌なら、強制はしない」
「わ、我は……」
「でもお前がその気なら、俺達の旅についてきてくれ。俺にはペイモンが必要なんだ」
魔族コレクション的な意味でな。
「っっ!」
俺の勧誘の言葉を受けて、ペイモンは口をパクパクとさせ始める。
池で飼われてる鯉のような感じだ。
少しの間そうしていた後、一旦下を向くペイモン。
それから再び顔を上げて視線を俺に向けると、緊張した面持ちでペイモンが言った。
「わ、分かった! 我をマスターの旅に同行させてくれ!!」
「ああ。これからよろしくな」
こうして俺達の旅に新た仲間が加わった。
「ペエエエエエエエイモオオオオオオオオオオンッッ!!」
大声で泣き叫ぶ、いかついオヤジの声をバックに……。
「結局こうなっちゃうのね」
「旅は道ずれ。仲間は多い方がいいだろ?」
戦力的にもペイモンは結構なものだ。
この後いつもの奴を行えば、それが更に強化されるだろう。
「その、これからよろしく頼む」
「……いいわよ。お姫様だからって、特別扱いはしないわよ!」
「うむ、その方が我も助かる」
大分素直にペイモンが仲間へと加わった。
これは確かに俺が望んでいた光景ではあるんだけど、どうもうまくいきすぎ感はある。
やはり、従魔契約がペイモンに何かしらの影響を与えたんだろうか。
特にそういったものは仕込んではいないはずなんだが……。
少し疑問に思いながらも、俺は部屋を立ち去る前に気になった奴の下に近づいていく。
こいつも俺のペイモン従魔化には賛成をしていたよな。
「ヴィシュム。結局お前は何を企んでいたんだ?」
俺が威嚇のため、右手に軽く魔力を集めながら問いかける。
「――ッ!」
その瞬間。
俺の心臓と頭部に向けて、速射性を持ちながら、人を打ち抜くには十分な威力を持った魔法の矢が放たれる。
というか、そもそもこいつは魔法発動の為の呪文すら唱えていない。
そして魔導具などを用いた訳でもない。
これはナベリウスの奴から聞いた、魔族魔法というやつか?
魔族の一部には、こうした魔法を使う奴がいると聞く。
こうした魔法というのは、要するに俺の使う魔法と似たようなもののことだ。
魔力を直接操作、変質、調整などをして望む効果が得られるようにする。
おまけに魔族魔法というのは、魔法を使用する際に自身の魔力だけでなく周囲に漂う微細な魔力までをも利用する。
先ほどヴィシュヌが魔法を使用した瞬間、奴の周囲の魔力が消失したのが確認できた。
だから恐らく俺の推測は間違ってないだろう。
「ッッ!」
そういったことを悠長に考えながらも、俺は奴が魔法を放った時よりも更に短い時間で、小さな魔法の盾を作り出す。
大きさは奴が放った魔法の矢と同程度。
強度さえあれば、これで十分。
いとも簡単に不意打ちを防いだ俺に、驚愕の表情を浮かべるヴィシュヌ。
奴は続けて体内から魔力を引き出し、先ほどよりも強力な魔法を放つ態勢にはいった。
「それがお前の答えか?」
そう問いかけながら、俺はどう対処するか考える。
今はペイモンが従魔として旅に同行することが決まり、ボルドスとの友好関係が深まったといえる場面だ。
命まで奪ってしまうのはよくないかもしれない。
しかし現代魔法だったら、呪文を途中で止めることで発動を停止させられるが、魔族魔法となるとその手は使えない。
さて、どうしたもんかな……と思っていたんだが、突然ヴィシュムの様子に変化が生じた。
「ハァッ……、なぁ……!?」
奴の様子を一言で表すなら「驚き」。
モンスターとエンカウントした後に、「おどろきとまどって」攻撃出来ないモンスターのように、魔法を放とうとした態勢のまま固まっている。
「どうした? もう終わりか?」
俺が再度問いかけると、ヴィシュムは集めていた魔力を器用に霧散させる。
おお、あんな感じにすればいいのか!
でも俺の場合はもっと魔力が濃密だから、同じことをしたら物理的爆発現象が起こってしまうかもしれん。
「お前は……、いや、俺は…………」
「ハッキリしない奴だな。死にたいのかそうでないのか、どちらか答えろ」
「……ここで死ぬつもりはない。先ほどのは、その、気の迷いだ……」
はぁ?
なんだコイツ、言い訳下手大会のチャンピオンか!
「大地さん!」
沙織が慌てて俺の下に駆けてくる。
これまで見たことないほどの焦燥感に満ちた表情だ。
「大丈夫だ、沙織。あれくらいで俺は死なんよ」
「いえ、あの……そうではなくて……」
さっきのヴィシュムもどこかおかしい感じがしたが、沙織もどこかいつもと違う気がする。
なんでそんな顔をしているんだ? 沙織よ。
「その……大丈夫、ですよね?」
そんなに俺の身が危ないように映ったんだろうか。
それとも、ペイモンを従魔に加えることに不安を感じているのか?
とにかく俺は沙織を安心させるために、口を開く。
「大丈夫だ。安心しろ」
「……はい」
ギュッと俺に寄り添う沙織。
人前でこうした態度をしてくる辺り、大分不安を感じていたんだろう。
そんなイチャラブムードの俺達に構わず、ヴィシュムの奴が声を掛けてきた。
「改めて伝えておくが、お前と敵対するつもりはない。後で詫びの品を届けさせよう」
そういって早足で退室していくヴィシュヌ。
俺も付き合いが長い訳じゃないが、どうも慌てているようにも見える。
他の連中も問題がひとつ解決したということで、ヴィシュヌのあとに続き部屋を出ていった。
「じゃ、俺達も部屋にもどるか」
ペイモンを含め、部屋を退室していく俺達。
最後に部屋に残されたのは、泣き叫ぶギュスターヴと、それを慰めるエルネスタの二人だけだった。




